序章 3 新たな任務
ちょうど茶々が学校で眠気と絶望的な戦いをしている頃、勇者ギルド本部の一室、ギルドの長に当てがわれた部屋でソファーに足を組んで座っているリョウがいた。
茶々と同じく徹夜のはずなのだが、こちらには全く疲れなど感じさせずにめんどくさそうに背もたれに体を預け、対面する人物にフードの奥から鋭い視線を向けていた。
その視線を受ける人物、通称チーフと呼ばれるティアーネと同じような体を持つ男は渋い声で静かに語りだした。
「それで藤城茶々の事だが……」
「おまえん所の姫さんから報告いってるだろ。とりあえず合格だ。あとはそっちで上手く扱え」
取り付く島もないリョウの言い分に気を悪くした様子もなくチーフは「そうか」と短く答え話題を変えるべくリョウの目の前にスクリーンを展開し一枚の地図を映し出した。
「なんだよ、茶々丸が住んでるところじゃねぇか」
「その通り。ティアーネ姫から境山町における喰らうモノの発生件数が気になると報告があった。なのでここ最近の発見、討伐した場所を調べてみた。君も既に何体か倒しておいてくれたようだが」
「目障りだから潰しただけだ。で、巣でも出来てるのか」
「可能性は極めて高いな。境山町の中心部で6件、四方を囲む山を含めた周辺部で5件。更に周辺の町でも現在までに7体が確認されている」
地図が持山町の周辺を含めた地域を表示し、そこに喰らうモノの出現場所を示す赤い点が点灯する。
チーフの言う通り、分布図を見ると人の多い中心の都市部が一番多い。
「どう見る?」
「町にいるのは山から降りてきた奴らだろ」
「根拠は?」
「テストなら別の奴にやれよ。町にいた奴と山にいた奴、どっちの方が育っているか一目瞭然だろうが!」
「別に試したわけではないが、気に障ったのなら謝ろう。ただ、考えが私と一致しているのか知りたかっただけで馬鹿にしたわけではないのだ」
「ちっ、んな事はいいからどうやって巣を探し出すか決めたのかよ?今は大して人を動かせないんだろ?」
元々、勇者の数は多くない上に、ある大きな作戦を前に多くのメンバーがその準備に追われている。リョウが単独で行動していたのもこうした理由があるからだった。
「君も三日後には向こうに入ってもらう予定だ。だが、その前にこの境山町の件は片を付けておきたいと思っている」
「そいつは同感だ。で、どうするんだ?」
「簡単な話だ。動ける人材で対処するだけだ。というわけで君には藤城茶々とティアーネ姫と共に境山町を担当してもらう」
「おいまてこら」
「何かな?」
「なんで俺がお守りを続けなきゃならないんだよ!」
「君が彼女を上手く扱えというからベストなチーム分けをしたまでだが?望むのなら理由も付け加えても構わないが……」
「勝手にしろよ。その代わり俺も勝手にやらせてもらう」
「了解だ。二人にはこちらから連絡する」
不機嫌さを隠そうともせずに部屋を出ていったリョウを見送るとチーフはさっそく二人に向けて短いメールを送る。
≪今日中に本部に来るように。そこで新たな任務を説明する≫
こうして境山町を舞台にした新たな戦いが人知れず始まったのだが、睡魔に負けて机に涎を垂らしている茶々がそれを知るのはまだ少し後のことである。