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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第二章 シャルロッテ嬢と悪い種

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17話 招待状です

 屋敷の皆がクロちゃんに慣れた頃、平穏に暮らしていた私に問題が降りかかった。

 一緒に知らせを受けた母とマーサも顔も心なしか青ざめて見える。

「あなたもう一度おっしゃって?」

「王太子殿下主催のお茶会の招待状が、シャルロッテ宛に来ている」

 不本意だとでも言いたいかのように、父は苦虫を噛み潰したような顔で言った。

「あなたがお断りになるから、この子は普通のお茶会にもまだ出ていませんのよ? それがいきなり王宮でのお茶会だなんて」

 母は額に手を添え、うっかり気絶してしまうのではと思うくらい天を仰ぎ見る。

「あー! その、その件については悪く思っている。だがシャルロッテを値踏みする連中の中にいれるのは、ほら、やはり可哀想だし。ね?」

 父がしどろもどろに言い訳する。

 結局は娘を外に出したくない父親なだけである。

 お陰で経験値が足りないまま、王宮に顔見せをすることになった私にしわ寄せが来たのだ。

 これは一大事である。社交シーズンに王都についていって家族単位の付き合いはしているが、正式な招待状の催しにはほぼ出席したことがないのだ。いくら図太い神経を持っていてもさすがにこれには危機感を覚えた。


「どうしましょう。子供が主役のお茶会と言えど侍女は必要だわ。乳母の私は付き添えないし、ソフィアも経験不足が……」

 マーサがおろおろとしている。そう、私がお茶会に出ていないと言うことは私の侍女候補のソフィアも経験不足なのだ。

 母の侍女見習いとして何度か貴族の集まりに出た程度で、子供が主役の茶会経験は皆無。

 ソフィアも本来ならば一人で主人を茶会に出せるくらいの経験をしていなければならないのだ。

 侯爵領は国境沿いにあるので、そもそも茶会やパーティの開催回数は少ない。

 うちが主催のパーティもあるが大体は最初の挨拶だけ同席して、後は子供部屋に下げられていた。少し長く居座るにしろニッコリ笑って座っていれば事は済んだのだ。大体サッカーと同じくホームとアウェイでは全く違う。

 格下の家のお茶会ならともかく、王宮で失敗は許されない。

 今日ばかりは父に文句をいいたい気分だ。

「こうしてはいられませんわ。ソフィアに作法の確認をしなければ。失礼いたします」

 ガタンと無作法にも音をたてて、マーサが立ち上がるのを初めて見た気がする。それだけ大事なのだ。

「断れる立場にないのだよ。シャルロッテ申し訳ないがよろしく頼むよ」

 眉を八の字にして笑顔でそう言うとそそくさと父は退出した。


「まあ! お逃げになるなんて」

 母が呆れた様に言うと、優しく私を抱き寄せた。温かさといい匂いが私を包む。

「急な話だけれど悪い事ではないのよ。あなたは宮廷詩人のナハディガルに謳われる桜姫。名前だけは有名だし、遅れた他の貴族との交流も王宮茶会ならば取り返せるわ。座学も実技も優秀だもの。足りないのは経験だけ、自信を持って挑みましょう」

 パンっと手にした扇を畳むと母の侍女に何か命じている。

 程なく運ばれて来たのは活版印刷のレディース雑誌やファッションカタログだ。

「シャルロッテはどのようなドレスが好み? まだ肩は出せないけれどある程度襟ぐりが広い方がいいわね。やはりピンクかしら?レースの薔薇を散りばめるのもいいわね」

 先程まで父に苦言を漏らしていたのが嘘のように、母は私のドレスで舞い上がっている。

 女親と言うのはこういうものなのだろうか。娘のオシャレに浮足立って見える。侍女にも意見を聞きながらデザインについて興奮して話している。


 1時間程すると玄関先が騒がしくなり、私達がいるサロンに客が通されてきた。

「お話を聞いて飛んできましたよ、エーベルハルト侯爵夫人。本日も麗しくていらっしゃる。シャルロッテ様も変わらず妖精のよう」

 侯爵家に出入りするロンメル商会が抱える、売り出し中のデザイナー、アデリナとそのアシスタント達だ。

「この度は王宮茶会との事、誰よりもシャルロッテ様に似合うドレスを仕立てさせていただきます。さあ! 皆さん採寸を!」

 テーブルの上には先程の比ではない量のデザイン画が並べられ、床にはレジャーシートのように大きな白い布が敷かれて、その上にいくつもの布地がこれでもかと広げられる。

 母のリクエストをアデリナがスケッチして形を作っていく。

 私の方はと言うと下着姿にされて、アシスタント3人に囲まれ頭の形、胸囲や腕の長さ、足の形から甲の高さまで計られているところだ。

 髪も子供は結い上げないので、軽くハーフアップにするのかサイドを編み込むのか、髪飾りを付けるか櫛をさすのかとか意見が分かれている。

 王宮茶会の実態がわからないので、周りが浮かれてるのに私だけ何だか置いてけぼりの気分である。

「何でもお似合いになって、こちらのお姫様はホントにお綺麗ですわ」

 褒められているのかお世辞なのか、こちらの美の基準がよくわからないので誤魔化す様に微笑んでおく。そういうところは日本人だ。

 そもそもが妖艶でこの世の粋を集めたような黒山羊様と凄絶で言葉を忘れるほどの美しい黒い雄牛さんを初めに見てしまったのがいけない。

 神様の前では人など十把一絡げの肉袋である。

 まだクロちゃんの方が可愛らしいと言っていいだろう。

 ただ前世の基準で言えば、鏡の中の私は確かに美人ではある。

 両親がそもそも美形なのだからそこは間違いないだろう。

 白い肌に紫の瞳、整った造形。

 まだ日本人の自分が抜けないせいか、他人の様に感じてしまうのだ。

 前世の様にそこかしこに鏡があって、自分の顔を確認出来るわけでもなく、生まれ変わったと言っても長年親しんだおばさんのセルフイメージが消えるにはまだ時間がかかるのだろう。


 取っかえ引っ替え慌ただしい中で、着せ替え人形の様にされて、ぐったりとしたところでやっと解放された。

 母は大変だと言いながらも、我が子のファッションショーに上機嫌である。

 さっそく縫製に入って貰うことになり、ドレスや靴など身に纏うものは間に合いそうだ。


 サロンの入口では兄とクロちゃんが覗いていた。

「やあ、シャルロッテ。お疲れ様」

 クロちゃんもめえーと鳴いてご苦労様と言っているようだ。

「兄様もクロちゃんもそんな所にいないで入ってこればいいのに」

 そもそも兄はクロちゃんを怖がっていたはずなのだが何故仲良くこんなところにいるのだろう。せっかくだからクロちゃんにもお揃いのリボンとか服とか作ってもらえばよかった。山羊に服ってどうなんだろう?

「ご婦人の戦場に飛び込む程、私達は愚か者ではないのだよ」

 確かに男性からみたら長時間デザイン画とにらめっこしてフィッティングをするのは退屈だろう。

 私のことを心配しつつもここへ踏み込めない気持ちが、兄とクロちゃんで一致したのかもしれない。


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