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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
幕間

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コリンナ嬢と回想録2

 そんな頃、同じく西の土地を治めるシュヴァルツ男爵家の令嬢の話が良く聞かれることになりました。

 シュヴァルツ男爵領は取り立てて秀でるものも無い一般的な領地であるので、その令嬢が話題に上るのは珍しい事です。

 何でも魔術儀礼も済ませていないのに、街中で魔法を行使したということだそうでした。

 人の思念が飛び交う場所で魔法を使うのは、普通は無理な話なのです。

 これには大人達も驚いて、男爵令嬢を賢者の再来だと持て囃し王宮の軍部へ迎え入れたとの事でした。

 その結果、王国の西にもう1人の王太子殿下の婚約者候補が生まれる事になったのです。

 禁忌の術へ対抗するには、高い魔力と精神力が必要であるといいます。

 王族は魔法師に護衛されながらも本人達もその資質を持っています。

 その為、優秀な魔法師を伴侶と迎える事も無い話ではないという理由からでした。


 賢者を排出したシュヴァルツ男爵領は沸きに沸いたし、賢者に目通りしようと貴族や商人が集まり活気も出たそうです。

 賢者と呼ばれる少女は魔石を使って熱風で髪や洗濯物を乾かす道具や、従来にない新しい料理等を発案し魔力だけではなく、知識と発想も周りに見せつける事になりました。

 その商品で領地も潤い、シュヴァルツ男爵領内からは王太子殿下の婚約者にと声も高まっていったそうです。

 私と変わらないのに、そんな才能溢れた子供がいるなんて桜姫様と同じく神様は贔屓が過ぎると思わずにはおりませんでした。


 ただし、シュヴァルツ男爵令嬢への私の印象は最悪でした。

 名を馳せるようになってから何度かお茶会で顔を会わせたのですが、地味でパッとしない領地の娘には用も無いようで目を合わそうともしてくれませんでした。

 もっと小さい頃はそんな風では無かった気がするのに、地位と名声はここまで人を変えるのかと呆れたものです。

 お金持ちには可愛い顔でにこやかなのに、それ以外には不遜な態度で蔑み、それどころか自分はあなた達とは世界が違う等と言い放ちました。

 その目はこちらを無学な野蛮人でも見るかのような、何ともいえないものでした。

 頭が良くて魔力があっても、皆がその無作法に閉口しましたし、取り巻きが出来上がると、それは更に加速していったのです。


「コリンナは王太子殿下に興味はないの?」

 ハイデマリー様が、お茶を飲みながら私にそう聞いた。

「王子様を見てみたい気がしますが、礼儀や作法に厳しい生活は私は想像出来ません。ハイデマリー様と王子様を取り合うなんて無理だもの!」

 今だって王子様の事より次はどのお菓子を食べようか悩んでいる私だ。

 私の心には王子様の場所はないと断言出来る。

 私の言葉にハイデマリー様が少し頬を赤らめた。

 ハイデマリー様は侯爵令嬢という身分から、何度か王都へ行ってもいるし王子にも謁見を許されているのだ。

 実際に会って交流しているのだから、彼女が婚約者に抜擢される可能性は高い。

「王太子殿下のお相手はまだ決まってはおりませんし、コリンナの桜姫様も候補として名高いですわ」

「王子様より、それですよ!桜姫様に会うにはどうしたらいいと思いますか?本当にいるんでしょうか?ああ、どうにかしてお会いしたいです」

 夢見心地の私に、ハイデマリー様は笑ってみせる。

「コリンナは相変わらず桜姫様に夢中なようね。もし私が先にお知り合いになれていたら、きっとコリンナに紹介いたしますわ」

 伯爵家の私から侯爵家の桜姫に声を掛けるなんて出来ないのだ。

 だからと言って、あちらから声をかけてくるのを辛抱強く待つなんて出来そうにない。

「必ず!必ずお願いします!ああ、早く会ってみたい。どんな声をしてるかしら。お優しい方だといいなあ」

「コリンナくらいですわよ。私に媚びず桜姫への繋ぎにしたがるのは」

 その時見せたどことなく寂しそうなハイデマリー様の笑顔は、高位貴族の孤独さを物語っていたのかもしれない。


