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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第四章  シャルロッテ嬢と紡ぎの手

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209/651

209話 喧騒です

「先ほども言いましたが、学ぶことに年齢は関係ありませんわ。」

 私の言葉に、ドリスは子供のような希望に満ちた目をしている。

「村の中に先生として適した人がいないなら、基礎学問の教師を村に迎えてはいかがでしょう? 男の方が難しいようなら女家庭教師(ガヴァネス)を雇って工房の一角で、読み書きと算数などを習う手習い所を作るとか? お仕事の合間に授業を受ける形ならさほど支障も出ないと思うのですが」

「大人なのに、勉強なんておかしくはないかしら?」

「おかしいだなんて! 立派なことですわ。実は今、文官の学校を設立するお話がありますの。まずは村の人で読み書きが出来る人に教わって習うことに慣れておいて、その後文官学校から村へ教師を迎えたりも出来ますし、仔山羊基金が設立にかかわりますのでお力になれます」

 読み書きの必要性はわかっているのだろうが、日々の生活に追われて勉強どころではなかったのだろう。

 少しでも識字が出来れば、仕事にも役に立つし何より書状の遣り取りに人を介さなくて済むのは大きい。

 曲がりなりにも村長であるし、村自体で仕事をしているのだからその辺は彼女本人が身に染みているのだろう。

「そうね、自分で読み書き出来るようになるのも、私の夢のひとつだったわ……。諦めていたけど絹蜘蛛の糸と、蜜蝋軟膏が軌道にのればひとりくらい教師を雇うことは可能よね? トビアスの負担にならないなら、そうしたいわ」

「勉強が身につけば負担どころか、トビアス様のお手伝いも出来るようになりますわ。子爵領はまだまだ代替わりで落ち着いていませんし、きっと皆さんがやれることは多いです」

「そうしたら、トビアスにも余裕が出来るわね? あの優しい子は私達の生活まで考えて贅沢をしたことなんてないのよ。ああ、なんだか夢みたい」

 村長は私の手を両手で握って目を潤ませている。

「シャルロッテちゃん、ありがとう。トビアスと村の為に良くしてくれて。ああ、ずっとシャルロッテちゃんがいてくれたらどんなにいいか」

 だんだんと、その眼差しに熱がこもりちょっと私は少し怖くなった。

「今までシャルロッテ様が成してきた偉業は、これくらいではありませんよ? 神を呼んだかと思えば、神を退け北の大地には豊穣をもたらしたのですから」

 ラーラが割って入ってくれたが、ドリスの熱に充てられてか少々暴走を始めたようだ。

 止めようと思ったがドリスがその話をよく聞かせてくれと熱心にラーラにいうので、上機嫌のようだ。

 結局、止め時がみつからず詩人の元で剣術だけでなく過剰な修飾語を学んだ彼女は存分にその腕を発揮した。

 私の功績はほとんどクロちゃんとビーちゃんの力もあっての事なのだが、思い込みとは恐ろしい。

 詩人が乗り移ったかのようなラーラの講談師のように迫力ある語り口は、私の知っている様で知らない聖女の物語を話し出した。

 脚色が過ぎるのではないだろうか……。

 彼女がそのうちに詩人になると言い出したら、どうしよう。

 そこまでナハディガルを師事しないでいいのだけれど。


「そこで慈悲深きシャルロッテ様が……」

 ラーラの熱い語りは、村の入口の方から聞こえる喧騒で中断された。

 何やら揉めているような騒ぎである。

 皆が外に目を向けようとしたところ、大きな声が響いた。

「アリッサー!! どこにいるんだ!!」

 野太い男の声だ。

 それを聞くとドリスは、同席しているアリッサを振り返って家を出ない様に言い含めて外へと出て行った。

 突然の事に困惑する私達は、そのままアリッサへ注目する。

「あれは……。兄さんの声……」

「お兄様の?」

「ええ、まさかエーベルハルトからここまで追って来たのかしら。心配するなと書置きをしてきたのに」

 きょとんとした顔をしている。

 その顔には怯えも焦りも一切現れてはおらず、なんと表現するべきか。

 そう、まるで当事者ではないような、意に介さないような様子である。

「あなたは、エーベルハルト領から参ったそうだが、家族に虐待をされていたのか? それとも悪い男に追われて?」

 ラーラが直球で聞いた。

 それを聞くと、アリッサは声を上げて笑い出す。

「シャルロッテ様にも言ったけど、私は暴力を受けたとかでこの村に逃げ込んだのではないのよ? 家族は兄しかいないけれど、優しくしてくれていたし、恋人もそれは私を大事にしてくれていたの」

 首を右にかしげながら、遠い昔を思い出すような瞳で、そうアリッサは告げる。

 この村に逃げ込んだ女達とは、あまりに違う環境ではないか。

「では、何故この村に? わざわざ観光というには街の娘の一人旅には不向きではないか? それに何故兄上があのようにあなたを探しているのだ」

 ラーラの中では、不信感でいっぱいであろう。

 守護すべき主人のそばに、わけのわからない人間を置くを嫌がるのは当たり前である。

 そう、アリッサはわけがわからない。

 身内が、滞在中の村の入口で声を張り上げ呼ばわっても返事もせず、とりなすこともせず、ただ座って穏やかにお茶を飲みながら女騎士の詰問に答えているのだ。

 いくらおっとりしているとは言え、そんな女性はなかなかいないのではないか。

「私が病み上がりで、村へ来てしまったのできっと兄も心配したのね」

 のらりくらしとしたアリッサの様子に、ラーラが激昂しないかハラハラとしてしまう。

「そういえば、何のご病気でしたの?」

 なんだかんだで、私もずっと気になっていたのだ。

 この村に来なければならなかった、彼女の理由を。

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