第五章 6 世界が終わる日
「私たちの世界『エデン』は概ね平和に繁栄を続けていた。…やつらが現れるまでは」
ティアーネの言葉を引き継ぐようにチーフがエデンであった惨劇を語り始めた。
それはまさしく世界の終わりの物語であり、不謹慎とは思いながらも優子はその話に引き込まれていった。
事の起こりは謎の雑食性の生物が現れたという報告だった。
「人が襲われた」「動物が食べられた」「家が壊された」といった報告が寄せられた。
だが、その生物の目撃報告には姿の一貫性がなく、当初は同一種だとは考えられていなかった。
エデンに異世界から生物が流れ着くことは非常に珍しく当時の王宮技術師や学者は捕獲を当時の王であるティアーネの祖母に進言し採用された。
捕獲の為に出発した部隊が全滅したという報告があったのはこの選択から三日後のことだった。
そして同時に巨大化した怪物たちが次々と街を襲い始めたという報告が次々と挙げられ王宮はハチの巣をつついたような大騒ぎとなった。
「あの、エデンの人たちも反撃したんですよね?」
「もちろん必死に応戦した。しかし、それは全くの逆効果だったのだ」
エデンの技術力は地球のそれより数段上を行っていた。
浮遊戦車、街一つを吹き飛ばすエネルギー砲、そして封印されていた物質崩壊弾。
持てる限りの兵器と人員を動員した決戦は、しかし敵に塩を送るだけの結果となった。
「あらゆる物質、エネルギーは奴らに吸収され、ただ奴らの成長を促すだけに終わった。その後に起こった事は言うまでもないだろう」
当時の兵力の五割を失った王国に最早喰らうモノを止める術はなかった。
更にそれぞれの都市が独自に反撃を試みるが、そのどれもが敗北を重ね、逃げ惑う難民たちにも喰らうモノは容赦なく襲い掛かった。
民を救うべく救援に向かった王も行方不明となり、もはや世界の終わりは避けられないところまで迫っていた。
だが、そんな王宮にある真偽不明の情報が寄せられた。
「喰らうモノは『忌石』を避けている」という情報に王宮は色めき立った。
そして長らく忌石を研究していた二人の人物を王宮に呼び寄せた。
「一人は私で、もう一人は私の師だ」
「え、チーフさんって研究者だったんですか!?」
「この眼帯の所為か、妙に歴戦の兵士みたいに思われているがね。一応軍属であった事もあるが才能がないので除隊してこの道に入ったのだよ。そして我々は忌石に関する研究を王家庇護の元で続けることになったのだ」
忌石、それはエデンでもっとも忌み嫌われた鉱石であった。
その理由は内包するエネルギーにある。
たとえ僅かな量であっても凄まじい爆発を起こす、この石は今まで多くの鉱山夫、そして研究者を周りの物もろとも吹き飛ばしてきた。
それでも、そのエネルギーを利用しようと多くの研究者、技術者が解析に挑んだが、その結果はどれも悲惨な結末を招いた。
いつしか忌石は口に出す事すら憚られる物となり、その研究を行う者は犯罪者同然の扱いを受けていた。
そんな境遇だった二人が、一躍時代の寵児となったのだ。
王宮内では、その処遇を巡って大いに紛糾したが新たな王はその言を退け、自ら頭を垂れ二人の知識を求めた。
その王に感銘を受けたチーフたちは尽力を約束し、今までの研究成果を全て開示した。
「我々が行っていた研究は、忌石のエネルギーが何に反応するかというテーマだった。そして、その研究結果を基にして忌石を掘り出し加工し王都に防壁を築いたのだ。……何万もの将兵や国民の命を犠牲にして、だ」
こうしてエデンは、九割の土地と人口を失いながらも首の皮一枚の所で全滅を免れた。
そんな中、王宮に喰らうモノに関する新たな情報が飛び込んできた。