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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第四章  シャルロッテ嬢と紡ぎの手

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202/651

202話 推測です

 私は観念して、ぽつりぽつりと話し出した。

 広間でひとりでいたところ、聞こえてきた呻き声を頼りに地下への階段を降りたこと。

 階段の先には廊下の両縁に部屋があり、声のする片方を開けたら干からびた老人が呻いていたが、話も出来ず動きもしなかった事。

 こうしてラーラに話しているうちに自分の気持ちが軽くなるのを感じた。

 所詮、子供なのだ。

 ひとり心に隠しておくには、無理があったのである。

「お嬢様、そういう場合は私に地下を探れと命じて下さい。今回、無事であったのは運が良かっただけですからね? 本来なら私が地下へ行き、お嬢様が広間で帰ってくるドリス殿を引き止める役でしょう」

 ラーラに言われて、目から鱗が落ちる思いがした。

 私は、自分自身が地下へ行くことを少しも疑わなかったのだ。

 ラーラと行くか、ひとりで行くか。

 選択肢はそれしか無かった。

 なんという、短絡思考であろう。

 身の安全を考えたら、ラーラの案が一番だというのに。

「エーベルハルトの方々から、シャルロッテ様の好奇心が旺盛である事は伺っておりましたが、まさかここまでとは」

 呆れたように、ラーラが言う。

「どうしても気になって、見てみたかったのです」

 好奇心は猫をも殺すというが、私もそうなるかもしれない。

 私は知りたいのだ。

 この世界を。

 黒山羊様の世界を全部。

 だからこそ余計に書物に没頭してしまうし、できる限りこの目で物事を確かめたいと思ってしまう。

「ドリスさんは……、彼女は老人を虐待し、非人道的な事をしているのでしょうか?」

 あの出来事はショックであったが、ラーラに全て吐き出したせいか今は落ち着いている。

 馬に揺られているのも、気が紛れるのを手伝っているようだ。

 林を抜けたせいか、視界も開けて開放感が私を包む。

 私が話しやすいように、馬の歩くペースものんびりだ。

「そうですね。思い出すのはお辛いかも知れませんが、その部屋は糞尿の臭いはありましたか?」

 糞尿……。

 さすがにそれは気になるはずだが、記憶にない。

「饐えた臭いはありましたが、そんなに強いものでもなかったと思います。糞尿の臭いはしたかも知れませんが、気付かなかったのでそこほど強いものではなかったかと」

 ラーラは少し考えてから口を開いた。

「シャルロッテ様にはショックでしたでしょうが、身内が気狂いになったりして手がつけられなくなると、地下牢に繋ぐことも、ままあることなのです」

 私は初めて聞く話に、目を丸くした。

 臭いものには蓋ではないが、確かにそういうことはあってもおかしくはない。

「貴族ならば手厚く介護をするかもしれませんが、余裕のない庶民はそうはいきません。気が違った者を出して周りに揶揄されるのを嫌って目立たない山小屋に閉じ込めたり、地下へ追いやるのはある事なのですよ」

 そうだ、ここは現代日本のように人権が確立されている場所では無いのだ。

 日本でも昔は座敷牢など、世間に出せない身内を閉じ込める部屋があったというではないか。

 私が人権侵害の物差しを持っているからといって、この世界の人を責める事は出来ない。

「先程の話ですが、糞尿の臭いがさほどなかったというのは、そのご老人はきちんと下の世話をされているということでしょう。そうでなければ垂れ流しですからね」

 またもや貴族令嬢らしからぬ物言いをしているが、ラーラの言うことは最もだ。

 カンテラの灯りの中、床にもゴミや糞尿はひとつも落ちていなかったし、ベッドも思い返せば汚れていなかった。

 簡易トイレが備え付けられていた訳でもないし、もしかしたら私に驚いて動かなかっただけで、実は自分で他にあるトイレに行ったりも出来たのかもしれない。

 私はホンの短い時間、あそこを見ただけなのだ。

 喋らなかったといって口が聞けないわけでも、動かなかったといって動けないわけでもないかもしれない。

 あの一瞬で全てを把握など、出来るはずが無いのだ。

 それだけで、ドリスを人非人だと決めつけるのは早計というものである。

 もし、あの老人に何らかの問題があって苦労しながら介護をしていたとしたら、とんだ言いがかりではないか。

「とはいえ、お嬢様には酷な事でしたね。いきなりでは、それはショックも大きかった事でしょう。悲鳴でも上げてくれたら私が駆けつけましたのに」

 私もまだまだ信頼されてませんねと、珍しく意地悪くラーラが言った。

「信頼していますとも! ただあの時はドリスさんにバレたらとうしようかと、色々考えてしまったんです!」

 慌てる私を見てにんまりと笑っている。

「まあ、お嬢様の大泣きを見れた事で良しとしましょう。いや見物でした」

「ラーラ! 私しょっちゅうあんな事はしませんわ!」

 ぷりぷりと怒る私を見て、楽しそうにラーラは笑った。

 ああ、心に平安が戻るのがわかる。

 こうやって軽口を叩く事で、ラーラは私を慰めてくれているのだ。

 ラーラ自身にも感謝しているが、これも王子のお陰である。

 こういうと変かもしれないが、ラーラを私の護衛官に任命してくれたことが、王子のくれた一番のプレゼントかもしれない。


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