第五章 ７ チーフの旅立ちと運命の出会い
「多数の喰らうモノが次元移動を開始した。その報告に生き残った多くの国民は喜んだ。しかし、それは間違いだった。忌石の防壁を突破できない喰らうモノ達はエデンを己の繁殖地として、別の世界へ攻撃を始めたのだ」
当初は喰らうモノがいなくなる事を期待した人々も腰を落ち着け一向に出ていく気配のない喰らうモノの姿に落胆した。
「今の自分たちは安全なのだから放っておけばよい」という意見が大勢を占めていた中、一人の王族の意見が流れを変えることになる。
「もし喰らうモノが違う世界で忌石を打ち破る力を手に入れれば我々は滅亡する！」
未だ喰らうモノが去らないのはエデンに完全な滅びを与えるためだという説は、小康状態を獲得し弛緩していた王宮を大いに揺さぶった。
そして、王は一つの決断を下した。
喰らうモノを追い異世界へ部隊を派遣。喰らうモノの行動を調べ、可能であればその世界と同盟を結ぶこと。
「その独立調査隊の隊長として私も参加することになったのだ」
「あれ、チーフは研究員じゃん？なんで調査隊に参加することになったの？」
「あっ、私もそれが聞きたいです」
どうやらこの話は初耳だったらしい茶々が手を挙げて質問し優子も同意見を表明するとチーフは肩をすくめてヤレヤレといったポーズをとった。
「大した話ではない。単純な権力争いの結果だ」
忌石の利用方法でチーフたちは王家専属の研究員となった。
しかし出る杭は打たれる。
元々、研究の世界では禁忌とされてきた物を利用して取り入ったと思われている二人に風当たりは強かった。
加えて、忌石の加工には成功した物の、対喰らうモノの切り札と期待されたエネルギー抽出の研究が遅々として進んでいなかったことも謂れなき批判を加速させた。
「万が一の場合、忌石を用いて退路を確保する。簡単に言うとそれが私の役目だった」
研究を存続させるための人身御供。
それこそがチーフの課せられた、そして他を納得させるための最大限の妥協案だった。
かくして、貧乏くじを引いた（選ばれた）五人が、喰らうモノを追って異世界へと旅立った。
「だが、我々の覚悟とは裏腹に辿り着いた世界は平和だった。正直、全くの見当違いの世界に来たのかと思った。だが、その世界、地球で我々は驚くべき光景をみたのだ」
エデンから来た喰らうモノたちが転移ゲートから現れるやいやな爆発四散していく。
この意味不明な現象を調べたチーフたちは地球の特異な環境を知ることになる。
「私も知識として知っているだけだが、どの世界にも魔力、マナ、魔素、呼び方はそれぞれだがある種の力の媒介となる物が大気中に含まれているらしい。だが、地球にはそれが全くなかった。……まるで作為的にも思えるほどに」
様々な形状を見せる喰らうモノからエデンに辿り着くまでに多くの世界を喰らってきた喰らうモノの体は、そういった不可視の力を取り込まねば生きられない体になっていた。
その喰らうモノが、それらが全くない環境に現れれる。それは例えれば生身で宇宙空間に飛び出すようなものだ。
「……でも、喰らうモノは今も活動しています」
「そう。我々は奴らの恐ろしさをまだ理解できていなかった。奴らは地球と言う異物を喰らうために己の体を作り替える事にした。そして今までの、他者を喰らって得た情報を全て捨て、一から地球の生物の情報を獲得し、地球環境に馴染む体を手に入れることにしたのだ」
「じゃあ喰らうモノが食べるのは……」
「全ての生き物は生きるため、そして種の保存、繁栄のために他の生物を糧にする。だが、喰らうモノは違った。奴らにとって何かを喰う事は種を、そして文明を滅ぼすための手段でしかない。その目的の為なら今まで喰らって得てきた能力を捨てる事も厭わない。我々が相手にしていたのは生物ではなく恐るべき殺戮兵器だったのだ。そして魔力のない影響を避ける為に体を微生物サイズまで落とし地球に潜り込んだ」
この調査結果をもってチーフを残して他の四人は帰っていった。
魔力を遮断することが出来れば弱体化を図れるというのは大きな報告だった。
そして、残ったチーフは一人地球に残り、喰らうモノを追った。
エデンでは歯が立たなくとも極限まで力を落とした状態ならば倒せると踏んだからだ。
「方法は簡単だ。私をエサに寄ってきた喰らうモノをサイコキネシスで押さえつけてやればいい。あとは地球の環境が始末してれる。そして私は原初の喰らうモノを調べながら密かに戦っていた」
「そんな時だったよな。俺と会ったのは。最初はびっくりしたぜ。空飛ぶてるてる坊主が訳の分かんない生き物と戦っているんだからな」
当時高校生だった十塚陽太郎との出会い。
それは地球とエデン、二つの世界の運命を大きく変えることになるとは、この時誰も知る由もなかった。
