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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第五章 シャルロッテ嬢と噛みつき男

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247話 装束です

 儀礼装束といってもやはり庶民と貴族では違う。

 一般的に中流階層以下の人々は、普段にも使えるように前留めの冬の防寒着を兼ねる動きやすいものを仕立てて出席する事が多いので、冬から春の時期に多くの子供が儀礼を受ける。

 一張羅ではあるもののタンスの肥やしにするほど生活に余裕はないので、成人するまで繕いながら大切に使うのだ。

 大人になるまでの正装としても使えるので、なるだけ体形の変化に影響されないデザインが人気である。

 使わなくなれば古着屋へ売り幾ばくかの金額にすることもできるし、古くはなっても下級階級の子供には需要があるので安定して取り扱われているという。

 反対に貴族は自分では動かなくとも良い事を示すかのように、長めで動きにくそうな外套を好んで採用したり、その時限りとばかりに体形にピッタリとしたものを仕立ててくるのだ。

 汗をかく事とは無縁であるかというように、社交シーズンの初夏から秋の大聖堂での魔術儀礼に出席するのが常である。

 私もコリンナと一緒に出席を合わせたかったこともあり、例に漏れず夏の儀礼に出席となる。


「今回もアデリナが頑張ってくれたお陰で、洗練された装束になったのよ。シャルロッテも当日を楽しみにしてね」

 いつものことながら、採寸には付き合ったもののデザインはアデリナと母がああでもないこうでもないと頭を突き合わせて話し合いながら決めたのだ。

 私も途中までは参加して少し意見を出したりしたけれど、おしゃれに対してそこまでの情熱がないので途中退場してしまった。

「ルドルフの時はレーヴライン侯爵令嬢も御一緒したのだけれど、それは美しいローブだったのよ」

 その頃はまだ私は引きこもっていた頃なので見学にも出なかったのだけれども、ハイデマリーの儀礼装束を見逃したなんて残念だ。

「彼女は黒一色のくるぶしまであるローブだったのだけれど、黒のレースとビーズで飾られて光の加減でそれはもう煌めいて……。マントに派手なドレスの組み合わせの令嬢が多い中、伝統に乗っ取った形のローブの厳格な雰囲気と共に、少女らしさも出していて話題をさらったのよ。あの後から、古臭いと言われるローブをアレンジして出席する令嬢も増えたのよね」

 さすがは、ハイデマリーである。

 黒く長いローブは、さぞかし彼女の銀の髪に映えただろう。

 想像するだけでも綺麗なのだから、実際に目にした人達はため息をついて見惚れたに違いない。

 カメラや写真技術が遅れているのが残念でならない。

 なんならハイデマリー写真集とか出して欲しいものだ。

 私はモデルの様にポーズを取って微笑むハイデマリーを思い描きながら自分がカメラマンのように、むふーっと満足気に頷いてみせた。

 だけれどカメラなんて気軽に使えるようになったら、魔術儀礼の場は子供の撮影会に変わってしまってシャッター音で溢れてしまいそうな気がする。

 真面目な場としてはそういうものは無い方がいい気がした。

 なんでもあるのは便利だけれど、不便も悪くないものだ。

「楽しみだね、シャルロッテ。可愛く着飾ったところを早く父様に見せておくれ」

 そういうと父は私を引き寄せて、額に口づけをした。

 どうやら私がいろいろ思案しているのを、自分の魔術儀礼のファッションを楽しみにしているように受け取ったようだ。

 私としては装束よりも魔法を使える事になるのが楽しみなのだけど、否定する事でもないのでにっこりと笑っておいた。


「今日はいい天気になって何よりですね」

 貴賓室にはアデリナとその従業員が、私の準備に詰めかけている。

 髪は黒の細いリボンで幾つも飾られ、襟も高くローブというよりはベトナムのアオザイのようなカッチリとしたフォルムである。

 光沢のある黒い生地で出来ており、金の糸で裾から腰にかけて美しい刺繍が施されていた。

「シュピネ村の最上級の金糸ですよ。これはまだ市場に出始めたばかりですからね。シャルロッテ様にしかこんな贅沢は許されないでしょう。お針子達も腕によりをかけました」

 そのお針子というのはどこの人間なのかは聞かないでおいたが、やはりこの刺繍はシュピネ村の技術の様な気がした。

 着付けが終わると仕上げに右肩から左へ、左肩から右へ大きなシフォンの布が前後に流してかけられる。

 その堅めの印象のローブを、柔らかな黒いシフォンが包むことで少女らしさを出し、シフォンから透けて見える金糸刺繍模様が神秘的に目に映る。


「アデリナ、今日も最高よ」

 母の絶賛の声に、彼女も満足気だ。

 アオザイのような男子学生の学ランを長くしたようなこの世界ではかなり斬新なデザインである。

 ハイデマリーが伝統的なローブを洗練されたデザインで昇華したように、アデリナは新しい儀礼装束に挑戦して流行を作ろうとしたのかもしれない。

 大掛かりなファッションショー等がないこの時代、流行を仕掛ける場も限られてくる。

 すでにアデリナは名を挙げているのだが、伝統的な催しを自分のデザインで席巻したい野望も持っているのだろう。

 モデルが背の低い子供の私で申し訳ないけれど、なるだけ衣装に負けないように堂々としていようと気持ちを新たにする。

「控えの間におりますので、なにかありましたらいつでもお声掛けを」

 アデリナはそういうと、やれることはやったという達成感を漂わせつつ貴賓室を後にした。


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