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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第四章  シャルロッテ嬢と紡ぎの手

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182/650

182話 寡婦のあり方です

「この間まで私の腕に抱かれていたというのに、時は早いものですわ」

 マーサも同じように思い出を掘り起こしたのか、まるでそこに赤子がいるかのように抱っこをする手振りをしてみせる。

 大きくなったと言っても、私もまだまだ子供なのだけど。

「連れ合いを亡くして塞いでいた私をアウグスト様がルドルフ様の乳母にと望んで下さって、その後シャルロッテ様もお生まれになって終わったと思った私の人生が息を吹き返したのですわ」

 あまり褒められた事ではないと思うのだが、夫を亡くした女性が、その後の人生を喪に服して終えるという話はこの国にはざらにあるのだ。

 特に古臭い貴族連中は、それを美談として持て囃す傾向がある。

 多分に、自分達が先に死んだ時に妻にはずっと自分を偲んで欲しいという願望が大きいのだろう。

 亡くなった人を偲ぶのと、人生を楽しむのは別な問題だというのに。

 実際死んだ身としては残された家族にそんな辛気臭い生き方はして欲しくないし、私がこうして新しい生を授かり歩んでいるのだから彼らにも彼らの人生を楽しんで欲しいと思っている。

 まあ、貞淑な妻を自慢していた男が相手に先立たれてすぐに若い愛人と再婚したり、それを羨んでいる妻帯者の男達をみると結局は彼らの願望であるのだ。

 自分達は妻をなくした後に実践する気もないのに、寡婦には生涯を亡き夫へ捧げろと願望を押し付けているだけである。

 ああ、でも前国王は違いますよ?

 私が見込んだだけあって、彼は妻を亡くした後、後添えを持つこともなく過ごしている人だ。

 その証拠に私の売り込みに見向きもせず、きっぱり断ったではないか!

 自分をそうやって慰めてもみるが、こうやって拘るあたり私もまた前国王に願望を押し付けているようで、人の事を言えたものではないのに気付いた。

 マーサもそんな古びた因習に囲まれて、残された時間を過去だけを見て潰す予定であったのだ。

 そこから彼女を連れ出せたのは、父がエーベルハルトの侯爵であった事が大きい。

 傍系であるマーサの夫の親族は父には何も言えないのだ。

 彼の判断は、兄と私に善良な夫人の手の元で穏やかに過ごす生活を与えるだけでなく、マーサ自身の人生をがらっと変えたのである。

「あのルドルフ様ももう王都学院へご入学だなんて信じられない思いですわ。ご立派になられて……」

「すっかりカントリーハウスも静かになってしまって、寂しい。まだまだ一緒にいられると思っていたから、ほんとに子供の成長って早いわ」

 私がつい近所のおばちゃんみたいな事を言ってしまったせいかマーサが少々、複雑そうな顔をする。

「お嬢様こそ婚約者も出来てしまって……。私にとってルドルフ様とシャルロッテ様と過ごせた時間は何にも代えがたい宝物ですよ」

 そういって、そっと私を抱き寄せた。

 懐かしく暖かいぬくもりが、私に安心感をくれる。

 母と乳母とふたりの母に恵まれて私は本当に幸せだと思う。


「止まれ! 止まれ!」

 先導の騎士の張りのある声が聞こえると、騎士団の馬がいななきをあげた。

 馬車の外がざわついている。

 また魔獣でも出たのかと思ったが、この辺はしっかりと魔除けの樹木が植えてあるしなんだろう?

 魔獣ならまた見てみたいので期待半分で窓の外を見る。

 ラーラが騎乗したまま馬車の真横に馬をつけていた。

「何事ですか?」

「シャルロッテ様はそのままに。道の真ん中で男が行き倒れているので様子を見にやっています。助け起こした隙に、隠れていた仲間が荷馬車を襲うやり口もありますので、警戒は怠れません」

 ラーラはそう説明すると、きりっとした顔で四方を見渡している。

 前世で聞いた夜中に、道路にマネキンなどを置いて人と間違えて心配して降りて来た運転手を襲う強盗の話を思い出す。

 そうか、馬車にも有効なのだ。

 悪事の手口は時代や世界が違っても同じなの様である。

 ラーラの言葉に、マーサと身を寄せ合って結果を待つ。

 魔獣だったら目に焼き付けて家に帰ってからも、魔獣辞典を眺めて楽しめるものを……。

 若干ガッカリしたものの、実際に病気や怪我で倒れているなら事である。

「もし、本当に具合が悪くて倒れているのなら、手を尽くしてあげて下さい」

 馬車の中から、ラーラに声を掛けると、もちろんですと声が返って来た。

 これが普通の貴族なら行き倒れなど捨ておけと放置したり、酷いと貴族の進行を邪魔する不届き者と怒る者もいるわけだが、私個人としては困っている人なら出来る範囲で手助けしたいということはある。

 そういう時に意外にも「聖女」の肩書きは役に立つのだ。

 貴族の令嬢が身分の低い者と交流を持ったり、道端の人に気をかけたりするのを嫌がる輩は多い。

 それが「聖女」となると皆、仕方ないと多めに見てくれるのだ。

 やっていることは同じなのに、身分社会というのは本当に不思議である。

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