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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第三章 シャルロッテ嬢と風に乗る者

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125/651

125話 合唱です

「白綿虫が大量に発生して低く飛ぶのはここに限った話じゃないんだ。魔素を含んで捕食され、また土地に魔素が溜まるのを待つのか、白綿虫のまだ知られていない習性かはわからないけれど、とにかくそれにはある程度の周期は見られる。まあ捕食されて再度群れが形成されるのに年単位が必要と言うことでもいい。餌がたくさんあるので、それ目当てに周囲を冷やす神話生物がやって来る。それが事実だとしたら、何故この土地だけ不審死がでるのか。他でも起きていてもおかしくない。それが問題なんだよなあ」

 学者の言葉に昨晩の夢を思い返すが、おしろさんなるものが人を捕まえて何処かに連れて行っては戻り、死体を遺棄する事しかわからなかったのでなんの進展にもならないだろう。

 農地ならどこも条件が同じとして、ここでだけ死人が出るのは何故だなのか。

 それとも他の農地には別の何かがいて白綿虫を食べているのか。

「そう言えば」

 ふと思い出した。

「おしろさんの童歌があるそうです。隠れ鬼をしながら歌うのですって」

 学者は興味深そうに私を見た。

「昔から子供達はいつも真実を見ていると言うことかな。そういうのに案外ヒントが隠されていたりするんだ。歌詞は覚えているかい?」

「寝起きに1度耳にしただけなので正確ではありませんわ。ただヨゼフィーネ夫人が知っていると思います」

「母さんが?まあ子供はあの人の得意分野だしね」

 そう言うと学者は立ち上がり、文字習いをしているテーブルに歩いて行った。

「やあやあ、子供達!このもじゃもじゃ先生におしろさんの歌を教えてくれる賢い子はいるかな?おしろさんは私に似ているそうじゃないか!」

 そういえば初日にリンディにそう言われていたのを思い出す。

「おしろさんだ!」

「もじゃもじゃ先生!」

 子供達が当然の授業の乱入にわっと声を上げた。

「僕歌えるよ!」

「私だって!」

 目を輝かせて発言している。

 ヨゼフィーネ夫人が学者に抗議をしようとしたが、それを見て押し留まった。

 教わる事ばかりでなく自分達が教える事を持っているのだと得意げな顔をする子供達を見たら、この流れを止めるのは得策では無いと思ったのだろう。

「では、このもじゃもじゃさんに歌ってあげたら、その後お歌の文字の書き取りをしましょうか?」

 ヨゼフィーネ夫人が提案すると子供達が喜ぶ。

「お歌を文字にするの? じゃあ読めなくても何が書いてあるかわかるから、家に持って帰ってお母さん達にも教えることが出来る?」

「ええ、そうね。じゃあ人数分見本を用意しましょう。それを持って帰ってご家族と復習してね」

 なるほど親しんだ童謡なら読み書きに持ってこいの教本になるだろう。

 夫人は学者に、紙が沢山必要だから予備のノートを寄越しなさいと請求している。

 やれやれと手の平を上に上げて学者は降参のゼスチャーをした。


 子供達は学者の要請で童謡を歌う事になったが、誰が歌うのかと言う段になると皆照れてしまい隣の子の肩を押しあったりしている。

 先程までの勢いはどうしたことか。

 仕方がないのでヨゼフィーネ夫人が子供達を整列させると、指揮者の様に羽根ペンを掲げた。

 子供達は「いち、にい、さん、はい」で全員で歌うことになると、それを見ていた食堂手伝いのニコラや聖女館の雑役係の村人も面白がって並びだしてちょっとした催し物のようだ。



 おしろさん おしろさん

 おおきなおやまのおしろさん 

 おやまのかなたへさらっておくれ 

 おそらのかなたにさらっておくれ

 おしろさん おしろさん 

 てをつないだら いっしょにいくよ

 かぜのかなたにつれてかれるよ



 普段、歌い慣れてるだけあって間違えずに声を揃えて一気に子供達は歌い上げる。

 歌い終えるとどうだと言わんばかりに胸をはっているのが可愛い。

「やあやあ、素晴らしい! 聖歌隊とでもいわんばかりだよ」

 学者が惜しみない拍手と賞賛で彼らを称えた。

 コリンナは、手早く聞き取った歌詞を手元に書付けると教材に使う為、別の紙に清書をしている。

 それを見て学者はさっと1枚、当然の権利のように清書をさらうと、目を丸くしたコリンナを残して元のテーブルに戻ってきた。

「さて歌詞を手に入れた」

 目的のものを手に入れて満足そうだ。

「謳われているのはおしろさん、歌い手の望み、その結果だね」

 なるほど短い中にもちゃんと入っている。

「空の彼方と星の彼方はここではない、どこかを指しているのだと思う」

 学者のその言葉にドキリとする。

 私があの時、生きる目的を亡くしていた時、漠然と願っていたのもまさに「ここではないどこか」なのだから。

「別の世界。おしろさんはいろいろな箱庭の世界を渡れるのでしょうか」

 ぽつりと呟くと学者が私を見た。

「良く知っているね。神話に見られる箱庭思想だね。世界は神々の箱庭であり幾つもあるという。まさに『風に乗りて歩むもの』は風に乗って世界を渡ると言われているんだ。世界も宇宙もどこでもね」

「では人を攫ってどこかへ連れて行こうとしているのですか? でも死んでしまうので返しに来るのでしょうか。宇宙なんて連れて行かれたら生身の人間は生きていられませんもの」

 地面に投げつける返し方は少々乱暴であるが、そんなことはあの生き物には些細なことなのでは無いだろうかと思えた。

 される方にはたまったものではないが、死人は文句も言いようがないのだ。

 死体だけでも返してもらえて感謝しろという事もあるかもしれない。


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