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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第三章 シャルロッテ嬢と風に乗る者

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164話 帰宅です  ※末尾に名前メモ3掲載

 冬越会は無事に終わり、学者がその話題を席巻したのは言うまでもない。

 続けて明らかになった神話生物の存在は人々の心に神秘を持たらし、この世の不思議とそれを統べる黒山羊様に思いを馳せるだろう。

 おしろさんの事では黄衣の王の信仰が増えることになるかもしれないが。

 王都を去る前に、クルツ伯爵のタウンハウスに寄り道をした。

 冬越会へは子供のコリンナは招待されなかったが、王都までは父について出てきていたのだ。


 クルツ伯爵を前に、私とコリンナは祐筆の職に就く話、文官の為の専門校の設立の話をする。

 冬の間、娘から散々聞かされていたようで祐筆については、今すぐにでもというコリンナの希望であったが、まだまだ淑女として未熟である事を理由に、学院を卒業してからということに落ち着いた。

 私も出来る事なら一緒に学院生活を過ごしたかったのでこれには賛成だ。

 職業学校の件はさすがに領民の教育に力を入れているクルツ伯爵だけあって、予算の目処が立てば取り掛かりたいとの事だ。

 こちらは教職員の確保もあるので年単位で時間も必要だが、その折には仔山羊基金からの資金協力の約束と、成績優秀者の最優先就職先に仔山羊基金を掲げることをこちらの要望とした。

 まだ出来てもいない学校の卒業生の行先など夢想にも程があるが、少なからず私にも利がある事を示さなければ、この善良な伯爵は資金協力にいい顔をしないと考えたからだ。


 コリンナは同時にお菓子学校を作る事も主張したが、初めての学校事業なのだから、まずは文官学校が軌道に乗るまではとクルツ伯爵に宥められていた。

 菓子職人の学校も魅力的であるが、私からみても文官に比べると需要は少なく採算がとれるか危ういところなので、的確な判断といえる。

 そちらの方は当分は既にいる料理人に弟子入りして学ぶという昔ながらのやり方でやってもらう方が理にかなっている気がしたからだ。

 菓子職人が増えるにはもっと生活が豊かになり、余暇や娯楽を楽しむ生活形式になってからだろう。

 その為には王族に国政を頑張ってもらうしかない。


 こうして王都を去り、再びのんびりとした領地のカントリーハウスへ帰ってきた私の元に、美しい淡い黄色の手紙が届いた。

 ペーパーナイフを手にとり、封蝋を剥がし便箋を広げると鼻腔をくすぐる香水の匂いがする。

 鈴蘭の薫りだろうか?

 手紙を広げると、ほのかに甘くすっきりした香りが立ちのぼった。

 手紙に香水をつけるのは貴族の女性の間ではよくされていることだが、そこほど文通経験のない私の目にはとても女性らしく新鮮に映る。

 その上品な香りに差出人を確認すると、それはヨゼフィーネ夫人からのものであった。

 便箋には旅の思い出を綴った後に、冬越会で私がギルベルトをかばって若い貴族をやり込めた事への感謝が書かれている。

 どうやら、噂が回って彼女の耳にも入ったらしい。

 この分なら今後、学者に悪絡みする人も減るだろう。

 わざわざお礼をしたためるなんて夫人らしい。

 他には諦めていた息子が身支度を整える様になったと、興奮冷めやらぬ心中が伝わって来た。

 だらしのない子供を持つと、親は苦労するのである。

 見守り続けた息子が社会的に認められた事は、彼女にとって、まさに春が来たようなものなのだろう。

 少しは男爵領への旅で、苦労をかけてしまった事への恩返しになっていればいいけれど。

 優雅な筆致の手紙の1番最後には、こう締めくくられていた。



 私の小さなお友達、と。



 私の中でぶわっと花が満開になったような嬉しさが沸き上る。

 彼女と友達になれたらと思っていた。

 だけどいい大人が子供と友達なんて、なってくれる訳がないと思っていた。

 単なる気まぐれの1文なのかもしれないけれど、真摯な彼女がそう表現したのなら私を友達と思ってくれている事は間違い無いのではないだろうか?

 無性にうれしくなって飛び跳ねたい気分だ。


 私の気持ちの高揚に気付いたのか、クロちゃんが横から首を出して興味深そうに手紙を覗き込んできた。

「食べちゃ駄目よ」

 ふんふんと鼻を鳴らすクロちゃんから手紙を離す。

 本当に食べるのかしら?

 私はクロちゃんが紙を食べているのを見た事はないけれど、何故か山羊は紙を食べるものだと頭に刷り込まれている。

 きっと山羊同士が手紙を出して延々と食べあって内容が伝わらない歌のせいだ。


 手紙をそっと机の上に置くと、私は嬉しさのあまりクロちゃんを抱きしめ、山羊の歌を歌いながらグルグルと踊るように回った。

 何故だかわからないけど、この小さな体の中にある熱量が抑えられなくて、動きたい気分なのだ。

 無意味な行動かもしれないが子供というのは、そういうものなのである。

 ビーちゃんにも興奮が移ったのか、ぴいぴい鳴きながら旋回して飛びまわるので、いつも静かな私の部屋はちょっとした騒ぎのようだ。


 こうして子供と仔山羊と小鳥は、一緒になって不思議なダンスをし続ける。

 怪訝な顔のソフィアであったが、顔を出したマーサの言葉に納得すると、微笑ましい眼差しになった。

「まあまあ、子供らしい事。お嬢様がはしゃぐなんて珍しい。家に帰って王都での緊張が解けたのかしら?」


そう、ここは我が家。

大好きな人達と仔山羊と小鳥がいる家。












3章初出の名前MEMO

アーダルベルト・リーベスヴィッセン:リーベスヴィッセン王国国王

ウェルナー男爵:エーベルハルト領の隣の領主

ケイテ・ウェルナー:男爵家二女

リンディ・ウェルナー:男爵家三女

ギルベルト・アインホルン:神話生物の研究をしている学者 伯爵家三男

ヨゼフィーネ・アインホルン ギルベルトの母

ラーラ・ヴォルケンシュタイン:赤毛の女性騎士 伯爵ニ女

ニコラ:酒場の女主人。聖女館の給仕

マリウス・ガイトナー:王国見聞隊隊員 聖女護衛官の一人

ダリル:隊商専門料理人

ナタナエル・バルシュミーデ:ナハディガルの本名


ウェルナー男爵領:エーベルハルト侯爵領の西隣に広がる霊峰山脈の一角に存在する奇岩のある領地  痩せた土地である



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