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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第三章 シャルロッテ嬢と風に乗る者

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124/650

124話 読み書きです

「みんな試食はひとつずつだよ! 独り占めしようなんて了見の狭い奴はいないね? ほら、あんたはこれ、家族に届けてやんな!」

 さすが社交的なニコラは村人を熟知しているようで、足を運べない人には包みを作って届けさせ、農地に出ている人には声をかけるよう指示を出している。

 元々小さな村なので程なく行き渡り、男爵までが人の集まりに目を丸くして訪れた。

「いやはや、お祭り騒ぎですね。何やら聖女焼きなる新料理を作られたとか」

 !!!

 試食会の伝言ゲームの中で、また勝手に名前が付けられてしまった。

 名付けも土地にちなもうと思っていたのに、最初からお焼きと言っておくべきだったか。

 そのままでは何だか捻りがないような気がして、名前は付けてなかったのだ。

「聖女焼きなんて名前じゃないです! お焼きです! お焼き!」

 私が間違いを訂正して声をあげると、居合わせた村人が声を上げた。

「聞いたか? これは聖女お焼きだそうだ!」

「いやあ、シンプルで口に馴染む味でいいなあ! 聖女お焼き!」

「新しいウェルナー領名物! 聖女お焼きにカンパーイ!」

 いつの間にかニコラがちゃっかりと酒の販売を始めていて、大人達は酔っ払っている。

 酔いに任せた聖女お焼きコールのせいで、名前を改める事は不可能になってしまった。

 活気ある村人の姿を嬉しそうに見ている男爵が幸せそうで何よりと言うべきか。

「あっ! 私は、私は1滴足りとも飲んでいませんよ! ええ、黒山羊様に誓って!」

 ホールの隅でお焼きを食べながら聖教師が私に向かって弁解するのを聞いて、乾いた笑いが浮かんできた。

 ホントにもう!

 聖女お焼きってなんなの!!


 この時から聖女館の扉は開け放たれ、村人が気軽に料理の質問や雑談をしに出入りする建物へと変わっていった。

 ホールのテーブルの隅では子供達が腰掛け、ヨゼフィーネ夫人とコリンナが滞在期間中だけでもと読み書きを教えている。

 まだ子供のコリンナには不安はあったが、さすが王都学院の引退教師陣から学んでいるだけあって、教えるのも上手かった。

 彼女にとって、この旅はいろいろ転機になるのだろう。

 もし、彼女が大人になってからこの旅を振り返る時には、良いものであって欲しいと老婆心ながら思ってしまう。

 聖女館で意外だった事は、その授業に男爵の娘のケイテとリンディが同席している事だ。

 祭りや特別な場でないのに庶民と席を並べるとは、なかなかある事ではないだろう。

 この等しく風に吹かれる土地の気風と男爵の性格もあるのだろうけれど、もしかしたらいつか来るかも知れない人権運動の波はこういう場所から始まるのかも知れない。

 ホールを飲食店や宿屋として使うなら、裏の勝手口側の一室を寺子屋の様に子供達の手習い場として開放するのもいいのではないか。

 教会でも聖句や神の言葉等教えているが、読み書きの教師に来てもらうのも視野にいれるべきだ。

 今後この村は商人の手によって潤っていくのは約束されているのなら、それくらいの余裕は出来るだろうし、男爵に提案してみよう。

 なんならクルツ領の職業学校が実現したら、そちらから研修として人材を回す事も可能ではないか?

 文官の中には僻地の開発や自分の出身の田舎を盛り立てたい人もいるだろう。

 この土地で研修をすることで人材不足を補う事も出来るし、文官見習いは現場で経験を積める事になるので一石二鳥ではないだろうか?

 まだ出来てもいない学校にいろいろ期待をしてしまうが、新しい事に目を輝かせる皆を見ていると自然明るい展望を描いてしまうようだ。

 村人が集まって子供達が読み書きを習う。

 そんな人が訪ね集う場所になった聖女館は、きっと私達が帰ってからも大丈夫だろうと私は思った。


 旅を良いもので終えるのに避ける事が出来ないのが不審死事件の解決である。

 ホールの子供達とは別のテーブルで、学者と私は写し書きの地図を睨んでいた。

「犯人は神話生物だと仮定して、後は何故殺されなければいけないのか。その理由と基準が分かればおしろさんを追い払えなくとも、対策がとれるはずなんだよね」

「おしろさんはこの土地での呼び名ですよね? 神話生物としての心当たりは?」

「あれから考えたのだけれどウェンディゴはそこまで大きくないんだよねえ。種族を増やす儀式をする為に攫って失敗したのかもしれない? それで死体を捨てていく? わざわざ空中に放り投げて? まったく、現実的じゃないな。そういえば僕がクロさんに会いに最初に王宮に行った日の話を覚えているかい?」

 詩人が不審者として、ラーラに入室を断られた時の事かしら。

 あの時は確かクロちゃんが人を食べると言う話に気が動転して記憶が曖昧である。

「僕はウェンディゴの神の話をしたと思うんだ。『風に乗りて歩むもの』の話を」

「ああ! 確か黄衣の王の眷族で、風に乗って旅をすると言う?」

「そう、それだ。白い雲や雪の塊で出来たような巨体で、一説には近付く者を凍てつかせたり、冷気を伴うので『雪のもの』と呼ばれる事もある。これが白綿虫の魔素に惹かれてやって来て、その結果冷害が起こるとしたらどうだい?」

「話の通りが良くなりますわね」

「そう、一番収まりが良いように思える」

 学者は腕を組んで、暫し無言になった。


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