第六章 6 戦闘と陥穽
「てい!」
手にした大鎌を横に振るい、二体同時に両断する。
流れるように大鎌を右手だけで回転させ、更に寄ってきた三体を薙ぎ払う。
(すごい!本当に思いのままに操れる!)
当然だが、優子はこんな大鎌を扱った経験はない。
にも拘らず、自分の体の一部みたいに扱えてしまう事に優子は感嘆していた。
運動神経もせいぜい並の上くらいでしかないはずなのに、華麗に宙がえりまで出来てしまうことにも驚きだった。
「でもゆうこちゃん、スカートであまり飛び跳ねないほうがいいよ!茶々的にはかわいい下着だと思うけどね」
「!!!?」
茶々も手にした武骨な大剣で喰らうモノ達を切り捨てていく。
ちなみに茶々は半ズボンなので激しく動いても問題ない。
「すみません、調子に乗ってました……」
「いいって。誰でも最初はそうなるって」
「そうじゃな。茶々も大概じゃったぞ。下着どころか……」
「はい、その話は終わり!にしても、ここじゃ茶々の能力使えないよ。優子ちゃんはいける?」
「能力?……はい、多分、大丈夫です」
「よっし、ならやっちゃって!」
背中合わせで会話しつつ近寄る敵を斬りはらう二人。
だが、一向に敵の数が減らないのは今も増え続けている。
今も空と地面から現れ続けている上に、優子たちに体を斬られた喰らうモノたちも瞬時に傷を再生させ戦列に復帰してくる。
「こ奴ら、今までの雑魚と違って核をもっておるな。あの紅い宝石みたいな部分を破壊するのじゃ!」
ティアーネのアドバイスを受け優子は的確に露出している核を破壊する。
一方の茶々は、大剣の横幅を利用してハンマーの要領で喰らうモノの体ごと核を押しつぶしていく。
だが、まだ状況は好転しない。
倒すよりも増援の数の方が多い、この状況を覆す一手を、優子は知っていた。
飛び掛かる犬の首に切れ味を意図的に落とした鎌を引っ掛け、身を屈めて飛び掛かろうとしている別の一体に投げつけると、優子の左手に青い光が集まる。
あとは、ただこれを解き放つだけでいい。
ただ、問題は―――。
「凍れぇっ!!」
突き出した左手から放出された力が優子の目の前に極寒の地獄を生み出した。
喰らうモノ達が次々と凍り付き動きを封じられる。
更にそこに追い打ちをかけるように空中に現れた氷の槍が喰らうモノの黒い皮膚を穿ち不気味な赤い世界に次々と氷の墓標が出来上がっていく。
「……あれ、私ここまでイメージはしていなかったような?」
「優子ちゃん、交代!」
「ええっ、いきなり!?」
もう一度背中合わせになった茶々と立ち位置を百八十度回転させられた優子は、その勢いを利用して蟻の首を撥ね飛ばした。
「トドメは任せて!」
茶々は器用に凍った肉壁を器用に滑りながら動けない喰らうモノにトドメを刺していく。
そして優子は――。
「とりあえず、その技の名前はありきたりじゃがコキュートスでどうじゃろう?」
「それ今必要ですか!?」
「イメージを固定化するのに名前を付けるのは便利じゃぞ。イメージが強固になるほど効果は強くなる、と言われておる」
「なんでもいいですよ、名前なんて!ええ~い、コ、コキュートス!」
多分に照れが混じった声であったが、それでも威力には問題なく目の前の喰らうモノ達が氷の彫像と化していく。
「そういえばリョウさんは……」
周りを見る余裕が出来た優子が首を巡らすと。
喰らうモノが吹き飛んでいた。
それはさながら暴風であった。
当たるを幸いに手足を振りまわし喰らうモノを蹴散らしていく。
爪に当たれば粉々に切り刻まれ、逃げようとする喰らうモノは強靭な足で核ごと体を踏み潰す。
隙をついて一体が胸に噛みつくが――。
「なんだ、そんなに遊んで欲しいのかよ!」
獰猛な笑みを浮かべ噛みつく喰らうモノの頭を掴んで無造作に引き剥がし、そのまま握りつぶす。支えが無くなって落ちてきた胴体を蹴り飛ばし、巻き添えを食った五体が弾け飛んでいく。
「確かに近寄らない方がいいですよね、あれは……」
「うむ。一緒に戦うなら遠距離での支援に徹した方がいいじゃろう。もっとも、それすら不要に思えるがな、あの御仁の場合は」
喰らうモノの出現スピードは明らかに落ちている。
このまま数を減らしていけば勝てる。
優子が思ったよりも戦えている事に茶々もティアーネも安堵し油断していた。
だからこそ兆候を見逃した。
「あ、あれ?」
「どうしたのじゃ?」
「いえ、何か足がああああああ!」
優子が足元に違和感を感じて下をみた瞬間、突然地面が斜めになり優子がウォータースライダーのように底が見えない暗闇に落ちて行ってしまった。
「優子ちゃ~ん!?」
「追いかけろ!」
「師匠は!?」
「どうやら俺向きの遊び相手を用意してくれたらしい」
ドスン、ドスンと柔らかい地面を揺るがし巨大な影がゆっくりとこちらに向かってくる。
ソレが一歩歩く度に地面が大きく揺れ茶々の体もトランポリンのように体が跳ねる。
「さっさと行け。俺にふみつぶされたくなきゃな」
「……藤城茶々、これより優子ちゃんを追いかけます!師匠、がんばって!」
「誰に言ってやがる。ティアーネも一緒に連れてけ」
「元よりそのつもりじゃ。行くぞ!」
茶々は優子の後を追って滑り落ち、ティアーネもそれを飛んで追いかけていく。
それを見送りリョウは視線を前に向けると一層獰猛な笑みを濃くする。
「さてと、これで思いっきりやれるな。なぁ、おい、デカブツ。てめえは張りぼてじゃねえよな。頼むからちっとは手ごたえがあってくれよ」
「GYUOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!」
耳障りな咆哮をあげて全長二十メートルサイズの熊が走る。
それを迎えうつリョウも体を巨大化させる。
「おらああああああ!!」
「GOOOOOOOOO!!」
逃げ遅れた小さな喰らうモノ達を踏み潰しながら、二体の巨獣の激突し、その衝撃だけで氷漬けになっていた喰らうモノが砕け散る。
その戦いの最中、優子たち三人を飲み込んだ穴は静かに閉じた。