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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第四章  シャルロッテ嬢と紡ぎの手

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174話 美術鑑賞です

「ほっほー、こちらが聖女様のお住まいですな」

 屋敷の前の馬車から、好々爺という風体で祭司長が降りて来た。

「祭司長様を我が家に迎えることが出来て、大変な名誉でございます。自分の家だと思って、ゆっくりとお過ごし下さい」

 父が家族を代表して、最初の声を掛けた。

「長の旅お疲れでしたね。お体は大丈夫ですか?」

 心配する母の声に、元々は徒歩で清貧の旅に身をやつしたこともあるので、馬車の旅なぞ天国のようだと笑って答えている。

 驚いたのは付き添いの1人も連れていなかったことだ。

 護衛として馬車には騎士団から部隊が派遣されてはいるが、騎士団はあくまで身の安全を守るもので雑用などはしてくれないというのに。

「ご無沙汰しておりますわ、ゲオルグ様」

「ほっほー、聖女様も息災な様子で何より。ああ、クロ様、そこにいらっしゃいましたか。このゲオルグ、クロ様がいない日々の虚しさといったら例えようもないほどでしたぞ。ささ、その毛並みを堪能させて下さい」

 私の後ろにクロちゃんを見つけると祭司長は、かがんでクロちゃんに話かける。

 祭司長はクロちゃんに関してはちょっと詩人っぽくなるのだけど、私も周りからこんな感じで同情されているのだろうか……。

 ビーちゃんは私の肩に停まって、仔山羊をわしゃわしゃとするその様子を興味深げに見ていた。

 もしかしたらこの老人、私の手紙にかこつけてクロちゃんと遊びたいが為にここに来たのでは?

 そんな私の心の内を読んだのか顔を上げた。

「聖女様には積もる話もありますが、まずは屋敷の礼拝堂で黒山羊様に挨拶させていただけますかな?」

 屋敷に入ってお茶でもと思っていた両親は拍子抜けした様子だ。

 ぞろぞろと付いて来られても困るばかりなのでと、私以外の人間の随行も断ってしまった。

 侯爵位に匹敵する身分の祭司長を子供1人に任せるのはと周りはおろおろしたが、本人がそう言い張るのではどうしようもない。

 結局ラーラとソフィアが私の後ろに控える形で、礼拝堂へと向かった。


「祭司長様、お初にお目にかかります。私はこちらに勤める聖教師のフランクです。滞在中の御用は私になんなりとお申し付け下さい」

 なるほど、付き添いはいなくても各教会の人間が祭司長の面倒をみるということか。

 教会や礼拝堂は、この国のどこにでもあるのだ。

「ほっほー。これまた真面目そうな御仁じゃの。よく祈り、よく務めよ。黒山羊様はいつも見ていて下さるのでな」

 聖教師は祭司長から言葉を贈られて、感無量という様子である。 

「これは、なかなか良い礼拝堂ですな。」

 歴史を感じる外観に感心しながら、祭司長は中へ入って飾られた美術品や装飾品を見て回る。

「中も素晴らしいですな。いやはやエーベルハルト侯爵はたいそう信心深い」

「いいえ、ゲオルグ様、残念ながらこれは全部最近のもので、聖女のいう地位に寄進されたものなのです」

 こんなところで見栄をはっても仕方がないので、早々に種明かしをさせてもらった。

 元々は、週に1度使うくらいの普通の私設の礼拝堂なのだもの。

「ほっほー。通りで一貫性が無いはずですな。それでも上手く物語が読み取れるように配置してある。こちらの彫刻は聖句の5章の黒山羊様の化身『畝の後ろを歩くもの』を表しておる。そしてその後ろには玉蜀黍(トウモロコシ)畑を木管楽器(パンパイプ)を吹きながら歩む『パンの大神』の絵画が掛けられていることで、彼女の変化を感じ取ることが出来ないですかな?」

 そう解説されてみれば、確かにそうとれる。

 ちなみにどちらも黒山羊様の化身である。

 パンの大神は男神に変化した姿で、畝の後ろを歩くものは玉蜀黍畑を豊穣の象徴とした、人よりも植物に近い形をとっている状態で、陽が落ちてから畑を歩いて回ると伝承されている。

 2つの美術品を合わせて見れば木々に紛れて玉蜀黍畑で作物を見守る黒山羊様が、実る穀物に誘われてパンの大神に変化して音楽を奏でながら踊り出したような印象を受けた。

 なんとなく眺めていたものが知識があれば別の楽しみ方が出来るとは、それを理解して飾った母の造詣の深さに驚いてしまった。

「まるで美術館の様で、これは一見の価値があるものですな。あちらの一角は大昔の聖女の小話を主題としたもので集めてありますし、ああ、これこれ。落ち仔様もしっかり描き込まれて素晴らしいですなあ」

 祭司長が喜び勇んで、ある絵画の前に立ち止まる。

 そこには金髪の美しい少女が、うねる緑を背後に微笑んでいた。

「この手の組み方で聖女が黒山羊様に祈っているのがわかりますな? そして一見、背景にしか見えないように書き込まれた落ち仔様の姿の威厳のあること」

 よくよく目を凝らしてみると蔓に咲いたと思っていた背景の白い花や緑の生い茂る葉と思わしきものは全て目玉で、単なる影に見えていたのは4本の足である。

 これを描いた画家は、少女の美しさの背後に悍ましき黒き仔山羊を仕込んでいたのだ。

「私、普通に綺麗な肖像画だと思っておりました」

 本物のクロちゃんのうねうねを見た身としては、いささか迫力が足らない気がしたが仕方ない事なのだろう。

 それよりも背景を理解しておどろおどろしく感じても、これが落ち仔の絵だと思うと何故だか可愛く見えて来るのだから人間はげんきんだ。

「クロちゃんの絵なんですって。お仲間はでっかい子ね」

 クロちゃんにそう話しかけると、めえと絵画に向かって鳴いてみせる。

 祭司長と私がニコニコと落ち仔の素晴らしさを語る横で、フランクか首を捻っていたが、この可愛さが理解出来ないとは気の毒なことだ。

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