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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第三章 シャルロッテ嬢と風に乗る者

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123/650

123話 灰焼きです

 お焼き!

 一度旅行で現地に行って食べてから気に入って冷凍ものを取り寄せて、家でレンチンしてよく食べたものだ。

 肉が入っていないのであっさりしてて食べやすい。

 醤油があれば味付けに使えるけれど生憎ここでは手に入らないので、そこは諦めなければならないだろう。

 それならば餡の味付けには相性が良さそうなニンニクオイル炒めでいこうと思ったのだ。

 ここまで言うと料理人の顔が真剣なものになった。

「肉を入れたりはしないのですか?」

「入れてもいいのだけれど、これを基本の形にしたいわ。あくまでこの土地でしか作れないというところに意味があるの。亜流としてかぼちゃや肉や他の物をいれたものを作る事があっても、まずこの霊峰菜漬け入りが基点でなければ郷土料理とは言えないと思うのです」

「なるほど、あくまでも土地にこだわるのですね」

「後は私達がいなくなっても、作ることが出来る簡単な手順ね。いくらおいしいものでも手が掛かっては値段も高く作り手も少なくなってしまうもの」

「聖女様はこれで商売するつもりかい?」

 これにはニコラが驚いている。

「違うわ。これを領地全体で気軽に食べたり売れる料理にするのよ。商売するのはあなた達よ」

 ニコラの目を見てそう言うと彼女は一瞬たじろいだ後、口角を上げた。

「聖女様が考えた食べ物を私らが売るのかい?」

「ええ、簡単で手に入りやすい材料。それなら普段領民の皆さんも食事やおやつ感覚で食べることができるでしょう? 売れなければ自分達で食べればいいし、売れるなら儲けもんってものよ」

 ニコラにつられてちょっと口調が乱暴になってしまったが、今それを咎める人はここにはいない。

「それはいいですね。私もそういうことなら案を出しましょう。この領地は朝晩冷えるのでどの家にもいつも灰がありますよね?」

 ダリルがそうニコラに確認をとるように聞く。

「ああ、そうだね。魔道具で暖をとるなんて上等な生活は出来ないから、暖炉もかまども周りに木が多いから薪は余っているし、灰には困らないよ」

「お嬢様が言ったように丸い包子の形にして焼き付けてから、灰に入れて灰焼きにしてはどうでしょう?」

「灰焼き?」

 そういえばおやきの中には灰焼きお焼きというものがあったのを思い出す。

 聞いたことしかないが、どんなものなのだろう。

「一度表面を焼いてから火の入った暖炉やかまどの灰の中に埋める事で表面はパリパリになりますし、焦げ目も程よくついておいしくなると思いますよ。埋める位置を調節することで、取り出せばすぐに熱々の物を販売出来ますしね」

 灰焼き!なんだか字面だけでもおいしそうではないか!

「郷土色がより一層強くなっていいですね! 是非!今、試作してください!」

 興奮のあまり料理人に詰め寄った私のお腹は、おいしそうなそれを想像したのもあって大きな音を立てて鳴いてしまった。

 なんという、なんという淑女にあるまじき行為……。

 私は真っ赤になって、ソフィアはオロオロとしている。

「ははは! 聖女様も人間さね、お腹もすくってもんよ! ここは飛び切りおいしいのを作ってもらって試食会と行こうじゃないかい?」

 ニコラが豪快に笑い飛ばしてくれて助かった。

 人が少なくて良かった。

 だって朝食を食べていないのだから、お腹がなるのは仕方がないってものなのだ。


「蕎麦粉だけだと仕上がりが硬くなりそうなので小麦粉も少し入れたのも作りましょうか。少量ならさほど値段に影響しないでしょうし、なんならランク上のものとして高めの値段で売ればいいですし」

 生地はダリルの提案で幾つかの粉の配合比で試すこととなったが、中の餡は私の提案の通り作ってもらった。

 ニンニクが食欲を誘う美味しい出来だ。

 それを伸ばした生地にくるんでフライパンで表面を焼く。

 もうそれだけで美味しそうなのに、ここから灰に入れるなんてどうなるのだろう。

 わくわくしてると料理人は次にお湯を茹でて直接煮たり、蒸籠を乗せて蒸したりと調理法をいろいろ試しだした。

 子供の思いつきにここまで付き合ってくれるとは思って無かったので感無量だ。

 最初に灰焼きを頂くと表面はカリッと香ばしく、内側に行くに従って生地のもっちりとした食感を楽しめる。

 霊峰漬けのニンニク炒めとの相性も良くて、思わずにんまりしてしまった。

 何より嬉しいのは私は手掴みで食べているのだ!

 この開放感。

 礼儀作法もなく手掴みでガブリと食べるおいしさはまた違う。

 貴族も村人もみんなが手掴みで散歩をしながら食べ歩く姿を想像すると、何だかとても幸せな光景に思えてきた。

 王都から離れた土地で、窮屈な身分制度から解放されて皆が伸び伸びと羽根を伸ばすのだ。

 きっと貴族達もこんなに遠い土地にわざわざ来たのだからと、不作法でも目をつむるのではないだろうか。

 そしてそれを心にしまって王都で窮屈な時に思い出すのだ。

 あそこはすべて風の様に自由であったと。

「素晴らしいわ!」

 空腹のせいか、灰焼きのおいしさと自分の想像に酔って私はそう叫んでいた。


 茹でたものは皮が特に薄くしてあるらしくつるんとした食感である。

 これだと1口大にして具も変えた方が良さげだ。

 蒸したものは反対に皮を厚めにしてふかふかになって生地の甘さが前に出ている。

 こちらは肉が合いそうだ。

 気付けば試作品が大量に作られ、ホールのテーブルの上の皿には、それぞれ山盛りにされ大試食会になってしまった。

「聖女様が考案したウェルナー領の郷土料理だよ! みんな近所にも声をかけとくれ!」

 ニコラが聖女館の扉から体を出して大声でそう叫ぶと、子供や聖女館の外観だけでもと見に来ていた物見高い村人達がわっとホールに入ってきた。


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