第二章 2 奈々の助言
朝、今日も心配そうな顔をして見送る母親に無理に笑顔を作って登校した優子は窓際のある自分の席に座ってボーッと外を見ていた。
遅刻ギリギリに登校する生徒たちが次々と校門に飛び込んでいる光景をなんとはなしに見ていた。
「あっ、やっと来た!」
聞き覚えのある声に視線を前に向けると奈々が窓に額を付けて熱心に外を見ている。普段のクールさはなりを潜め今にも窓を開けて何か叫びだしそうなほどである。
見てはいけないものを見たような気がしたが、同時に奈々が何を見ているのか気になって優子は彼女の視線を追って行くと同じように走っている生徒をごぼう抜きして校門に駆け込んだ背の小さい女生徒にいきついた。
(そういえば藤城さん、三年生のお姉さんがいるって誰か言っていたけど、あの人がそうなのかな?)
直接聞いたわけでなく人づてに聞いた話をぼんやり思い出しているとチャイムがなった。
視線を前に戻すと、既に奈々の姿はなく自分の席に座っていた。
(藤城さんって、本当はもっと感情豊かな人なのかな)
好感を持っている相手の意外な一面を見て優子の口元が自然に緩んだ。
「お~い、竹内、号令頼むぞ~」
「あ、はい!」
いつの間にか教壇に立っていた担任に促され現実に引き戻された優子の声が教室に響き、何気ないいつもの学校生活が始まった。
ただ、優子の内面の戸惑いと焦燥にまみれていたが、それに気づく者は誰も居なかった。
(もしかしたら自分はおかしくなってしまったのかもしれない……)
授業を受けている間も、そんな考えが浮かび全く授業に集中できなかった。
幸い、先生に指名されることがなく恥を晒すことはなかったがこのままでは精神的にも良くないのは明らかだ。
(でも、どうすればいいの?)
恥も外聞も捨て去って二日前の自分の行動を聞いて回るしかないのだろうか。
段々追い詰められて思考が狭まっていく中、「竹内さん」と名前を呼ばれ優子は視線を上げた。
そこに居たのは昨日と同じ心配そうな顔をした奈々だった。
「国語の先生が昼休みに職員室に来てくれって言ってましたけど……。顔色が悪いけど大丈夫ですか?保健室に行くなら付き添いますよ」
「あっ、大丈夫です。昼休みですね」
「あの……。この学校の事なら先生方に聞いたら何か分かるんじゃないでしょうか?」
「え?」
「あっ、ごめんなさい。昨日の質問、先生なら答えられるんじゃないかなって。余計な事でしたか?」
「ううん、そんな事ないです!ありがとう、藤城さん」
久しぶりに無理をしていない自然な笑みで優子がお礼を言うと、密かに質問に答えらなかった事を気にしていた奈々も微笑を返して自分の席に戻っていった。
まだやれそうな事は残っている。そう思えるだけでこんなにも気持ちが軽くなることに驚きながら優子は次の授業の準備をはじめるのだった。