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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第四章  シャルロッテ嬢と紡ぎの手

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173話 真面目です

「本当なら、あそこに赴任するのは私だったのです」

 懺悔するようにそう言う。

 これは初耳である。

 もしかしたら私があそこで出会ったのは、フランクだった可能性もあったのか。

「私には年老いた両親がエーベルハルト侯爵領におりまして、赴任が決まったものの、どうしても決心がつかなかったのです。地図では隣ですが実際には峠や谷があり、行き来が不便ですし何より遠いので……」

 まあ、王都からの往復をした身なので、言いたいことはよくわかる。

 あの土地に赴任したら、そうそう帰っては来れないだろう。

 なかなか親思いではないか?

 私が親なら感動して泣いてしまうかも。

「私が迷っていたところ、彼が代わりに行くと申し出てくれて、私は両親の住む街の近くの教会に務めることになったのです。彼はとても自信に溢れて、優しく勤勉な男でした」

 あの酔っ払い聖教師にもやはり、そんな頃があったのか。

 本人不在のところで若い頃の話を聞くのは、少しバツが悪い気がした。

「最初のうちはこまめに手紙の遣り取りをしていたのですが、段々と返信が遅くなり、『この土地は呪われている』とだけ書かれた手紙を最後に、便りは途絶えてしまって……」

 少し男爵領の聖教師に同情してしまった。

 親切心から引き受けて赴任した先があんな状態では、世を恨みたくもなるだろう。

 それでもフランクに恨み言を吐かなかったのは、凄いことでは無いだろうか。

 私が思うよりきっと強い人なのだろう。

「私も何とか連絡をとろうとしたのですが、なにぶん遠い土地で人の行き来もないので何も知ることが出来ず……」

「それは、さぞかし心配でしたわね」

「それで聖女様があちらへ赴いたと聞いて、エーベルハルトの礼拝堂への奉仕を立候補したのです」

「友人の様子を知る為だけに?」

 これには絶句してしまった。


 いくら何でも思い切りが良すぎだし、私がウェルナー男爵領から帰って何ヶ月過ぎているというのか。

 もうすぐ1年ではないか!

 それまでずっと沈黙を守り、私と話す機会を待っていたというのか……。

 真面目にも程がある。

 この様子では赴任の命を受けた時も、さぞかし苦悩したに違いない。

 彼の生真面目さを知る友人は、きっと手を差し伸べずにはいられなかったのだろう。

「もっと早くに聞いていただければ宜しかったのに」

「いえ、これは私個人の事ですし、そういう訳にも……」

「ともかく彼は元気にやっているはずですわ。子供達の声が賑わう教会の庭もありますし、何の心配もありません」

「それは喜ばしい事です。彼は幸せそうでしたか?」

 最初見た時は人生に疲れきった面持ちだったが、私との別れの時は笑顔だった。

「ええ、それはもう。希望をもってお幸せそうでしたわ」

 少し大袈裟かもしれないが、希望に満ちていたのは間違いない。

 なんと言っても黄衣の王様のお膝元なのだ。

 いつも横には幸せがあると、王様は説いているのだから。

「またお手紙を出してみては? 今ならきっとお返事をくださいますわ」

「そうですね。祭司長様の滞在が終わりましたら、手紙をしたためましょうか」

 それにしても、立ち直ったなら連絡のひとつも寄越しそうなものだけれど?

 元々、友達思いの人なのだから音信不通なままなのは気になる。

 疑問に思って私はフランクに確認してみた。

「ご友人の方からの書簡は何処に届きますの? ご実家ですか?」

「いえ、前に詰めていた教会ですね」

 そこまで言って、あっとフランクは声をあげた。

「もしかして、むこうに手紙が届いている?」

「その可能性はありますわね。前の教会には顔を出したりはなさいませんの?」

「こちらに正式に着任したので、あちらへ顔を出すことはないですね」

 何だかこの聖教師がますます心配になってきた。

 彼もこんな気持ちだったのだろうか?

 真面目で愚直であるが故、生き方が不器用なのだろう。

 前の教会の面々は、この真面目な男がこちらへ移動になり、安心したかもしれない。

 真面目も過ぎれば、毒になり息が詰まるというものだ。

 教会の同僚や堂役は、真面目な彼から解放された喜びに羽を伸ばしてフランク宛の書簡も、そのうち顔を出すだろうと引き出しにでも放り込んでいるのが、容易に想像出来た。

「次のお休みの日にでも確認によられるとよろしいですわ。あ、手土産にお菓子でも買っていくのがいいと思います」

「手土産ですか? 必要ですか?」

 まるで仕事に菓子は関係ない、とでも言うような感じである。

「無意味に思われるかもしれませんが、そういうものと割り切って持っていかれると良いですね。一種の潤滑油のようなものですわ」

「菓子といってもどのような物がよろしいのでしょうか? いくら位のものを幾つ揃えれば……」

 学者もそうだが、この聖教師も別の意味で世間に無頓着ではないだろうか?

 学問や神学に一途なのは美点であるが、先が思いやられる。

 そういえばラーラは剣技に一筋で、私には気遣いしてくれるのだが他の人には少々配慮がないところがあるし、私の周りにはそういう大人が集まる気がして気が遠くなった。

 後でソフィアに手土産に良さげなお菓子のリストを作ってフランクへ届けさせよう。

 まったく大人も手がかかるものである。

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