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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

変わらない

作者: 奴目

 今は違うが、昔の私は、とてつもなく、頭が悪かった。

 勉強が出来なかったわけでも、発達が遅れていたわけでもない。ただ私は「思考の応用」が素晴らしく出来なかった。

 友人が笑っていたら楽しいのだと理解出来る、ただ自分も楽しくなければ愛想笑いすら浮かべられない。

 人が死ぬのは悲しい、しかしそれを自分の立場に置き換えては考えられない。

 そんな「頭の悪さ」だった。

 あれは私が小学生のとき、とある事件が起きた。

 放課後直前、さよならの会をしようかという頃にクラスで飼っていた金魚が、何者かの手によって地上に放置をされたための呼吸困難で、殺されていた。

 クラス内は瞬時に、帰宅へのお祭りムードからお通夜のような静けさへと変わった

あの殺され方は、金魚という生命体においては無残な、そして酷い殺し方だと思う。

 事件の犯人は、担任の呼び掛けによりあっさりと判明された。

 犯人はとても小学生らしい、休み時間に蟻を踏み潰し、見付けたミミズを水の中へと放り込むような、圧倒的弱者の命を「命」と認識していない、一人のクラスメイトの仕業だった。

 その子に対して他のクラスメイトたちは同情なんてしていなかった。担任は叱ると同時に「命の尊さ」を説いてはいた。

 叱られている子を見て皆はざまぁないなと優越感に浸っていたかもしれない、担任も建前上では叱っているが、本心ではもしかしたら「金魚程度の命」とせせら笑っているかもしれない。

 しかし頭の悪かった私は、担任の迫真かもしれない演技に騙され、「金魚を殺す」という概要が悪いことなのだとは理解出来た。

 けれどもそのとき大人が子供に表面上でも伝えなくてはいけなかった「命の尊さ」までは理解が出来なかったのだ。

 叱られている子を無感情で眺めていると、ふ、と一人の女の子が私の目に留まった。

 その子の目には、傍から見ても分かるほどに涙が溜まっていた。だからこそ私はその子に目が留まり、気になってしまった。

 担任のお叱りが終わったとき、私はその子に聞いたのだ。

「なんで泣いていたの?」

 と。するとその子は恨みの籠った目で私を睨み付け、

「なんでわからないの」

 と叱りつけてきたのだ。

「わからないよ」

「一つの命がなくなったんだよ」

 ほぼ答えの発言が放たれても、私は首を傾げた。

「友達じゃないじゃん」

「ずっと一緒の教室にいたでしょ」

「話したことないもん」

「お世話だってしてたでしょ」

「しなきゃいけなかったんだもん」

 今の私では理解出来るが、やはり当時の私の頭は悪かったので、彼女の言葉は露ほども理解することが出来なかった。

 だからなのだろう。彼女との押し問答が続くうちに私は苛立ち始め、最終的には「彼女の頭がおかしい」のだと思い始めた。

「大切じゃないものなんかに泣く方がおかしい!」

 自らの頭を棚に上げて、感情の赴くままにそう声を張り上げたのだ。

 すると彼女もさすがに琴線に触れたのか、

「何も思わないあんたの方がおかしい!」

 と言い返してきた。

 そこからはもう、二人で行われる殴る蹴るのお祭り。仲介なんて煩わしく、確実な勝敗を求める争いが繰り広げられた。

 どちらも正しく、けれども、どちらも押し付けるべき価値観ではない。

 私の頭の悪さと、彼女の正義感の強さ。それらを理由に持ってくるのはお門違いだとは思う。けれども確実に、圧倒的に、争いの原因の大方はその二つのせいであった。

 今でも当時を思い出すと、私は浅はかだったと思う。ともすればきっと今の彼女も反省しているのかもしれない。

 だから、かもしれない。

 夢を見るのだ。

 争っている彼女の頭が、徐々に金魚へと変貌していき、それを見た私はおぞましさで心身共に硬直をしてしまう。そして完璧に金魚の頭になった彼女の大きな口で食べられる。

 胃へと辿り着くまでの間、私はずっと金魚への謝罪を繰り返す。死ぬ恐怖から本心へと変わった「命」への謝罪を。

 そして胃へと辿り着いた私は、徐々に胃液で溶けて死ぬ。

 今日も私はその夢を見て飛び起きた。

 あぁ、本当に。今ならあんなことは言わないだろう。しかしこれは成長したから言えることであって、過ぎたことはどうしようもない。

 大人になると日々が目まぐるしい。様々な要因で毎日を生き急がなくてはいけない。

 その中で私が嫌なのは、電車が止まることだ。現代の重要な足である電車が止まると何もかもが遅れてしまう。

 特に人身事故で止まるのが本当に嫌だ。迷惑極まりない。

 本当に、死ぬなら別のところにしてほしい。


「あーぁ、邪魔くさい」


楽しんで頂けたなら幸いです。

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