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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第三章 シャルロッテ嬢と風に乗る者

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146話 祭りの準備です

「賭けは私の勝ちね」

 にこやかに声をかけた夫人に、学者は渋々銀貨を数えている。

 コリンナもお小遣いが増えたと喜んでいた。

 男爵家の2人の少女にはキャンディにチョコレートがつけて戻され、彼女たちのおやつの時間を賑やかにした。

 純真な少女達が、このまま変に賭け事に目覚めたりしなければ良いのだが……。

「さて、私の払い戻し金なのだけど」

 そこで声を落として親子でヒソヒソと話している。

 何か問題でもあるのだろうか?

 学者が男爵を呼び、何か説明をしている。

 男爵は何度も感心したように頷くと、演壇に上がり布令をした。


「アインホルン伯爵夫人のご厚意により、彼女の掛け金と払い戻し金で祭りを開くことにする!」

 その場にいた人々が、わあと声を上げる。

「祭りの内容は、より人に似せた案山子を作ったものに金一封! 振る舞い酒と料理も出るので皆、気軽に参加してほしい。期日は急ではあるが1週間後にしよう。聖女様一行が帰る前に皆で楽しもうではないか!」

 思ってもみない祭りの開催に沸き上がる村人をよそに、私はなんだか寂しい気持ちになっていた。

 そう、私達は不審死を調べに来た旅人なのだ。

 その原因と対策がわかった今、ここに居続ける事はないのだ。

 村人とも仲良くなり、堅苦しいとは無縁の生活とお別れするのは後ろ髪を引かれる。

 私はこの土地をすっかり気に入っていたので、今後変わっていく様をこの目で見届けられないのも残念なのだ。

 夏休みが終わるような寂しさ。

 今、私が感じているのはそんな感傷であった。


「祭りには歌がかかせませんからね。音楽は私に任せて下さい」

 詩人は音楽担当ということで、村人の中から多少なり心得のあるものが立候補して、太鼓や教会にある鍵盤楽器を習うそうだ。

 時間がほとんどないので付け焼刃になってしまうのがわかっていても、自分達で今後集まった時に少しでも楽器で盛り上げたいとの要望もあり、意欲的である。

「案山子祭りとは考えたものだね。おしろさん対策に案山子を作る手間が省けるねえ」

 学者が祭りの番附(ばんづけ)を書きながらそう言った。

 ヨゼフィーネ夫人の提案のお陰で男爵領全体が浮足立っているような、楽しい雰囲気である。

 彼女なりに、この土地で何かしたかったのだろう。

「村人もやる気になっているみたいですし、いい事ですわ」

 番附を覗くと、男爵による開催の挨拶、案山子コンテストに詩人の歌、あとは剣の演武と飲食会に最後はおしろさんの歌を皆で合唱するそうだ。

 この間のラーラとナハディガルの仕合が、どうやら影響したようだ。

 子供達の間では木の枝でのチャンバラごっこが流行り出したようで、せっかく騎士団が逗留しているのだからと型を見せることになったらしい。

 今後、この村から騎士を目指す子供も出てきそうだ。


「そういえば、あの道外れにあった祠をこちらに移してはどうでしょう」

 石造りの祠など重くて移動も大変だとは分かっているが、私は駄目元で提案をしてみた。

 あれはビーちゃんの所縁のものなのだから、あの寂しい場所で朽ち果てさせるのは忍びない。

「ああ、あれは男爵に頼んであるよ。古い貴重なものだし村の中で管理してもらうのがいいと思ってね。今、何人か人足を雇って運んでもらっている最中なんだ」

 なんと、もう手がうたれていたとはさすがである。

 学者としての立場からも保存したいと思ったのだろう。

 ここが黄衣の王の祭壇だとわかったので、せっかくなら祠をこちらで祀ってはと男爵に話してみたところ心良く手配してくれたそうだ。

 石造りの祠なので、荷車を出して運んでいる最中なのだという。

 かなり重さがあるので何日かかかるのは仕方ないが、面白いのは人の行き来がない土地なので、ある程度距離を稼いだら道に荷台ごと放置して自分の農作業に戻るというのんきなやり方で、少しずつ運んでいるそうなのである。

 なんという自由気ままであろう。

 人足と言えど普段は農夫なので無理をして運んで、腰を痛めたりしては事であるし自分の畑を放ってもおけまい。

 男爵もその辺はわかっているのか、気にしていないようだ。

 まあ、あれを盗む人はいないだろうし問題はないのだろうが、おおらか過ぎてびっくりしてしまった。

 男爵の話では、ゆっくりと進む荷車には毎回黄色の小鳥が遊びに来るのだそうだ。

 人足は黄衣の王の遣いだと、その小鳥を崇めているらしい。

 小鳥のいる間は不思議と魔獣の影もなく、道中は安全なのだそうだ。

「ビーさんも中々やるね」

 学者が愉快そうにそう言った。


「高慢の種の出処はわかりましたの?」

 音楽指導の合間に詩人にそう問いただす。

 そう、王都を離れられない王子と詩人はその調査を続けているはずだったのだ。

 ここに詩人がいるという事は、多かれ少なかれ彼の仕事の邪魔をしてしまったはずである。

 私は上手くやれなかったのだ。

 何かあれば直ぐに王都に連絡をするよう徹底していたのだろうけれど、私が攫われた事を伏せるなり、内容を濁すとかして欲しかった。

 お焼きを作ることまでは上手くいったのに、王子と詩人の手を煩わせてしまって申し訳なさがこみあげてくる。

 いや、お焼きは不審死事件とは関係ないのだけど。

 そんな私の心中を知ってか知らずか私の呼び出しにご機嫌ながらも、詩人は真面目な面持ちになる。

「まず、私達はロンメル商会長の話にあったラムジーと名乗る呪術師の足取りを追うことにしました。話の通り姿は消した後でしたが、住処は残っていましたので手掛かりが無いかと私自ら乗り込んだのです」

 そうして、彼の王都での捜索を語ってくれた。

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