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第二章 1  夜に飛び朝に微睡む

 リョウとティアーネの会話から数時間後。

 午前零時を迎えた住宅街はすっかり寝静まっていた。

 その住宅街にある藤城家の屋根の上に二つの影があった。


 「いやぁ、絶景かな絶景かな」


 そういって茶々は自分の家の屋根から町を見下ろす。

 普段見慣れた風景も上から見るとまた違って見えてくる。

 ましてや普段なら寝ている深夜ともなれば尚更であった。

 この夜の探索の為に九時にベッドに入り仮眠をとっていた茶々は家族が寝静まったのを待ってから行動を開始しようとしていた。


 「茶々は毎回それをやるのぉ」


 煌びやかな駅周辺のネオンに黄色の瞳を輝かせて見入る茶々に少し呆れ気味のティアーネだが言われた方は特に気にした様子もない。


 「いや~、なんか高いところに登るとテンションあがっちゃって」

 「確か日本の言葉にあったのぅ。ん~、馬鹿とヤモリは高い所が好き、じゃったか?」

 「いや、それを言うのなら煙でしょ!……あれ、ヤモリでいいんだっけ?」

 「……調べたら煙じゃな。というか、茶々、お主はもう少し勉強した方がよいぞ?」

 「ティアだって分からなかったじゃん!」

 「いや、我は異世界人じゃぞ、比べるのが間違っておる」

 「ぐぬぬ……」

 「それに今年は受験じゃろう。世界は違えど試験は大変な物だというのは共通しておる。志望校とかちゃんと考えておるのか?」

 「ア~、キコエナイ、キコエナイ」

 「耳を塞がんとちゃんと聞かんか!全く……」

 「今はそんな事よりやらなきゃならない事があるでしょ!ほら、ティア、そろそろ行くよ」


 屈伸運動をしてから茶々は勢いよく走り出す。走っている途中で胸の辺りから僅かな光が漏れ、瞳だけでなく髪の色も黒から黄色へと変わっていく。

 異世界からもたらされた強大な力を秘めた石、『輝石』の力を受けた茶々が軽やかに夜空に舞う。

 次から次へと怪盗の如く屋根を飛び移っていく。


 「こら、我を置いていくでない!」


 どんどん小さくなる茶々の背中を追ってティアーネも浮遊する体を前に進めて後を追いかけていく。

 こうして二人の夜回りが始まった、のだが……。


 「ふぁ~~…」


 爽やかな朝日が差し込むリビングのソファーに座っている茶々は大きなあくびをした。

 結局夜の見周りは成果がなく三時ごろに帰宅し就寝。

 そして朝七時に起床し今に至る。


 「お姉ちゃん、昨日あんなに早く寝たのにまだ眠いの?」


 まだパジャマ姿の姉と違って既に制服に着替えている奈々が呆れ気味に言うと、茶々が閉じていた眼を開けた。


 「いや~、あれだよ。え~と、しゅ、しゅんみぃ~?」

 「春眠暁を覚えず?」

 「そう、それそれ~」

 「はぁ、眠いのはわかったけど、そろそろ準備しないと遅刻しちゃうよ!」


 朝食を食べ終わりソファーでだらだらしている姉を見下ろし奈々が叱るような口調で言う。

 その様子は昨日の放課後で優子に見せた態度とは大違いである。

 本来は茶々の前で見せる、「言いたいことははっきり言う」性格が奈々の本来の姿なのだが、人見知りからくる寡黙さと人と距離をとるような仕草が、なぜかクールキャラ認定されてしまって今に至る。

 とはいえ、特に一人でいる事に苦痛を感じるタイプではないので気にしてはいないのだが、その雰囲気のせいで外に出ると高校生はおろか大学生に間違われる事が多いだけは悩みであった。

 そして、自分と正反対に小学生と間違われるほど雰囲気が幼い姉を前に奈々は既に仕事に行ってしまった両親に代わって面倒を見なければという使命感があった。

 

 「ほら、いつまでもダラダラしてないで立って、立って!」

 「まだ時間はあるから大丈夫だよ~」


 姉の手を取ってソファーから立たせようとするがちっとも動こうとはしない。大丈夫などと言っているが目を離したら、そのまま横になって眠ってしまう気がして奈々は気が気ではない。

 出来れば一緒に学校に行きたいと思うのだが、奈々の方には既にタイムリミットが迫っていた。


 「ほら、もう私も出なくちゃいけないんだけど!」

 「お姉ちゃんは大丈夫だから行っておいで~」

 「もう!遅刻して怒られても私知らないからね!」


 また目を閉じて説得力ゼロな事を言って茶々は手を振る。さすがにこの態度にカチンときた奈々は茶々の手を放して大股でリビングから出ていこうとして、ふと足を止めた。

 

 「ねぇ、お姉ちゃん?」

 「ん~。なに~?」

 「学校のゴミ捨て場の近くに何かあったか知ってる?」

 「ん~。ゴミ捨て場~?」

 「ううん、なんでもない。それじゃ私行くから。遅刻しちゃだめだよ!」


 今の茶々に何を聞いても無駄と思ったのだろう、会話を切り上げて奈々が部屋から出て行った。


 「ゴミ捨て場~…。ゴミ~?」


 奈々の言葉をオウム返しのように呟きながら茶々は妹が危惧した通りにソファーに倒れこみ寝息を立て始めてしまった。

 その二〇分後。茶々は様子を見に来たティアーネに手荒に叩き起こされて学校へと朝から全力ダッシュで向かうことになるのだった。

  


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