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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第三章 シャルロッテ嬢と風に乗る者

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117話 見解です

「それからまあその方面の勉強を進めた訳だが、今回はどうなんだ?」

 見聞隊員の質問に、私は学者と顔を見合わせてお互いに頷くと答える。

「その可能性が高いと、先程気付いたところです」

「はあ、この仕事が回ってきた時から嫌な予感はしてたんだよな。1度ああいうものに目を付けられたらそんな事ばかりが寄ってくる」

 マリウスは巻き毛に指を沈ませると頭をボリボリと掻いた。

 大半の人間は何も知らずに、その生涯を閉じるのだろう。

 だが、怪異を知ってしまった人間は目印が付けられたかのように、そういうものを惹き付けてしまうのではないか。

 私の周りに神話生物が集まるのは、そんな作用が働いているのではないだろうか。

 いつかその深遠に引かれて人ならざるものになるのか命を落とすのかもしれない。

 でもクロちゃんもビーちゃんも、加えて言うなら馬頭鳥も可愛い部類であった。

 全てが無慈悲で残酷な訳では無いのだ。

 そのマリウスが出会った象さんだって牙を狙われなければ、優しかったかもしれないではないか。


 では、おしろさんはどうだろう。

 正体を見られたから攫って殺した?

 わからないではないけれど、その場で殺す方が早いではないか。

 人を攫う手間はなんの為なのだろう。

「まだ証拠は無いのですが犯人が神話生物なら、話の通りが良くなるという推論だけですがね」

「神話の生物に証拠なぞ必要かね? それでここに私を呼んだ用は全部終わったのかい?」

「もし……」

 最悪の場面を想像して言い淀んでしまった。

 拳を握って隊員の顔を見据えた。

「もし、なにがしらの怪異が起きたら、私以外の全ての人の避難をお願いします」

 私の決心を聞いてマリウスは軽薄な口笛を吹いた。

「御自分はどうするんですか? まさか人身御供になるとでも? さすが聖女様だと言わなければなりませんね」

 あきれ顔で笑う見聞隊員に再度私は訴えた。

「茶化さないで下さい。私は犠牲になる気はないです。ただ、その何かと対面してみたいだけなのです。いざとなればクロちゃんとビーちゃんが私を守ってくれると信じてますし」

 そうは言ってみたものの、出来たら真っ先に2匹には逃げてもらいたい。

 こんな可愛い2匹が、でかいおしろさんに踏まれでもしたら事である。

「私は他の人よりも神話生物に慣れているので、他の人の安全を優先して欲しいと言っているだけですわ」

 ラーラが聞いたら自分の仕事は私の護衛だと言い張って一歩も引かないだろうが、そもそもそのラーラ本人でさえ神話生物を前にしてどうなるか分からないのだ。

 元の姿のクロちゃんを前にした兄の様に硬直してしまったり、デニスのように気絶して正気を保つ為に記憶まで塗り替えてしまうかもしれない。

 ああいうモノを前に必要なものは、武力で無く精神力なのでは無いだろうか。

 一騎当千の武将でも、心が壊れてしまえば赤子同然なのである。

 見聞隊員は私の言葉に感心したように頷くと、爪先から頭の先までじろじろと見直した。

「その心意気は気に入りました。お望みの様に致しましょう」

 そういうと私に礼をとってみせる。

 私の品定めをして満足したのか、なんとか動いてくれそうだ。

 これで万一の時の後方の憂いは軽減されたと考えていい。

「ところで貴女は王子の婚約者の立場に満足されているのですか?」

 ここでいきなり別の話になるとは、この人どういう思考回路なのだろう。

「何故その様な事を聞かれるかわかりませんが、満足ではありませんわ。私には荷が重いというものです」

 王室への不敬に当たるかもしれないが、変に勘繰られても嫌なので正直に答える。

「やはりそうでしたか。ノルデン大公の件も聞き及んでますが、貴女には妃殿下や大公妃の地位より王国見聞隊の隊員の方があってそうだ」

 彼は愉快そうに口角を上げた。

 ここでノルデン大公の話を出すのか。

 恥ずかしくて茹だりそうになる。

 実は王国民全員が知っているとかないでしょうね。

 暗に淑女らしくないといわれたようで癪にも障るが、私も出来ることならこの立場より見聞隊に入って各地を回る方に憧れるので何も反論出来なかった。

 私が激昂も叱咤もしないで黙っているのを見て、彼は溜息混じりに小さく見聞隊員は言った。

「殿下も気の毒に」

 そう呟いたのを私は聞き逃さなかった。

 その言葉にも全く持って同意である。

 ちゃんとした令嬢だらけの中、私を選ぶのは短慮と言うしかない。

「それじゃあ、そろそろお暇するよ」

 彼にとっては仕事の時間中なのだから、これ以上拘束するのは良くないだろう。

 聞きたい事も伝えたい事も終わっているので、退出しようとする彼の後ろ姿に時間を取らせたことの謝罪と感謝を投げた。

「ああ、そうそう。公文書には記載出来なかったけど、王国見聞隊のウェルナー男爵領不審死の最終見解は『神話生物の存在』だよ」

 去り際にそう言うと、サッと扉を開けて出て行ってしまった。

 

 何が彼の心の琴線に触れたのかもしれないけれど、背中を後押しされた気持ちだ。

 王国見聞隊は神話生物の仕業だと結論を出した上で、手を出すことも解決策を見つけることも出来なかったということか。

 マリウスは任務中に神話的事象に出会い、その後勉強したと言っていた。

 隊員達は神話生物の専門家ではないのだ。

 それならば解決もなにも出来はしないだろう。

 いや、そもそも人の手によってどうにか出来るものでもないのだ。

 王国側はウェルナー男爵に土地を与えてしまった以上、それを取り上げる訳にもいかない。

 風化しない程度の周期で起こる数件の不審死に目をつむれば、他にはなんの被害も出ないのだ。

 非情なようだが無力な人間になんの対処のしようがあるというのだ。

 そういう考えで、こうしてこの土地は呪われたのだ。

 見て見ぬふりをされ手も差し伸べられず、人の無関心がこの呪いを作り上げたと言っていい。

 ここを人の住む地にしたのは男爵への褒賞にした王国そのものだというのに。

 私も無力には違いないが、少しでも違う道を選ぶしかない。

 ロンメルの思惑で、今後これよりもっと人が増えるはずなのだ。

 さらなる犠牲者を出す訳にはいかないだろう。

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