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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第四章  シャルロッテ嬢と紡ぎの手

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167話 寄付の要望です

 その後は仔山羊基金の収支のあれこれと、新しい商品の話などが続いた。

 基金からのクルツ伯爵領の文官学校の出資については金額が折り合えば充分元はとれるが、寄付という形にして世間からの評判を買うことも出来、それは私次第だという。

 元々、仔山羊基金自体は周囲寄付から成り立っているので、それも悪くなさそうだがクルツ伯爵の事を考えると寄付して変に立場の上下が出来るよりは見返りのある出資にした方が気が楽な気がした。

「学校はあくまでクルツ伯爵領の個人的資産になりますし、出資にこだわりたいと思いますわ。寄付は孤児院や救貧院にと私は考えます」

「ではその様に致しましょう。寄付といえば商会を通してシュピネ村の村長から面会と寄付の要望が来ておりますね」

 はじめて聞く村だ。

 何か関わり合いがあったかと思い出してみるが一向に浮かんでこない。

「シュピネ村? 存じ上げませんが何故商会を通して?」

 そもそも寄付が欲しいのなら、教会か侯爵家を通すなり仔山羊基金に直接申し出があるはずだ。

「シュピネ村は刺繍や紡績の村で有名で、仔山羊商品の製作を任せているのです」

「ああ、なるほど。うちの商品製作用にいろいろと入り用という訳ですか」

「優秀な針子を多く抱えている村ですし、今後も任せるなら村の支援をするのは悪い事ではないと思います。ここらで設備投資をするのは間違っておりませんが、ただ、ひとつ問題がありまして」

 ロンメルは少々苦い顔をした。

「刺繍も縫製もそれは一流の村なのですが……」

 いつもは歯切れのいい商会長が、ここまで濁すとはなんだろう。

「おっしゃっていただかねば、わかりませんわ。先程言いました通り、私にはシュピネ村の知識は無いのですから」

「そうですね。私としたことが……。シュピネ村というのは刺繍の村や糸紡ぎの村と呼ばれる他に、駆け込み寺とも呼ばれているのです」

 私はさぞかし、きょとんとした顔をしていることだろう。

 駆け込み寺なんて日本の時代劇のようだ。

 いや、たしか現代にもあるはずだ。

 シェルターとか言ったのではないかしら?


「シャルロッテ様はまだ幼いのでピンとこないかもしれませんが、世の中には男性に虐げられ行き場の無い女性が存在するのです。そういった女性が身を隠したり、安心して暮らす事が出来る村ですね」

 見目は幼いけれど、ちゃんとピンと来ています。

 なんと言っても元主婦でしたから。

 幸運にも私の夫は穏やかな人で暴力を振るわれた事など経験は無いが、話には聞いた事がある。

 後、ドラマとかでも見たことがあるし……。

「それは素晴らしい事ではありませんか? ああ、なるほど。そういった女性の生活の糧として村を上げて裁縫を押し出しているのですね」

「そうですね。裁縫は花嫁修行として嗜むものですから、元々技術を持っている人達が集まることで切磋琢磨したのかもしれません」

 村という単位の裁縫学校だと思えば、よそで暮らしている女性よりも上手くなるのはわかる気がした。

「では暴力の被害に遭われた方達への資金援助の寄付なのかしら?」

「それもあるのですが、ある宗教への寄付と考えて下さい」

「え? 地母神教では無いと言うことですか?」

 ロンメルがこくりと頷く。

 ああ、それは言い出しにくいだろう。

 地母神教の聖女に、別の宗教に金を出せとは中々言い難い事だ。

 反対に言えば寄付を申し出るとはいい度胸をしているということではないだろうか。

「どの宗教を信仰されているのかしら? 黒山羊様の縁者の黄衣の王様や蛇の父神ですか?」

 黒山羊様は千の仔を孕むと言われるように多くの神と契り、多くの神を産んだとされる。

 土着の神と共に信仰されるのは、おかしな事では無いのだ。

 ウェルナー男爵領に私が行った事を聞いて自分のところもという気になったのかもしれない。

「それが黒山羊様とは無縁のアトラクナクア教というものなのです」

「あとらく?どういう意味なのでしょう?」

「何でもその神は名前に無頓着なのだそうで、奇跡を起こす力を持ちながら名前を人に呼ばせているとか」

 この世界では神の名をそのまま冠したり口にするのは良くないとされていて、地母神も黒山羊もひとりの偉大な神を指すものだが、それは彼女の名前では無いのだ。

 黄衣の王もその通りであり、他にも名状し難きものや、名付けざられしものなどのいくつもの呼び方を持っている。

 神の名前の元活動するなど、冒涜的行為なのでは無いだろうか。


「それは寛大というか……、なんというか……」

 一般的には名前で呼ばれるという事は、二つ名を持たない神格の低い存在だといわれている。

 勿論その様な神は奇跡を起こせる事も無いし、信仰の対象になる事も稀で、人々にとっては物語の中に出てくる1部を彩る存在程度の認識なのだ。

「シュピネ村だけの特殊な宗教でして、村人はアトラクナクアという神を母と慕うのです」

 ロンメルがようやっと言えたとばかりに口にした。

 なるほど、言いにくい事だ。

 この世界は黒山羊様を万物の母としているのに、それを差し置いて何だかよく分からない神を母親呼ばわりするとは不遜もいい所である。

 これは地母神教の教義に、真っ向から喧嘩を売っている様なものだ。

 教会からしたら排除対象ではないのだろうか。

「良く取り締まわれないでいますね」

 私が黒山羊様の信徒である事は置いておいて、純粋に驚いていた。

 この世界でそんなモノが継続出来ているのは、それこそある意味奇跡なのである。

「いつ争いの種になってもおかしくは無いですし、領主もそれは渋い顔をしていますが、女性の保護と刺繍と紡績の利益を上げているので黙認している状況ですね」

何だか複雑そうな村である。


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