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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第四章  シャルロッテ嬢と紡ぎの手

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233/651

233話 黒ずみです

 それはいずれも銀色に美しかったというのに、黒ずんでしまっていた。

 あの毒蜘蛛を首に押し当てられた時、黒山羊様が降臨した時に熱を持ったこの2つは力を使い果たしたかの様に、光を失い黒く姿を変えていた。

 お守りの腕輪はともかく、代々祭司長が身につけ祈りを込めてきた銀の像がこうなってしまったのには申し訳なくて仕方がない。

「どう、お詫びすれば……」

 もごもごとする私を目にもせず、祭司長はそれを見て滂沱した。

 目からは涙が溢れ、嗚咽が漏れないようにか口を自身の手でふさいでいる。

 どうしよう。

 ご老人をこんなに泣かしてしまった。

 長年大事にしてきたものが、こんな有り様で戻ってきてはそれは落胆するだろう。

 ああ、せめて銀磨き粉で磨くなり何なりしてから見せるべきであったのだ。

 人払いをしたせいでフォローしてくれそうな人もいないし、かといってテーブルの上の呼び鈴で人を呼んで咽び泣く老人を任せるのも変な話だ。

 結局、私はゲオルグが落ち着くまでその場で静かに待つ他無かった。


「聖女様……」

 やっと、喋れるようになったのか赤い目で私に祭司長は訴える。

 私は、損害賠償を覚悟して身構えた。

「この様な奇跡の遺物をありがとうございます」

 両手で手を握られて、何だが感謝されてしまった。

「これは代々の祭司長が捧げた祈りが、黒山羊様の降臨を導いた証なのです。でなければどうして教会も礼拝堂も無い村の中を、落ち仔もいない状況で黒山羊様が覗くことが出来ましょう。この像を通してあなたに起こった事を知り、この像の捧げた祈りが道標になり降臨されたのです。なんという、なんという栄誉であることか」

 そういえば村や人の住む場所は縄張りのようになっていて礼拝堂などが無い場所は黒山羊様が見る事が出来ないから、この人達はその教会等を作りまくっているのだった。

 確かにこれが無ければ、私は無事では無かったかもしれない。

「お守りは力を使うとこうして姿をかえるのですよ。腕輪の方の銀はヴィエランダー産でしたな? 通常の銀だと1度で駄目になりますが、神話の土地の銀は力を持つので何度も蘇るのです。腕輪は礼拝堂にて浄化の儀を行いましょう」

 とりあえず老人を絶望させたのではなくて、ほっと胸を撫でおろした。

 私は呼び鈴をチリンと鳴らしてから、礼拝堂へ場所を移す事を使用人に伝える。


 エーベルハルトの私設礼拝堂に足を運ぶと、聖教師のフランクが快く迎えてくれた。

「おかえりなさいませ、聖女様。旅から帰りすぐに祈りを捧げにいらっしゃるとは、黒山羊様もお喜びでしょう」

 実は腕輪の浄化が目的で来たとは言い出せずに、ここはにっこり笑っておいた。

「クロ様もビー様も、聖女様がお戻りになって良かったですね」

 ビーちゃんが、黄衣の王の信徒でもないフランクに懐いている。

 どうやらクロちゃんばかり構うゲオルグを見て、寂しいのではとフランクがビーちゃんの相手をしていたようだ。

 なかなか優しいではないか。

 ビーちゃんは放っておいても、飛び回ったり自由に過ごすので実際のところ平気だったのだろうが、自分に向けられた温かい気持ちを無碍に出来なかったのだろう。

「これこれフランク。黄衣の王の従者様の接待もいいが、これから浄化の儀の準備をしておくれ」

 布に包まれた黒ずんだ腕輪を見るとフランクは感心したように頷いた。

「これは立派に護りの勤めを果たされたようで、念入りに浄化しましょう」

 そう言ってビーちゃんを頭に乗せたまま、祭具室へ行ってしまった。

「黒山羊様の銀像の事は、今は内緒でお願いしますぞ。奇跡の遺物をあの若造が目にしたら、感動で半日は仕事になりませんでな」

 ゲオルグが可愛らしく、片目を閉じてウインクをしてみせた。

「銀の像は浄化しなくていいのですか?」

「こちらは聖遺物として、大聖堂に収める予定です。黒山羊様の降臨にひと役買ったとなれば代々の祭司長も墓の下で喜んでいるでしょう」

 墓の下か……。

 この世界の死生観は把握していないが、輪廻転生等はありそうだ。

 実際、私は転生したわけなのだし。

 因果応報の概念もあるので、来世の為に徳を積むやそういう側面もありそうだ。

 祭具室からフランクが籠につめたあれこれを、がちゃがちゃと音を立てながら運んでくる。

 祭壇にそれを置くと中身を取り出した。

 私は何の知識もないままハイデマリーの偽儀式として浄化の儀を行ったのだが、正式にそんな儀式があるとは知らなかったので好奇心が疼く。

 籠の中には糸で巻かれた葉っぱや何枚もの貝殻や畳まれた布が入っている。

 先程音を立てていたのは、この貝殻であろう。

 フランクは腕輪を見ながらちょうど良い形の貝を選んでいる。

 興味津々な私にゲオルグが声を掛ける。

「浄化の儀は教会内で行われるものなので、目にするのは初めてですかな?」

「ええ、お祈りするばかりで、こういう事は無縁ですもの」

 ゲオルグは少し考え込むと、ひとり頷いでこう申し出た。

「聖女様ともなりますと、今後ご自身で浄化をする場面もあるかもしれませんな。簡単に説明を交えましょうか。正式な道具がなくとも気持ちと見立てられる物があれば出来るものなので、覚えておいて悪くはありませんぞ」

「まあ! ご教授願えるなんて光栄です!」

 何だが魔法使いの弟子のような気持ちになって私は、その提案に飛びついた。

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