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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第三章 シャルロッテ嬢と風に乗る者

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101話 男爵領です

 ガラガラと音を立てて馬車はウェルナー男爵が住む領主館(マナーハウス)のある村へ入っていく。

 年季の入った木の看板。

 村の中央広場には井戸が備え付けられ、正面には教会があった。

 ああ、やはり夢の通りである。

 それは鮮明では無い物の確かに見たことのある風景であった。

 あれは予知夢なのか蜂蜜の飴が見せた幻なのかわからないけれど、私がここに来るのはもしかして決まっていた事なのだろうか。

 いつも通り早馬が私達の到着を先に知らせてくれたおかげか、広場には人が集まっていた。

 皆、質素な格好をして裕福とはかけ離れている様子である。

 そんな中にウェルナー男爵も立っていた。

「聖女様、はるばるこの様な土地に足を運んで下さりありがとうございます」

 地元であるせいか王宮で見た時よりも、ウェルナー男爵の顔色はいいものだった。

「いらっしゃいませ聖女様」

 声を揃えて可愛い挨拶で迎えてくれたのは、男爵の子供達だ。

 私と変わらないくらいの年齢のケイテと幼稚園児くらいのリンディだ。

「次女と、末子です。子供は4人いまして是非挨拶をさせたかったのですが、長男と長女は王都学院に入学して、今は不在にしており失礼いたします。距離もあって気軽に帰れるものでもありませんので」

 王都の暮らしに慣れてしまったら、この土地に帰りたがらないのではないだろうかと他人事ながら心配になる。

 そうやって田舎領主の子供達を王都で抱えるのも、王制の狙いなのかもしれないが。

 一律の教育と子供同士の時間を持たせる為という事もあるだろうが、国からしてみれば王都に子供がいるのはある意味人質の様なものではないだろうか。

 今は戦国の世でもないのでそんな血生臭い話はないだろうが、一生を僻地で暮らさせるより一時的にでも王都に身を置くことにより謀反や反乱は起こりにくそうな気がした。

「わあ、小鳥さんと山羊さん」

 そう声を上げたのは末っ子のリンディである。

 小さい子供と関わる機会がないのでこの出会いはうれしい。

 自分もまあ子供だけれど、幼児というのはかわいいものだ。

「山羊のクロちゃんと小鳥のビーちゃんよ。噛んだりもしないし遊んであげてね」

 私がケイテとリンディに話しかけると2人ともうれしそうに駆け寄ってくる。

 その様子に村人達もほっとしたのか、緊張がほぐれたのがわかる。

 口々に私達の来訪への歓迎と感謝を述べている。

 まだ何も解決していないというのに、感謝を言うには早すぎるというものだ。

 

 村人の中には聖教師も混じっていた。

 目元には黒い隈が出て精神的にも疲弊している様子である。

「聖女様歓迎いたします。この出会いに祝福と感謝を。黒山羊様の導きのままに」

 見た感じは真面目そうに見えるので、つい悪戯心が出てしまった。

「お酒は百薬の長とも言われますが、飲み過ぎは体に障りますのでお気をつけて」

 あの夢が本当かどうかを、不届きかもしれないが聖教師で試してみてしまった。

 酒は百薬の長はそういえば日本の諺であったが、まあこちらにもそんな感じの言葉もあるので通じはするだろう。

 私の言葉に聖教師は真っ青になって男爵の顔を見て、村人はざわついている。

「わ……、私は何も聖女様には言っていないよ。不審死の上告をしただけで……」

 男爵が告げ口したように捉えてしまったようだ。これは失敗した。

 この様子では深酒しているのは明らかどころか村人も知っているようだ。

「ええ、男爵からは何もあなたの事は伺っていませんわ。顔を見ればわかると言うものです。そんな疲れたお顔で仕えては黒山羊様もお嘆きになりますよ」

「それは……。黒山羊様は、私を見ていらっしゃるということでしょうか?」

 不安げな顔で私を見る。

 神様が心配するからお酒の飲みすぎはやめようねと言いたかったのだけれど、それっぽい事を言って胡麻化してしまおう。

「いつも黒山羊様は見守っていらっしゃいますわ。なのであなたはあなたのお勤めを全うなさって下さい」

 途端に聖教師はむせび泣きしだした。

「聖女様どうかお助け下さい。私は幾人もの無残な死体を前に何も出来ませんでした。聖句を唱えて冥府へ送り出すことしか出来ぬ私を、黒山羊様が我らを見放したのでは無いと言うなら、呪われたこの土地をどうか……どうか……」

 なんだか悪い事をしてしまった。

 彼の精神は度重なる不審死で削られてしまっていたのか。

 これは酒に逃げるのも仕方がないが、かといって体に悪いのも確かなことである。

 この感情的な様子は酒が残っている証拠ではないか。

「出来ることがあるかはわかりませんが、尽力いたしますわ。なので聖教師様も諦めたりなさらないで」

 なんだか連続殺人犯が実際にいるとかの方がいい気がしてきた。

 もしなんらかの怪異の仕業であった場合、私には成すすべがあるのかどうか?

 クロちゃんがついてくれているだけで、私自身は少々図太いだけの子供である。

 この無力な聖教師となんら変わりはないのだ。

 相手が人間ならばラーラをはじめ護衛官に騎士にと武力で制圧が可能であるし、鬼畜な所業とは思うが問題はシンプルなのである。

 不安げにクロちゃんを見るとぺろっと手の甲を舐めてくれた。

 肩に乗せているはビーちゃんも、その重みと温かさで安心感をくれる。

 黒山羊様と風の神様それぞれの縁者がそばにいるのだ、ひるんでいてはいけない。


「まずは村の案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」

 私がそういうと男爵自ら案内を申し出てくれた。

 それを聞くと村人達があそこはどうだ、あの景色を見せないとと男爵に意気込んで話しかけている。

 郷土愛があっていいことだ。

「やあ、やあ。覚えているかな? ギルベルト・アインホルンです。その節はどうも」

 後ろからのっそりと学者が名乗りでると、男爵の顔が明るくなった。

 彼と男爵は論文の為の滞在で顔なじみになっていたようだ。

 王都の客を迎える緊張の中、見知った人物というのは心強いのだろう。

「聖女様のお供で学者様が付いてくるとは伺っておりましたが、あなたでしたか。何年前になりますかな? またお会い出来て光栄です」

「あの時は世話になったね。論文の方は振るわなかったのだけど、まさかまたこの土地に足を運ぶ事になるとは夢にも思わなかったよ」

「もじゃもじゃ先生!」

 クロちゃんをわしゃわしゃと触っていたケイテが学者を見て声を上げた。


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