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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第五章 シャルロッテ嬢と噛みつき男

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240話 清き手です

「いや、失礼。コリンナ様の言うことも、もっともです。台座には矩形の粘土部分があり、そこに名前を書くそうです。そこだけは粘土なのでその都度消したり出来るのでしょうね」

「呪いの品なのに、変なところが実用的なのですね」

 そんな像を、誰が作ったというのだろう。

「『Y』とは悪徳と背信の神を指すともいわれています。地母神教の栄えるこの国では、悪漢達の神というくらいしか聞きませんが」

 悪徳と背信の神は、罪を捧げられる事を喜ぶという。

 罪人を黒山羊様の目から隠してくれると言われる為、ゲン担ぎを好むならず者達に好まれるというが商業国家では成り上がる為に犯罪を良しとする人間もいそうである。

「悪徳と背信の神というと、頭のない神様でしたっけ……。もし、その様な神が横行するというなら、どうなってしまうのでしょう」

 やはり、その身を持って神話の生き物を知るハイデマリーには、まだこういうを聞き流すにはまだ時間が足りないのかもしれない。

 手に震えがみられる。

「ハイデマリー様! 大丈夫です。この国は地母神教に守られているし、シャルロッテ様もいらっしゃるではないですか」

 コリンナが元気づけるように、ハイデマリーに声をかけた。

 私も彼女を抱き寄せる腕に力を込めた。

「そうですわね。私としたことが、お話の最中にこんなに不安になってしまうなんて、お恥ずかしいです」

 ハイデマリーは自分の頬に軽く片手を当てて、目を伏せながらロンメルへ謝罪する。

 ロンメルも彼女の美しい所作に見入ってしまったのか、お嬢様方にするお話ではありませんでしたと謝罪した。


 怖がっている最中でも、貴族の令嬢として完璧といえるハイデマリーに私は感心してしまう。

 この銀色の髪の令嬢は王都学院へ入ってから、ますます美しさに磨きがかかったようである。

 背も伸びてスラリとした肢体に、成長を示す胸部。

 まだ年若いとはいえ、女性らしさを表すその体は大人顔負けである。

 私は自分の薄い胸板を彼女と比べながら、ため息をついた。

 背も小さいし、なかなか自分自身の成長を感じられない。

 彼女に起こった不幸な出来事は、深い傷をつけたのと同じくらい彼女にとって得るものが大きかった。

 それは目に見えない家族からの愛や、心配する友人や周りの人間の温かさ。

 そして不幸を遠巻きに楽しむ人々の悪意といった少女が知るには酷な現実。

 昔の私の様に、家に引きこもってもおかしくないことであった。

 だけれど、それらに晒されながらも彼女は立ち上がり立ち向かったのだ。

 そんなことを考えていたらつい、よしよしと頭を撫でてしまった。

 これにはロンメルも驚いたようだが、ハイデマリーは私の行動にすっかり馴れてしまっているのでされるがままなのだ。

「それにしても『手』のお話興味深かったです! 怖いけれど、そんなものがあるなんて知りませんでした」

 コリンナが子供らしい好奇心で目を輝かせている。

「反対に、砂漠の国では『ハムサの手』と呼ばれる手の形のお守りもありますし、今はこの王国の『清き手』も話題ですしね。身近なものだからこそ込める思いも違うのかもしれませんね」

「『清き手』のラーラ様のご活躍は、素晴らしいですものね。『鮮血の凶姫』のお名前も凛々しくて好きですが」

 ハイデマリーはラーラをお気に入りの様子だ。

 そう、ラーラの異名がシュピネ村の一件の後に、また増えたのだ。

 黒山羊様から清き刀身を持つ手を贈られたという彼女は、マーサの柔らかな忘却と共に、最初はその贈り物が何なのか誰にもわからなかった。

 調査の結果、辛うじて騎士団に伝わる旧い魔導書に「刀身を清める」という魔術があり、それと関係しているのではないかとの話になったのだ。

 それは、物理攻撃の効かない神霊や邪な存在を切る為に、武器に施される騎士団で秘匿される術である。

 勿論、魔術でありその行使には生贄と正気を捧げなければならないのだが、ラーラは代償無しに手にした武器に清浄な気を纏わせることが出来るようになったのだ。

 検証の結果、彼女の手を離れると効果は徐々に落ちてしまうので清めた刀身の大量生産などの軍用化は出来ないのだが、そういう存在に抗する力を彼女が手にした事は王国としても心強いばかりである。

 その検証に邪なものが眠ると言われる魔窟へ行った面々が、満足気なラーラを除いてげっそりとして帰ってきたのは気の毒であったが。

 そんな訳で黒山羊様に祝福をされた「清き手」のラーラは、その武勇をまた高めたのである。


「図らずも『手』の談義になってしまいましたね」

 ロンメルの言葉に、他にもきっとあるだろう手を模した品々を図書室で調べるのもいいなと思った。

 目を模した呪術具やお守りは知っていたけれど、本当にいろいろなものがあるものだ。

「そういえばシャルロッテ様は(トレーネ)湾の方へ行かれたことは?」

 思い出したように商会会長が質問をした。

「南のあちらにはお祖母様が住んでおりますが、まだ足を運んだことはございませんわ」

 王国の南は海に面していて湾になっている。

 温暖な地域で、北風の厳しいエーベルハルト侯爵領とは別天地だ。

 私の酷い馬車酔いのせいで、祖母の住む土地へはまだ行ったことがないが、酔いも克服した事だしそろそろ訪問するのもいいかもしれない。


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