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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第五章 シャルロッテ嬢と噛みつき男

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248話 儀礼です

 支度がようやく済んだ連絡を受けて、父と兄もやってくる。

「やあ私の小さなお姫様。今日は特に美しい」

 抱き上げようとする父に、母が声を上げて牽制する。

「だめよ! シワになったらどうするのあなた。本当に無頓着なのだから」

 呆れ顔で母にそう叱られて、父はしゅんと項垂れた子犬のようになってしまった。

 確かに抱き上げられでもしたらシフォンの位置は変わるし、着崩れしてしまう。

 せっかくの時間を掛けた着付けが台無しである。

 このへんは男性にはわからないことかもしれない。

「私は抱き着かないから安心してシャルロッテ。いつもの淡い色のドレスもいいけれど、黒はまた格別だね」

 父の屍を越えたのではないが、兄は両手を上げてみせるとそつのない言葉で褒めてみせる。

 この兄は女性の扱いは父よりも上手いのかもしれない。

 褒められるのは嬉しいが、そもそも兄はハイデマリーの魔術儀礼の装束も見ているだろうし、それを思うと少し気後れした。

 あの完璧で美しい令嬢はきっと所作も美しく、儀礼のすべてをこなしたのだろう。

 どうか転んだり、手順を盛大に間違えたりしませんようにと心の中で祈ってみた。


「では、大聖堂へと行こうか。家族みんなでドラッヘンハイム大聖堂に行くなんてシャルロッテの浄化の儀以来だね」

 父が気を取り直して母の手をとり、兄は私に手を差し伸べてエスコートをしてくれる。

 私が王宮に出入りするようになって、1番変わったのは家族で社交の場へ出る事が増えた事だろうか。

 前は父だけで出席していた王都での催しも家族同伴となって父は嬉しそうである。

 母はもともと子供が大きくなるまでは貴族付き合いを控えるつもりでいたし、私は引きこもり状態であったので皆で社交界に出るのは予定より早まった感じがある。

 王子主催の王宮茶会が無かったとしたら、この魔術儀礼が私の初めての王宮デビューであったかもしれないのだ。

 そう思うとやはり大事な場であるのだと、身が引き締まった。

 2年前、ハイデマリーと初めて会って傷付いた彼女の為にこの場所で偽物の浄化の儀をした。

 ついこの間のような、随分昔の様な不思議な感じだ。

 今日、私は同じ場所で魔術儀礼を受けて、魔法というこの世界の不思議の一端に触れるのだ。

 神話的な不思議なものとは別な、魔法という存在。

 もしかしたら同じものか、その延長線上にあるものかもしれないけれど、私にはまだまだ未知なものだ。


 大聖堂で今日儀式に出るのは、全員貴族の子供であるという。

 地母神教的には貴族も庶民も差をつける意図はないそうなのだが、無用なトラブルを避ける為棲み分けではないが貴族は貴族のみと決められているそうだ。

 身分によって警備の人数も変わるだろうし、それは仕方がないような気がした。

 爵位は無いが上流や中流の信心深い家庭の子供や、大聖堂での儀礼に格付けを見出している成金の令息などは一般受け入れをしている日に出るのだという。

 大体の国民は住んでいる場所の近場の教会での儀礼に出席するもので、わざわざ王都の大聖堂まで出てくるのは余程生活に余裕が無ければという訳だ。

 儀礼の手順は前もって出席の書状を送り、大聖堂に並べられた長椅子に着席して家族と待ち名前を呼ばれたら黒山羊様の像前の祭壇へ行き、祭司長に魔法の選定を受けるというものだ。

 魔法の適正を測るのも、教会の大事な仕事なのだという。

 魔法師は軍部や冒険者になる事が多いので、てっきりそちらが取り仕切るのかと思ったが、そうではないようだ。

 大聖堂の扉の前は、今日儀式を受ける貴族の子供の家族や小間使いや従僕でごった返している。

 普段よりも衛兵も多めに出ていて、その騒めきはなんだか小学校の運動会の様だと思ってしまった。

 子供は緊張と楽しみが混じったような表情を皆浮かべて、親が気遣って声を掛けたりしている。

 扉の前にある長机で聖教師が出席者の確認をとるので、自然と長い列の様になっていた。


「本日は善き日で。エーベルハルト侯爵家、シャルロッテ・エーベルハルトとその家族です」

「よくいらっしゃいました。黒山羊様の祝福を」

 父と聖教師が祝辞のやりとりをしている。

 非常に効率が悪いとは思うが、それも大事なことなのだそうだ。

 私達の身元と人数の確認も終わり、中へと促される。

 私が大聖堂の扉を潜ろうとした時、どんっと私の背中に何かがぶつかった。

 衛兵が咄嗟に身を乗り出すのが目に映る。

 粉っぽい空気と甘い匂いが広がった。

 何か煙っている?

 火の気はないようなのに。


 振り返ると見た事がない小間使いの服装の娘が、青い顔でガタガタと震えている。

 私の後ろにいる母の顔が険しく歪んだ。

 何があったというのだろう。

「あら? うちの小間使いが失礼したわね」

 私がこの場を把握する前に、ケンのある声が響いた。

 そちらに目を向けると、茶色の髪をツインテールの巻き毛にした黒のマントの少女がいた。


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