 王妃殿下が隠れられてから、ほとんど公務に出られたことの無い王太子殿下が王宮茶会を開催することになりました。

 王太子殿下の婚約者として年回りの良い私にも招待状が届き周りが慌ただしくなるのを身をもって感じます。

 正直、婚約者の立場には興味が無いのだけれど、王宮茶会のお菓子は気になります。

 それに、桜姫も出席するかもしれないし……。


 ある程度の爵位も考慮されているので、あの嫌味なアニカ・シュヴァルツは招待されていなければ良いのだけれど。

 賢者と呼ばれることを傘をきて、無理やり来ないことを祈るしかありませんでした。

 最近、ハイデマリー様の様子もおかしいし、婚約者の選定で神経質になっているのかしら。

 随分、彼女を取り囲む人間も変わった気がする。

 前は私のような話好きの子達が常連で、にこやかに人の話を聞くのが好きだと言っていたのに、今は自分がどれだけ婚約者として相応しいかを語り、声高に賛同する取り巻きに囲まれてしまって敷居が高くなってしまった。

 あんな方では無かったのに、本当にどうしたのかしら。


 ああ、お茶会は夢のようでした。

 馬車を停める広場で、私は幻と言われた桜姫を初めてこの目で見たのです。

 桜の花があしらわれたドレスに美しい波打つ髪。

 まるで風の精霊の様にふわりと馬車を降りて、私は女神様かと思ってしまったの。

 王太子殿下と挨拶される様も絵物語の様で素敵だったけれど、そこにナハディガル様が現れたのだもの。

 私だけでなく、周りの人間は息をするのも忘れてしまいそうだったわ。

 私のような子供が想像した物語の100倍は素敵で、まるでお芝居をみているようだった。

 その後の王宮茶会では、並べられたお菓子の誘惑に負けてしまったのだけれど、なんと桜姫様とお茶をご一緒したりハイデマリー様に悪いものが憑いていたり、何だか考えられない事ばかりが起きて大変な騒ぎになりました。

 だけど、全部シャルロッテ様が良くして下さったの。

 騒動の後、倒れられて心配したけれど元気になられてなによりでした。


 実際の彼女は私の想像よりも優しく聡明で大人びているのに、見ているこちらがハラハラするほどかなりの世間知らずでした。

 ひとりにしておいたらすぐに拐われそうな程、無防備で人を疑わない感じです。

 きっと「人攫いですが、一緒に付いてきてくれませんか?」とバカ丁寧に申し出があれば、そのままにこやかに行ってしまうことでしょう。

 エーベルハルト侯爵様は背が高くてかっこいいけれど、シャルロッテ様をこんな箱入り娘にしてしまった事は罪深いというものです。

 悪意の無い侯爵家の館だけで暮らしていた彼女は、まさに平和ボケと言うしかないのです。

 馬の目を抜く貴族社会でやっていけるのか、私の方が心配になってしまうくらいでした。

 彼女の侍女のソフィアも同じ様に感じていたらしく、シャルロッテ様をお守りする目的の元、私達は仲良くなりこの先共闘する事を誓ったのです。


 その頃から私の眠る前の日課であった桜姫と詩人の恋物語はなりを潜めて、シャルロッテ様の元でお仕事をしている私の夢が芽生えました。

 聖女様となられて、普通の何倍もお忙しそうになってしまったのだもの。

 私がお手伝いすることは沢山あるはずだ。

 彼女の目となり、耳になりたい。

 いつも彼女を支えたいと思ってしまう。

 普段は人を疑わず頼りなげな彼女は、時折、ハッとするほど大人びて見える。

 周りにいる誰よりも老成しているような面持ちで、そして思っても見ない提案をして周りを驚かせるのだ。

 そのアンバランスさが、より周りから神秘的に見える演出のようでした。

 彼女の中には身分というものが存在せず、誰もが平等であるというようです。

 勿論、礼儀の上での差別化はしているのだけれど、必要がなければきっと誰にでも同じように接するのでしょう。

 それこそが異質であり、彼女を聖女たらしめるものかもしれませんでした。

 聖女。

 その道は大変なものだと思います。

 だけれどそばで一緒に歩きたいと幼いながらも私は決意し、その後の人生を決定づける事になったのでした。

次から「コリンナ嬢と冒険譚」全3話になります

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