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第四章 3 合流

 時間は少し巻き戻して、場面は再び土壁のシェルターの中に戻る。


 「大丈夫かの?」

 「何ですか、これ。私、さっきまで公園にいたのに」


 よく取り乱した人をビンタで正気に戻すという描写があるが、壁に頭をぶつけた優子にも同じ効果があったようで、とりあえずパニックからは脱していた。

 とはいえ状況がさっぱり分からない以上警戒を緩めることはない。

 今の状況を考えれば、一番妥当な線は「誘拐」だろう。

 そして目の前には、ふわふわ浮いているよく分からない存在がいる。


 (これは、まさかキャトルミューティレーションされる流れ!?)

 「何やら妙な想像をしとるようだが、我はお主に危害を加える気は一切ない。むしろ助けにきたのじゃぞ。だから、そう怖がるでない。我が名はティアーネじゃ、よろしくな」


 そう言われて、すぐに警戒心が和らぐ訳ではないが、それでも少なくとも言葉が通じる事に優子は安堵していることを自覚していた。

 それに、姿はアレで話し方は尊大だが、自分を気遣ってくれているのは感じる事ができた事も大きい。

 優子は覚悟を決めて、異形と向かい合った。


 「うむ、意外に肝が据わっておるの。そちらも色々聞きたいことがあるじゃろうが、まずは簡単に今の状況を伝えておきたい」

 「は、はぁ……。って、何か地面が揺れていますけど!?」

 「戦闘中じゃからな。それよりもじゃ。お主は自分が連れ去られたと思っておるようじゃが、ここはお主がいた公園じゃ。お主が寝てたベンチに見覚えがあるじゃろ?」

 「ある気がしますけど、それよりも!戦闘中って何ですか!?」

 「言葉通りじゃ。外で茶々、お主がさっきまで話していたちっこい娘が戦っておる」

 「先輩が!?」


 完全に理解が追い付かず優子は目の前がクラクラしてきた。

 これなら「人体実験の為に誘拐しました」と言われた方がまだ理解できる。


 「簡単に言えば今は閉じこめられている状態でな。救助がくるまでここで籠城しておるという訳じゃ」

 「あの先輩が戦っている、というのもよく分かりませんけど、それより一体何と戦っているです?」

 「そこから見てみるとよい。ただし気を強く持ってな」

  

 シェルターの唯一の出入り口に優子は立ち上がってゆっくりと近づき身を隠しながら外を覗く。


 「…………」

 「大丈夫か?」

 「知っている。私、アレを知っています!」


 茶々が戦っている超巨大蜘蛛を見て優子の押さえていた感情が爆発してしまう。

 姿は違う。しかし、あの闇を纏ったかのような体の色は、血のように紅い瞳は、そしてただ見るだけで湧き上がる恐怖と嫌悪の感情は、まさしくあの日の放課後に見た怪物そのものだった。


 「そう、学校にあった焼却炉を喰らった怪物の眷属、いや、同一の存在かもしれんな。あれが喰らうモノ。地球を狙う侵略者じゃ。そして、それと戦う者こそ……」


 突然、外が赤一色に染まる。

 蜘蛛が吐いた業火が、元々紅かった世界を更に赤く燃え上がらせる。

 

 「下がっておれ!」

 

 何か見えない力に体を後ろに引っ張れ優子がベンチに座らせられる。

 入れ替わりにティアーネが前へ出て短い両腕を前に突き出すポーズをとると光の膜が出入り口に張られ熱をシャットアウトする。


 「蒸し焼きになったりしませんよね!?」

 「周りの壁もただの壁ではないから大丈夫じゃろ。とはいえ手は触れん方がよいぞ。手の皮膚が張り付いたりしたら悲惨じゃからな」


 その光景を想像してゾっとした優子は壁に触れないようにベンチの縁を手でつかむ。

 

 「先輩、外にいるんですよね?」

 「なに、この程度でやられ茶々ではないわ」

 

 「ウォール、ブレイクッ!!」


 火炎を防いだ五メートル四方の土壁に茶々が思いっきり剣を叩きつけた。

 その一撃と意志を受けた壁が砕け散弾となり蜘蛛の体を打ち砕く。


 「あれ、本当に先輩なんですか?」

 「髪の色が違うが、間違いなくさっきまでお主と話していた藤城茶々に間違いないぞ」

 「一体何がどうなって……」

 「むっ。いかん!」


 何が、と問う間もなく地面が激しく揺れシェルターが崩壊し、優子の体が下から何かに突き上げられ宙を舞った。

 三メートルほどの高さから地面に落下。衝撃に備えて身を固くするが、空中で急に減速した。

 下から来た喰らうモノの攻撃を免れたティアーネが優子をサイコキネシスを使ったのだ。

 

 「下ろすからこっちに走ってくるのじゃ!」

 

 地上30センチの所で浮遊感が無くなり地面に着地した優子が後ろを向くと、そこに居たのは映画で出てくる人食い蛇の如き喰らうモノだった。


 「なっ、なっ、なっ!」

 「何をしておる、早くこっちへ!」

 「優子ちゃん!?」


 茶々も後方の異変に気付いたが、黒い粒子を撒き散らしながら体を再生させた蜘蛛の火炎を防ぐ、文字通りの壁になるために動けない。

 鎌首をもたげ、自分を見下ろす蛇型の喰らうモノに見つめられ優子は完全に恐怖に囚われ動けない。

 そして、チロチロと舌を動かしていた蛇が顔の大きさ以上に口を広げ、優子を丸のみにしようとする。


 「くっ、間に合え~!」

 「我の前でこれ以上死なせてなるものか!」


 茶々がもう一度、土壁を作るよりも。

 ティアーネが、もう一度サイコキネシスを使い優子を引き寄せるよりも。


 「こ、来ないでっ!!」


 優子の左腕、あの光が集まった個所から眩い青い光が迸る。

 赤を切り裂き、青に塗りつぶすほどの眩い閃光に蛇の目が焼かれ、優子の目前まで迫っていた顔を天に向け悶え苦しむ。


 この光はただの光ではない。

 あらゆる攻撃を吸収し、その全てを喰らい模倣することが出来る喰らうモノが、唯一喰らう事が出来ない力、その源なのだ。

 故に喰らうモノは、この光を持つ者を嫌悪する。

 全ての生命は、喰らうモノにとっては「餌」に過ぎない。

 だが、この光を持つ者は違う。

 己の全てをかけて殺さねばならない「敵」なのだ。

 一度、光を失った目に黒い炎が宿る。

 もう一度、頭を持ち上げ、敵を飲み込むために一気に振り下ろす。

 しかし、その口が獲物を捉えることはなかった。

 もし、喰らうモノに表情があったのなら。

 下部から氷漬けになっていく己の姿に驚愕していただろう。


 「こっちに、来ないでって言っているでしょっ!」


 半ば半狂乱になった優子は、いつの間にか手にした青を基調にした柄を持つ、恐ろしく鋭利な大鎌で未だ氷に覆われていなかった頭を盛大に斬り飛ばした。

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