128話 捜索です
黄衣の王の従者の目線で見た夢。
おしろさんはこの世界に縛られたビーちゃんを憐れんでいたけれど、彼の行為こそ憐れであると言わねばならない。
まるで三途の川の岸で石を積みあげては壊される子供のようである。
この場合その石は人の命であるのだが、それすらおしろさんには問題ではないことが余計に悲劇に拍車をかけていた。
「来歴も何もない土地が、そんな場所だったとは、いやはや驚くね」
マリウスの言葉に同意する。
「巨石周辺を封鎖するにもすべて農地と言ってもいいし、村人の行き来もあるからこれはどうするかねえ」
ラーラの柏手が効いたのか経緯と推論を説明することで言葉を出し尽くしたのか、冷静になった学者は次を考えているようだ。
原因がわかったなら、どう対処していくかだ。
地図上では狭く見えても、実際にはかなりの範囲と言わねばなるまい。
農家もその範囲の中に入っているし、長年慣れ親しんで手入れをした畑を捨てて引っ越しをしろと言われても難しいだろう。
畑は農民の命綱なのだ。
「白綿虫を駆除してしまえば、おしろさんも去るのではないですか?」
単純だが捕食の対象を退治てしまえばいいのではないか。
「白綿虫は土地の魔素の調節をする魔獣だから、駆除する事でどんな弊害が生まれるかわからないんだよ。昔話には白綿虫を追い回して土地が枯れてしまったというものもあるし、まあそれくらい土地と切り離せない生き物なんだよね」
学者は白綿虫についての見識を語ってくれる。
「魔素の薄い場所には弱い魔獣、強い場所には獰猛な魔獣が居ついてしまう。白綿虫が魔素を土地から吸収することで強い魔獣から農地を守っているとも言われているね」
ここに来て私の勉強不足がたたるのか。
魔素も魔獣もまだ勉強を始めて間もないのでこれといって案が出ない。
「おしろさんを騙す事は出来ないだろうか?」
神話生物には興味の無さそうなラーラが畑を見ながらそう言った。
「騙す?」
「いや、私は目ぼしい川なり水辺なり見つけると釣りをしたりするのですが、新鮮な餌を見つける事が出来ない時は、疑似餌を使うのですよ。畑にある案山子に黄色い印をつけたら、人と間違えて攫って満足してくれないかなと」
さすがラーラである。
狩猟のみならず釣りも嗜むのか。
釣った獲物はもれなく、こんがり焼かれて食べているのだろう。
私の中でどんどんラーラが野生児じみたイメージになって行く。
それにしても釣りたての魚か。
塩をかけてこんがりと焼いたらどんなにおいしいのだろう。
私の意識はついそちらへ向いてしまった。
「それは面白い視点だね。案山子でおしろさんを騙すか……」
突然誰かの声があがり、村の方が騒がしくなった。
何事かとラーラも警戒をし直し、私達の話は中断される。
ひとりの村人がこちらに向かって駆けて来た。
「聖女様ー! 学者先生方もこちらでしたか」
息せき切って来た様子は、なにかに焦っているようだ。
「何かありましたか?」
「こちらにリンディお嬢さんは来ませんでしたか? なんでも領主館からいなくなってしまったみたいで」
「私達が聖女館を出た時には、勉強会に参加しているようでしたが……」
そうは言ってもある程度の時間は経っている。
あれからひとりでどこかへ行ってしまったのか?
「ええ、その後館に帰ったそうなんですが、ケイテお嬢さんがいうには男爵に叱られて飛び出していったとかで」
私達は顔を見合わせる。
小さな子供の足ではそこほど遠出は出来ないだろうが、行方不明事件の起こる土地なのだ。
おしろさんの核心に迫ったといえど、対策はいまだにないのだ。
「こちらには来ませんでしたが、私達も探しましょう」
そう走り出そうとするとラーラが私を止めた。
「闇雲に走り回っては、みつかるものもみつかりません。まずケイテ嬢に状況を聞きましょう」
この人はいつも冷静というか中立というか、護衛官というものはこういうものなのだろうか。
元からの資質もあるのだろうけれど見習いたいところである。
「そうですね、焦っておりました」
村人が言うにはケイテまで姿が見えなくなっては事と、男爵のいいつけで領主館にいるそうだ。
私達はそれを聞いて足早で向かった。
「もじゃもじゃ先生!」
領主館を訪れた学者を見て、ケイテは声を上げて抱き着いた。
「こらこら、一体どうしたんだい? リンディの姿が見えないのだって? 先生に話を聞かせてくれるかな?」
心配で泣いてしまったのか、涙の痕が見てとれる。
学者に抱き上げられて安心したのか訴える様に彼女は言った。
「おしろさんの歌を皆で歌ったじゃない? それでおしろさんを探しに行こうって話になってリンディが 忘れ物があるっていうから一緒に家に戻ったの」
小さいながらちゃんと伝えようと、つまりながらも話してくれている。
「それでリンディは黄色のリボンをつけて出掛けようとして」
「黄色のリボン!!」
私と学者は声を揃えて叫んでしまった。
その様子にケイテが驚いている。
「おや、済まなかった。ケイテ続けて?」
「リンディはおしろさんが黄色が好きかもって言ってて、それでお父様に見つかってリボンをとられそうになって、どこかに逃げてしまったの」
これに学者は手で目を覆って天を仰いだ。




