第五章 5 喰らうモノ
≪ギルドマスターの部屋♡≫
「……なんですか、このプレート?」
「誰かが勝手に作ったんだよ。まぁ、別に困る物でもないから放置しているんだけど」
猫と犬が描かれた可愛らしいプレートの付いたドアが開くと、そこが普段陽太郎とチーフが執務に使っている部屋だ。
沢山の本が積まれた立派な机に本棚、来客用のテーブルにソファーもあり中々に居心地が良さそうな部屋だった。
「そっちのソファーに掛けてくれ。時間は……あと30分くらいか。さて、何から話そうか」
「あの、なら最初に皆さんが喰らうモノって呼んでいる怪物について教えてください。私、学校で似た怪物を見たんです!それで……」
「色々追っていて、ここまで辿り着いた?」
「はい」
「そうだな。まぁ、何を話すにもまず元凶から話した方がいいか。という訳で頼むぜ、チーフ」
「はぁ、まぁ構わないがな。では、改めて私から話をさせていただこう。まず喰らうモノとは何かについてだが……正直な所、アレがどういった生物なのかは私たちにも分からない」
「え?」
「分かっているのは、次元を超えて現れては、そこにある資源、そして人を貪り、そして別の世界へ渡っていく。作物を喰い荒らす蝗害に近いといえるだろうな。もっとも被害は一つの世界の滅亡と比べ物にならないほど大きすぎるが」
「自分の目で見たから喰らうモノの実在を疑うつもりはありません。けれど、なぜそんな得体の知れない怪物が全く報道されていないんですか?ひょっとして政府が……」
「いや、喰らうモノの侵略に気づいているのは、このギルドに名を連ねている者のみだ。どんな権力者であろうと喰らうモノの存在に気づいてはいない」
「気づいていないって、そんな事あり得るんですか?」
「ある。現に君も喰らうモノを見たことをはっきりとは憶えていなかったのだろう?」
「そ、それは……」
「それが当然なのだ。むしろ、自分の記憶に疑問を持って行動し続けれた君はかなり特異な存在と言える。多少、記憶に欠損があろうとも地球人は気にせず日常を送っているのだ。今までも、そして願わくば未来においてもそうあって欲しいと思う」
「で、でもあの範囲が消失なんてしたら誰だっておかしいと思うんじゃないですか!?」
「そう思うだろう?だが、現実は……」
優子の前にいくつものスクリーンが現れ、様々なテレビ局の放送が映し出される。
だが、そのどれにも西山に関する緊急速報は流れておらず、土日の夕方らしい緩やかな番組がスケジュール通りに放送されている。
「西山を通るルートでどこかへ行こうとしている人も、何も疑問に思わず迂回しているし、家族、恋人が巣に取り残された人も、もはや彼らの事を忘れ普通に生活を送っているだろう。中には君のように『喪失感』に苦しむ人もいるだろうが、時と共に忘れてしまう。だから誰も気づかない。だから我々は戦うのだ。誰かの大切な物を取り返すために!」
「お~い、チーフ。ちょっと熱くなりすぎているぞ。まぁ、そんな理由で警察やら自衛隊には頼めないって訳なのさ。もっとも頼めても犠牲者を増やすだけだけどな」
「銃とかが効かないって事ですか?」
「その通りじゃ。じゃから我らの世界は奴らに敗北され蹂躙された」
今まで黙っていたティアーネの言葉に合わせてスクリーンの映像が切り替わる。
そこに映っていたのは明らかに地球と違う世界の風景だった。
見たこともない建築様式の建物は周りの自然と調和しまるで芸術作品のようにも見えた。
建物の高層には透明のチューブが繋がれ、そこを高速でカプセルの様な物が行き来している。
平べったい乗り物は自由に空を舞い、エデン人が楽しげに会話や買い物を楽しんでいる風景は、まるでどこかのテーマパークの一区画のようだ。
だが、その夢のような光景は悪夢に切り替わる。
建物などを見れば同じ場所を写した映像だと推測できる。
だが美しかった風景はあまりにも様変わりしすぎていた。
建物は崩壊し自然は荒れ果て、そして奇怪な姿をした黒い怪物たちが跳梁跋扈している地獄と化した光景に優子は息を呑んだ。
「これがエデン。我らの……故郷じゃ」
優子はティアーネの震える声が酷く遠くから聞こえた気がした。




