第四章 2 力の発露
喰らうモノは喰らってきたモノに擬態する。しかも喰らったものを適当に継ぎ接ぎするので同じ姿をしているモノはほとんどいない。
とはいえ、巣から生み出されたばかりの個体は差異がそれほど多くない。
加えて巣の主が主に喰ってきたモノがダイレクトに反映されるので対処が分かれば数が多くても何とかなる、というのが先輩たちの教えではあったのだが。
「にしても、数が多すぎる!」
虫、小動物を単純に巨大化したモノから、山に捨てらていたのかタイヤやら車やら種類が多く茶々も対処のしようもない有様であった。
剣で跳ねているタイヤを斬りつけるが弾力で押し返されそうになる。
「ぬおおおおおお、根性~!」
斬る事を諦め剣に引っ掛けたまま体を二回転させ、手近な喰らうモノにタイヤを打ち返した。
ガンガンと優子たちを守っている土壁に体当たりを繰り返す喰らうモノたちを引き離そうとするが、茶々の前に別の個体が現れ進路を塞ぐ。
「ああ、もう!師匠みたいにこいつら一気に薙ぎ倒せたらいいのに!」
ここにいないリョウならば。
きっと無人の野を征くが如し、目の前の敵を一瞬で屠っていくだろう。
だが、ここに師はいない。
(考えろ、茶々に出来る事は!?)
茶々の能力、それは大地を変動させる力である。
細かく分類すれば、この力は「自然変化」に属する力で、非常に強力な力だ。
ただし強力な力には制約があるのが世の常。
茶々の能力、「大地変動」はそもそも地面が露出している場所でないと力を発揮できない。
アスファルトなどで舗装されていると能力が発揮できない上に、建物や地面の破壊を防ぐために結界を張った場所でもアウトと使いどころがなんとも難しい能力なのであった。
ちなみにテストのときに使った結界は特別製であり茶々の能力を活かせるように地面にはあえて結界の保護能力を外していたものだった。
そして、今。
茶々の足元には舗装されていない地面がある。
(イメージ、イメージしろ、茶々!)
脳内に浮かんだ、あるイメージが確たるものにするために茶々は叫び剣を地面に突き立てる。
「アースランス!」
剣から黄色の光が地面を走り地面に立つ喰らうモノたちの体を次々と岩の槍が突き刺し動きを封じる。
その光景に一番驚いたのは、他ならぬ茶々自身だった。
「おお~、ゲームの真似だけど上手くいったよ!」
以前遊んだRPGの土魔法をイメージしたのが上手くいったことに茶々は喜ぶ。
だが、忠実にゲームのイメージを流用した攻撃は、同時に弱点も真似てしまっていた。
喜び、警戒が緩んだ茶々の左肩を上空から放たれた熱線が貫いた。
「っ!!そりゃ確かに空を飛ぶ敵には大地属性の攻撃って効きないことが多いよね!」
二発目をバックステップでかわし茶々は気を引き締める。
勇者は輝石の力を受けていることで高い回復能力を持つが、特に茶々のそれは群を抜いている。
破けた服から覗く肌は既に火傷の跡も残ってはいない。
だが、それでも痛みは感じるし失った血液までは取り戻せない。
「でも、ゲームと違ってこっちの能力はカスタマイズ出来るんだから!」
地面から更に長さと鋭さを増した岩槍が空を飛ぶ喰らうモノたちを刺し貫く。
しかし、普通の生物なら生命活動が停止するような一撃を受けても、この貪欲な侵略者は止まらない。
傷口が広がるのも気にせず、むしろ体を引き裂いて岩槍から逃れた個体が、同じように体が千切れた個体に近づき合体していく。
ベースは蜘蛛に近いが、足は様々な動物の物を適当につなぎ合わせ、膨らんだ腹部が異様に赤い。
大きさは既に大型トラック並だが、周囲の喰らうモノが合流し更に膨張を続けている。
そして、紅く光る眼を茶々に向け、口を広げ腹に溜まっていた火炎を一気に吐き出した。