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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第二章 シャルロッテ嬢と悪い種

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20話 出発です

 ドレスも無事届いて、マーサによるソフィアの侍女教育の仕上げも終わり王都へと向かうことになった。

 今回、兄は特に王都でやることはないのでカントリーハウスでお留守番らしい。

 留守番といってもいつも通り勉学に剣術やあれこれあるのだろうけど。その実、少年らしく婚約どうこうの面倒くさい色恋沙汰から距離をとりたいのかもしれない。

 王宮にクロちゃんを連れていくことは却下された訳だけれど、王都のタウンハウスには連れていってもいいと言われて私は上機嫌だ。

 さすがにいきなりの王宮茶会を押し付けた手前、それくらいは許可しようという配慮なのだろう。

「お嬢様のお茶会と私の侍女デビューですね」

 ソフィアがやや緊張した面持ちでそう話しかけてきた。

 今までは表立っては母の侍女やマーサが私の侍女のかわりについてくれたが、今後はソフィアが私の第一侍女として動かなければならないのだ。

 パーティでは若く見目良い使用人を従えていることも家の格に影響するので油断できない。

「今から緊張してどうするの? まだまだ王都は遠いというのに。ねー、クロちゃん?」

 抱っこしたクロちゃんの前足をソフィアに向かって前後に振って場を和ませてみる。

「そうは言っても王宮茶会ですよ! 本で読んだことがありますが、良家の子女が競うように咲き誇るそれは華やかで花園のようだそうです」

 緊張から憧れにシフトしたようで、うっとりした表情で茶会を語っている。

 レディース向けの雑誌を読んで想像を膨らませたのかもしれない。

 実際は水面下でけん制しあう王太子争奪戦なんじゃないかしらと私は思うのだけれども。


「華やかなのは確かね。私も子供の頃は緊張したわ。王族の方の周りには積極的な令嬢で壁が出来ていて、紹介に預かっても名前を伝えるのがやっとだったの。視線で殺されるかと思ったわ」

 母は扇で口元を隠しながら笑っているが、やはり肉食獣の群れで間違いはなさそうだ。

 ガタゴトと馬車は揺れ、領地を出ると整備された道から剥き出しの地面の道に替わる。

 そろそろ馬車酔い対策をしなければ。

 布袋にスッキリした香りのハーブを詰めたサシェを取り出して握りしめる。

 背中やお尻の下にクッションを多めに入れて、揺れへの対策にするがじわじわと吐き気が這い上がってきてもうおしゃべりどころではない。

「シャルロッテ様大丈夫ですか? 少し停車してもらいましょうか」

 返事も出来なくなった私を見て、母もソフィアに頷いてみせる。

 ソフィアは馭者側の馬車の壁をノックして合図を送ると、程なくして馬は歩みを止めた。

「風に少し当たりましょうね」

 蒼白になった私を支えてソフィアは馬車から降りる。

 彼女が荷物と使用人を乗せた馬車の方に何かを指示すると、小間使いが絨毯とクッションを出して木陰にセットしてくれた。

 中々、侍女ぶりが板についている。


 私は促されるままにそこに座った。

 貴族の馬車といってもサスペンションはお粗末なものなのだろう。

 こういう時は自動車が恋しくなる。

 魔法がある世界と言っても生活圏でお目にかかる事はなので、あるのは魔道具くらいだ。

 魔法が使いたい放題だと犯罪も横行しそうだし引き締めが強いのは仕方がない事かもしれない。

 魔法の絨毯とかは無いのかと聞いた事があるが、物を乗せて絨毯を浮かべるには膨大な魔力が必要になるらしく現実的ではないようだ。

 それだけでもいくつもの工程があり、絨毯にものを乗せて浮かべたとしも、それを継続させるのも難しいらしい。

 科学が万能で無かった様に、魔法も万能では無いのだ。魔法の絨毯を実現させる為に何十人もの貴重な魔法士の時間を拘束し研究させるなら、馬に車輪付きの箱を繋ぐ方を選ぶのは言わずもながである。

 万能ではないが汎用性が高い魔法の力。黒山羊様はそうやってあの科学の世界を踏襲しないようにしたのだろう。


 そんな事に思いを馳せながら私の乗っていた馬車を見る。

 4頭立てでエーベルハルトの家紋の入った美しい馬車。

 荷物は専用の荷馬車が用意され、そちらにも同じ紋章があしらってある。

 前後にはエーベルハルトの騎馬兵が配置されており、私達と荷物を守ってくれている。

 頼もしい事だ。

「そういえば魔獣は出ないのかしら?」

 ハンス爺に話を聞いてから、旅の途中で見掛けられないかと思い窓の外を眺めていたが影も形も見かけなかった。

 これでは自分では気付けないだろう。

「魔獣ですか? 道沿いは定期的に国や村で魔除けの木や草を植えておりますし、馬車にも守りの魔法陣が刻まれているので出てこないのではないでしょうか。そういうものが効かない賊とか人間の方が危ないですよ」

 ソフィアが私の背中を擦りながら教えてくれる。

 なるほど、だから今まで見た事が無かったのか。

 徒歩や乗り合い馬車などならともかく、貴族の旅程では魔獣も出番が無い様である。

 それは美しいものなのか粗野なものなのか。

 どんな生き物なのか一度は見てみたいものである。


 吐き気も治まったところで、王都への道を馬車はひた走る。

 途中いくつかの村を抜け休憩をとり、石交じりの道が石畳に、レンガ道に変わる頃にやっと一日目の目的地ネルケの街についた。

 もう日が暮れかかっているが街灯には火が入り、レンガ造りの建物を照らしている。

 大通りには軽食や雑貨の屋台が立ち並び、客引きをしていた。

 石畳を走る馬車の車輪の音や、物売りの声が耳に心地いい。

 活気があるのはいいことだ。

「はあ、結構賑わってる街なんですね」

 ソフィアが感心したようにつぶやいた。

 領地から王都への旅に付き添うのもこれが初めてなので、見るもの全部が珍しいのだろう。

「ネルケの街は花売りが多いそうよ。ネルケというフリル状の花びらが幾重にも重なったかわいらしい花が特産で街の名前にまでなったのよ。アクセサリーとかもその花をモチーフにしたものが多いわね」

 母が窓から見える物売りを扇で指しながら、簡単な説明をしてくれる。

 見てみると、特産と言われる花はカーネーションによく似ていた。

 話によると強い甘い香りがするらしい。

 昔の世界とここでは、同じようで少し違うのだ。

 ネルケの香水は評判が高く、わざわざ王都から買いに来る人もいるとのことである。

 こちらは切り花の日持ちも長くて、なにか魔力的なものが作用しているのかもしれない。


 ネルケの街にはエーベルハルトの別邸がある。

 侯爵家ともなると王都への主要な街には大邸宅とは言わないが、ある程度の規模の屋敷を構えているらしい。

 宿屋に泊まる方が楽だと思うのだけれども、貴族にとっては違うのだそうだ。

 街中の様子を見ていたら、しばらくして馬車は速度を落とし別邸の門をくぐった。




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