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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第四章  シャルロッテ嬢と紡ぎの手

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219話 不覚です

 ゆらゆらと水に浮かんでいるよう。

 誰かに抱えられて移動している?

 重い瞼が、また私を眠りに引き込んでいく。

 体の揺れに合わせるように、意識が上下する。


 この少し饐えた臭い。

 ひんやりと取り囲む空気。

 これを私は肌で知っている。

 私は誰かに抱きかかえられて、あの地下室への階段を降りているの?

 なんであんな暗い場所へ連れて行こうとするの?

 もし、あの暗闇の部屋に閉じ込められたら……。

 そんな状況が頭にわいてきて、私は恐ろしさに身震いした。

 陽もささず窓もない地下室で暮らすなんて、耐えられない。

 本来なら驚いて体を起こすところだが、不自然な眠気が私の体の自由を奪っていて、為す術も無く運ばれている。


 なんてこと。

 私達は薬を盛られた?

 それともそういう魔法が?

 眠りに落ちる前に、ラーラ達がドリスを批難する声を聞いた気がする。

 私がしっかりしなかったせいで、彼女達を巻き込んだのだ。

 一緒に台所に立つのではなかった。

 私はあの時、前世で母と台所に立った時の事も思い返して彼女を慕ってしまったのだ。

 いいや、あの時だけではない。

 その前からだ、何度も怪しんだはずなのに、私の思慕が邪魔をしたのだ。

 もう少し、ドリスと一緒にいたいと。


 ぎぃっと、音を立てて扉が開く。

 私の頭の中には、あの時の暗闇でベッドに横たわる老人が浮かぶ。

 ドリスは、私をどうするつもりなのか。

 ほどなく、閉じた瞼を通して部屋に灯りが点されたのがわかった。

 幾つもの足音、何かを動かす音、その反響具合からかなり広い空間にいる事がわかる。

 私があの日、立ち入らなかった地下の別の部屋のようだ。

 あの部屋ではない。

 それだけで私は少し、安堵する事が出来た。


「この祭壇に置くのよ。そっと、そっとね」

 ドリスが、私を運んでいる何者かにそう指示している。

 何か硬いものの上に、私は丁寧に降ろされた。

 何かではない。

 ドリスの言葉が本当なら、これは祭壇なのだろう。

 ならば、ここはアトラクナクア教の祭儀の部屋?

「その3人は、そっちの長椅子にでも座らせて」

 どさどさと音がした。

 それと共に唸り声があがる。

 3人というなら、マーサとラーラとトニだろう。

 皆、捕まってしまったのだ。

 いつでもこの村を去る事が出来たのに、どうしてこうなってしまったのだろう。

 仲良く出来ると思った。

 村の力にもなれると思った。

 私は甘かったのだ。

 私の頬を、後悔の涙が伝う。

「あらあら、シャルロッテちゃん。怖い夢でも見ているのかしら? 大丈夫よ、私が傍にいるわ」

 ドリスのものと思われる指が私の涙を拭った後、額に軽いくちづけが落とされた。

 ゾッとした。

 こんな事をしながら、この人の私への好意は本物なのだ。

 ある一角から、ゴソゴソと音が聞こえる。

 この状況で、耳しか頼りにならないとは情けない事である。

 どうにかして、活路を開かなければ。

 足音や息遣いから、大勢ここにいることがわかる。

 まさか、村ぐるみとでもいうのだろうか?


「木偶どもはそちらの隅で控えてらっしゃい。お仲間が増えるのは嬉しいでしょう? 1回分吸われるのが減るのだもの。でも今度からアリッサとこの子の食事も増えるから、あなた達の脳みその減りも早いかもねえ」

 楽しげな、いつもの通り楽しげなドリスの声が響く。

 ひぃという男達の小さい悲鳴。

 吸われる?

 脳みその減り?

「人を食い物にしてきたあなた達が実際に食べ物になった気分はどう? あなた達と違って私は食いつぶしたりしないから安心して。ほんの少しずつ長い時間をかけていただくわ。長生き出来るよう大事にしてあげる」

 野太い声の男達のすすり泣きと命乞いが聞こえた。

 ドリスが人の脳を吸う?


 私は必死に今までの事を、思い出していた。

 アトラクナクア教の奇跡、領主代行の死に様、村の補修をしていた男の言葉、老婆の話。

 脳を損傷した様な、認知症の様な症状。

 乱暴な男が大人しくなる。

 人為的に、人を大人しくさせる方法。

 私は思い当たった。

 ロボトミー手術。

 ノーベル賞を受けた人道から離れた精神外科手術。

 眼窩や鼻の奥から杭を打ったり、頭蓋を開頭して前頭葉にメスを入れることにより精神病患者の心を安定に導く方法。

 私の生きた時代にはすでに、過去の忌まわしい術式とされて小説や映画の題材になっていた。

 ドリスは何らかの方法で脳を損傷し、彼らを大人しくさせていたのだ。

 そんなものは神の奇跡でも、なんでもないではないか。


「シャルロッテ様に何をするつもりだ!」

 ラーラの怒号が地下室に響いた。

「あらあ、怖い事。もう起きたの? シャルロッテちゃんに合わせて薬を盛ったせいか、やっぱり効き目が切れるのが早いわね」

「一服盛っただと? シャルロッテ様のお心の広さに付け込み姑息な真似を。その行為、万死に値する!」

 彼女の威勢に押されてか、また男の怯える声が聞こえてくる。

「そんなに荒げないで? 木偶達が怖がっているじゃない。信じられないでしょ? この人達、皆荒くれ者で女を道具、いいえ道具以下に扱ってきた人たちなのよ。アトラクナクア様のお陰ですっかり毒気も失せて可愛らしくなっちゃって微笑ましいわよね」

 まるで出来の悪い子供をあやすかの様なドリスの声であった。


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