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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第三章 シャルロッテ嬢と風に乗る者

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136話 休暇です

 それから何日かは平和に過ごす事になった。

 私はそれこそバカンス気分で、村を回ったり聖女館で村人と談笑してのんびり過ごし、過保護気味というかまるで乳母の様な少々おかしかったラーラの言動も収まって来た。

 おしろさんの対策もしたかったのだが、学者が考えがあるといって何か走り回っているので話どころか私が手を出せる事が無い状態なのだ。

 彼なりに責任を感じているのだろうか?

 男爵も何故だか見かけると学者と一緒によろよろと疲れた様子をしているし、村人と一緒に私は首を捻るばかりである。

 一応おしろさん対策と言えば、私が攫われた後に男爵と学者が村中におしろさんと黄色い印の関係を公表したので自衛になっているのか、他に行方不明が出たという話もないので、少々の警戒心と共に羽を伸ばしている。

 私が攫われた事で公表も出来たわけだし、私自身は痛い目にあったが、それならば攫われ甲斐があったというものだ。


「ねえねえ、聖女様?こんな感じでいいの?」

 私はというと、聖女館で村の子供達を相手に竹細工のおもちゃを作ったりしている。

 竹の節に合わせて切って穴をあけた水鉄砲や、薄い羽にした竹とんぼ。

 他には長さの違う竹を木琴の様に並べて組んだ楽器や、竹の節で作ったランタンなど、昔の旅先の記憶を辿りながら思うままに形にしてみる。

 私自身はそこほど器用ではないのだけれど、さすが木工加工の生業がある村なだけあって村人は子供でも上手に刃物を使えるので教える分には苦労しない。

 なんだか子供と夏休みの宿題の工作を作っているような気分だ。

「聖女様は、どこでこんなおもちゃを覚えてきたんだい?」

 子供達といろいろな竹のおもちゃを作る私を見て、感心したようにニコラが言う。

「本で読んだのよ。ふふ、遠いところのおもちゃなの。楽しいじゃない? 全く関係ない土地に別の文化のおもちゃが根付いたら」

 ニコラはよくわからないという顔をしつつ、勉強熱心なんだねと褒めてくれた。

 遠い、この世界の果てよりも遠い場所のおもちゃがここにあるなんてとても不思議。

 いつか私みたいにこの世界に来た日本人がここを訪れて目を丸くしたりなんかしたら、とても楽しいことではないか。


 厨房ではお焼きのレシピも完成したので、料理好きな村人にダリルが作り方やコツを伝授している。

 私達がここを去った後、彼らが郷土料理として訪れる人達にそれを提供するのだ。

 その練習で毎日聖女館ではお焼きの試作品が余る状態なのだ。

 小腹が空いた村人が立ち寄ってつまめるようにしているので、ますます騒がしさに拍車をかける。

「毎日、賑やかになりましたね」 

 ソフィアが私の手元にある竹細工を覗き込みながら言った。

「そうね。最初はただのレンガの箱だったのに」

 変な言い方であるが、最初は寝泊まり出来る場所であればと作った急ごしらえのシンプルな建物だったのだ。

 今では扉は解放され、子供の声が聞こえ、いつも厨房からはいい匂いのする血の通った住居になっている。


 館の周りは女性陣の薔薇を植えたいという希望により、有志により土が掘り返されて花壇が作られて、そば殻で作った炭が混ぜ込まれている。

 土に少量の炭を混ぜるのは確か土壌改良になる気がしたのでそうしてみたのだ。

 これは村人のひとりが大量に出るそば殻をどうにか出来ないかと考えて炭にしてみたもので、木炭よりも手軽に使えるし燃料として今後の活躍に期待出来そうだ。

 元々薪に困る土地ではないので今までは重視されていなかっただろうが、今後鉛筆の加工や観光地化により木工品が増えていくようなら、今まで余っていた木材は資産と変わって気軽に使えなくなるだろう。

 その時に、そば殻炭は木炭燃料に変わって生活を支えてくれることだろう。

 そば殻を炭にするだけ。

 土に炭を混ぜるだけ。

 そんな簡単な事も、生活が苦しい時は手が回らないものだ。

 今村人がこうしていろいろ楽しめているのはロンメル商会が落としたお金と今後の領地の発展という保証があるからで、無駄に土を掘り返したり花の種を蒔くことも生活と心に余裕が無ければ出来はしない。

 なんせ種も苗も手に入らなかったのだから。

 苦しい中でももみ殻を無駄にしないよう炭を作った村人の努力が少しでも報われるよう、綺麗な花が咲きますようにと思う。


「シャルロッテ様! 新しくナッツペーストのお焼きを作ってみました!」

 料理人のダリルの声に工作中の手を止める。

 この料理人は毎日新しいレシピに挑戦しては試食を求めてくる。

「いくら散歩したり運動量が増えたと言ってもこれでは太ってしまいそうだわ」

「子供が何を言ってるんです? 沢山食べて大きくならないといけませんよ」

 そう言って大皿の上に、一口大に分けられて楊枝を刺したお焼きが出てくる。

 ホールにいる村人も子供も待ってましたとばかりに試食に参加するのだ。

「甘くておいしいですわ。完全なペーストもいいのですが、荒く刻んだナッツも混ぜて食感に違いを出すのもいいかもしれませんね」

 私が感想を言うと料理人は熱心にメモを取っている。

 私が前世日本人で良かったと思う事は料理に関して素人ながら、思ったよりも造詣が深いと感じることだ。

 和食のみならず、中華、洋食が食卓に並び、いろいろな国の食を口にする機会もある。

 回転の速い流行の食べ物は得てして珍しく見目もよく、情報はいつも目新しい。

 そういうものを日常で消費していたとは、なんと贅沢なことか。

 この世界の貴族でさえ一般の日本人に比べたらその口にするものの種類は限られているといえるだろう。

 そんな生活は今の私の知識と形を持った経験となっているのだ。

「そうだわ。ダリルさんひとつ新しい料理に挑戦してみませんこと?」

 日本の事を考えていたせいか、どうしても食べたくなってしまったのだ。

 日本蕎麦を。

  


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