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第八章  3  喰らうモノ

 それは闇そのものだった。

 もじ絶望に色があるのなら、きっとこんな色をしているに違いない。

 そんな詩的な言葉を思い浮かべてしまうほどに、それは異質で不気味で恐ろしく、なのに目が離せない負の魅力に満ち満ちていた。

 戦闘経験なんてまるでない優子でもはっきりと分かる。


 (コレは今までの相手と違う……!)


 本能が危険を訴える、その感覚に優子は既視感を覚える。

 あの放課後のゴミ捨て場で感じた悪寒、それが再び優子の体を縛り付ける。

 だが、今はあの時とは違う。


 「師匠には悪いけどアイツの首は茶々がもらうよ!」


 黄色の髪をなびかせ優子を守る様に軽々と大剣を振るい茶々が師匠譲りの不敵な笑みを浮かべる。


 「こやつ、喰らったモノを腹に入れ直して逃げるつもりじゃ!」


 僅かな時間で敵の狙いを察する聡明な勇者に仕える使徒ティアーネ。


 そして優子は自分の右手にある大鎌と腕に浮かぶ紋様を改めて見つめ―――。


 「絶対に逃がしません!」


 大鎌を両手で強く握り茶々の隣に進み出る。

 ここで逃がせば、また多くの人や物、それにまつわる記憶が失われてしまう。

 少し前まで、その苦しみを味わった人間として、その元凶を見逃すわけにはいかない。

 今ここで戦えるのが自分たちだけならば戦わなければならない。

 優子は目の前の闇を見て陽太郎が本当に自分に見せたかったモノはこれだったのではないかと思った。

 全ての命を飲み込む闇を前にして優子が何を感じるのか、そしてどんな答えを出すのか知りたかったのではないか?


 (分かってはいたけど、やっぱりノせらたよね)


 けれど、それで良かったとも思う。

 この脅威を知らずに下す決断に何の意味もないと優子は思った。

 

 (でも、それはそれとして、あとで十塚さんにしっかり文句を言わないと!)


 軽い体験会みたいなノリで誘っておいて、この有様である。文句を言う資格は十分すぎるほどにあるだろう。

 そのために、自分の思い描き始めた未来を歩むために、優子は頼りになる仲間たちと並ぶ。

 そのために、障害となるモノを倒すために。

 

 一方、本来は誰も居ないはずの場所に現れた闖入者たちを見下ろしていた喰らうモノは喰らった獲物(人たち)の回収を一旦断念し体の再構築を開始する。

 もし、ここに現れたのがリョウならばそのまま一目散に逃げだしたのだろう。

 だが、現れたのは明らかにアレ(リョウ)より弱い三人だ。

 ならばさっさと始末して荷物をまとめて逃げればいいと喰らうモノは考えた。

 それはあらゆる世界で最強であり最凶であり続けたが故の傲慢。

 だから喰らうモノは考えが及ばない。

 目の前の脅威を過小評価しすぎている己の浅はかさに。

 周囲の搾りかすから力を掻き集め、喰らうモノの姿が変わる。

 ブヨブヨとした丸い胴体に特徴的な三角の頭、そこから飛び出した目は紅く染まり三人を見下す。

 口からだらりと下がった舌は紫色にそまり針のような突起物が無数に生えている。

 その姿は正に―――。


 『蛙!?』


 であった。


 そして境山に起こった事件を締めくくる最後の戦いが始まった。

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