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第六章 3  昏き欲望の底へ

 「大丈夫、優子ちゃん?」

 「だ、大丈夫です」


 巣の中は喰らうモノが持つ淀んだ魔力に満たされている。

 公園が異界化した時に優子の意識を奪ったのもコレが原因である。

 魔力を感知する能力がない地球人に大量の、しかも淀んだ魔力を叩きつけられれば、感覚が異常をきたし昏倒してしまう。

 輝石の力でカバー出来てはいるが、それでも今まで感じたことのないモノに身を浸すのは、それなりに辛い。

 しかも酔い止めのような薬も現状ないので慣れるしかないのだが慣れにかかる時間も人それぞれである。

 基本的に感覚が鋭い人ほど強い影響を受け、鈍いほど影響を受けずに済む。

 優子は鋭い方らしく入った瞬間ふらついてしまっていたが、茶々は元気いっぱいで優子を気遣っている。

 そして、少し離れた場所で右腕を変化させたままのリョウが周囲を警戒していた。


 「今は辛くとも時間と共に慣れてくると思うが、治らんようなら帰還も考えなければならんな」

 「だ、大丈夫です。もうそんなに辛くはないですから」


 心配そうな二人を安心させようとするが、三歩もいかずにふらついて強がりのメッキはあっさりとはがれてしまう。


 (うう、情けないなぁ)


 決意してきたのに、この体たらくに優子は泣きそうになってしまう。

 だが、そんな優子に離れた場所からアドバイスが送られてきた。


 「おい、輝石の力を使え」

 「え?」

 「おお、その手があったな。優子、あの大鎌を出すのじゃ」

 「は、はぁ」


 あの待機場所に来るまでにも一度輝石の力を使ってはいたが、それは身体能力を上げることのみ。

 大鎌を意識して生み出すのは今回が初めてである。

 

 (えっと、来て)


 ポーズも詠唱も必要なく、ただ優子がそう念じただけで左腕のブレスレットが光を放ち、右手には大鎌が握られていた。

 改めて見ると、その大鎌の威容と美しさに優子は見とれてしまう。

 柄は青を基調とし長さは優子の身長を越え、その先端には一メートルを超える長さの三日月型の刃が煌めく。

 装飾などは一切ないが、優子にはそれが『無駄のない美しさ』と思える。


 (って、これ自分が生み出したんだから、ただの自画自賛なんじゃ?)


 どうやらうっとりした顔で大鎌を見ていたようだが、茶々にも覚えがあるのかニヤニヤ笑っている。


 「にやついてんじゃねえよ。で、調子はどうだ?」

 「あっ、楽になりました」

 「ならいい。行くぞ」

 

 優子の身に起こっていたのは『魔力酔い』とも言われる一種の感覚異常である。

 その状態異常を、輝石の回復能力で打ち消す。その為にリョウは輝石を活性化、すなわち武具具現をさせるために優子に力をひきださせたのである。

 

 「茶々、お前も武器を出しとけ。そろそろ来るぞ」

 「りょ~かいです!」


 リョウの勘は正しかった。

 薄暗かった巣の中に照明弾のように紅い太陽が昇り、眼下の存在全てを紅に染め上げていく。

 そして、巣が姿を変える。

 外敵を排除すべく空間を組み換え迷宮とし、そして無数の兵士を生み出す。


 「先輩!急に周りの景色が!?それに地面から何か出てきましたよ!?」

 「大丈夫!今は目の前に敵に集中して!」

 

 先ほどまでまだ新しい塗装された登山道から急に薄暗い森の中に放り込まれ混乱する優子に茶々が叱咤しながら前へと飛び出し、何かの形をとろうとしていた喰らうモノを叩き斬る。

 

 「『通信塔クリスタルタワー』の設置は間に合わんかったようじゃな」

 「いつものことじゃねえか。おら、どんどんかかってこい!」


 通信塔とはエデンで開発された次元変動制御装置のことである。

 喰らうモノが作り出した巣は主の思いのままに姿を変える。

 通信塔で喰らうモノの空間操作能力に干渉しなければ、延々と同じ場所をグルグルと回り続ける羽目になってしまう。

 通信塔の力の源は勇者が持つ輝石であるため人員を割かねばならないデメリットがあるが、そもそも設置しなければ勝負に持ち込めない。

 今回の作戦では、天宮統也率いる第二班が担当することになっているのだが……。


 「あ~、こちら第二班!通信塔設置したぞ!こっちは防衛に入るから、みんな頑張れよ!」

 「一班了解!そっちもしっかりね」

 「三班、敵の群れに遭遇!報告通り、虫タイプが多いね。大きさは中型が多い。どれだけ長く潜んでいたんだ、こいつら?」

 「どうでもいい。出てくる奴は叩き潰すだけだ」


 リョウが手近な人間大の蟻の姿をしている喰らうモノの頭を掴み、急降下してきたカラス型の喰らうモノに思いっきり投げつけ撃墜する。


 「ひぃやぁあああ!こっちにこないで!」


 生来の虫嫌いである優子にとって人間サイズの虫が迫ってくるのは悪夢以外の何物でもない。

 だからだろうか。

 情けない悲鳴をあげているわりには、手にした鎌での攻撃は苛烈だ。

 横縦斜めと続けざまに繰り出される斬撃は喰らうモノを綺麗にスライスしていく。

 

 「お、おちついて、優子ちゃん!」

 「これ、やたらめったら長物を振り回す出ない!」


 そんなこんながありつつも、ほどなくして敵の第一陣は全滅した。


 「まぁ、大した被害が無くて良かったの」

 「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」

 「いや、別に大した事ないから気にしなくていいよ、うん、本当に」


 敵のいなくなった森の中に、若干髪が短くなってしまった茶々に謝り倒す優子の声が響く。


 「先が思いやられるな」


 その光景にリョウはため息をつくのであった。

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