第二章 3 職員室にて
「昔の学校の写真?卒業アルバムにのってるんじゃないのか?え?ゴミ捨て場の辺りのが見たい?あんな何もないところ撮ってるとは思えないがなぁ」
昼休み。優子は職員室で用事を終えた優子は何人かの先生にゴミ捨て場周辺を撮った写真がないかを聞いてみた。併せてさりげなくゴミ捨て場周辺に『ナニカ』なかったかを聞いては見たが大体において前述のような答えしか返ってはこなかった。
「う~ん、私の卒業アルバムにもないわね~」
「そうですか~、って、鈴木先生はここの卒業生だったんですね~。でも何で卒業アルバム持ち歩いているんですか?」
「前に生徒が見たいっていうから持ってきてそのまま置きっぱなしだったんですよ」
「どれくらい前のが見たいとかあるのか?」
「昔の卒アル、どこかにあるんですかね?図書室?」
「昔のは住所とか個人情報が載ってたからどこかにしまったんじゃなかったか?」
普段の優等生ぶりが功を奏して、意外に先生たちも協力的で和気あいあいとおしゃべりをしながら相談に乗ってくれたが残念ながら手掛かりになりそうな話は聞けそうになかった。
「しっかし、なんでそんな場所の写真なんて見たいんだ?」
他の先生に比べて、厄介事を持ち込まれ憩いの時間を邪魔されて明らかに迷惑そうな顔をした担任がやや強い口調で優子に尋ねる。その質問も、一応担任としての責任を果たそう、というよりは他の先生の目を気にしてのものだと優子も気づいていた。
とはいえ、質問自体は妥当な物ではあるので無視するわけにはいかないが、事情を説明できずに結局「ちょっと気になることがあったので……」と言葉を濁すしかなかった。
「ふうん。まぁ、あまり先生に迷惑かけるなよ」
(いつも私の都合も聞かずに雑用を押し付けてくるあなたに言われたくないわよ!)
優子の心の声など気づくはずもなく面倒事から逃げるように担任は「ちょっとトイレへ行ってきます」と言って職員室を出て行ってしまった。
(あの人は今年赴任した人だしOBでもないみたいだから期待なんてしてないからいいけど)
担任の態度には腹が立つが他に気にしなければならないことがあるので優子は気持ちを切り替えて、もはや優子を放ってあれこれ話し合っている先生たちにもう一度話を聞こうとした。
「おや、なにやら賑やかですな」
「ああ、若先生、いい所に!」
若先生と呼ばれたのは、既に初老の男性教師だった。社会科の先生で優子も一年生の時にお世話になった先生でもある。
温和な性格とユーモアを交えた授業は生徒たちから圧倒的な支持を受けており優子もこの先生には尊敬の念を持っていた。
「じつは竹内が……」
優子が話をする前に別の先生が事情を説明する。それに対して若先生はうんうんと頷き恐縮している湯子に優しい視線を向けていた。
ひとしきり話を聞くと若先生はふ~むと唸って、すっかり白くなった頭髪を撫でる。
「卒業アルバムは校長室の棚に置かれているはずだよ。ただ校長は今日は出張でいないんだよ。今日は金曜日だから来週まで待ってもらうしかないだろうね」
「そう……ですか」
ちなみに境山中学校の校長もなかなかにフレンドリーな性格をしているので頼みやすくはあるが、そもそもいないのでは話にならない。
待つしかないか、と優子が諦めかけたとき若先生がポンと手を叩いた。
「ああ、そうだ。もしかしたら郷土博物館にあるかもしれないよ。何年か毎に市民に提供してもらった古い写真の展示会もしているからね」
「郷土博物館、ですか?」
「ほら西山の近くにある。小学生の時に遠足で行った事はないかい?」
「あ、はい、あります!」
西山というのは名前の通り堺山町を囲む四方の山、そのうちの西側にある山の通称である。
郷土博物館はその麓にある。町の規模の割には立派な建物で近くにこれまた大きな広場が併設されているため境山町にある小学校は必ず一度は遠足で訪れる場所である。
優子は小学生の時にバス遠足で行ったことを思い出した。もっとも、その内容は展示物よりも広場でお弁当を食べたり遊んだことがメインで展示物の記憶はほとんどなかったが。
(確か町の古い写真とか展示していたなぁ。うん、明日は土曜日だし午後に行ってみよう!)
週末に家で悶々としているよりは動いた方が気が楽だし、なにより何年かぶりに行く博物館に優子は少しワクワクしてもいた。
「若先生、ありがとうございます!明日、博物館に行ってみようと思います」
「おお、そうかね。なら今そこで職員をしている教え子に連絡を入れておこう。明日行くときには生徒手帳を持っていきなさい」
「はい、それでは失礼します」
若先生と相談に乗ってくれた先生たちに丁寧に頭を下げて優子は職員室を後にした。
(家に帰ったら行き方を調べないと。自転車よりもバスがいいかな)
自分の身に降りかかった不可解な出来事を調べ動き回るうちに不安よりも楽しさが勝ってきていた。
(まるでミステリーの主人公みたい!)
そんな事を考える程度に余裕が出来た優子だが、このプチ遠足が自分の運命を変えることになるとは知る由もなかった。