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亜人娘が得たものは  作者: 戴勝
第13章
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第7話 魔術士たちとの戦いは

サラは苦戦していた。


試合が始まってから初級魔術を使って戦い続けているが、相手の使い魔に当たる気配は微塵もない。


上級以上の魔術を使ってもいいが魔力が持つ自身がなかった。


サラの攻撃を躱したシナツと呼ばれる使い魔が接近してくる。


「くっ……『水壁(ティホス・ネロ)』ッ」


サラは正面に水の壁を作り出す。


そこにシナツが風を操って作り出した刃で、前足を振り下ろすとともに放ってくる。それによってサラが作り出した水の壁は真っ二つに裂かれ、サラとシナツの視線がぶつかる。


そこでサラは残った水を使って次の魔術を行使した。


「……『流撃(カタギータ)』ッ」


それは中級魔術。サラは防御で出した水を一点に集め、シナツに向けてレーザーの如く発射させた。


「キュイッ⁉︎」


ほぼゼロ距離で放たれたサラの魔術をシナツは避けることができずに受けてしまい、遠くに押し飛ばされる。


「やるわね、あなた。初級魔術しか使って来ないものだと思っていたのだけれど、中級魔術も案外余裕そうね」


アリアが腕を組みながら言葉にする。その言葉と態度からは負けることなど一切頭に浮かんでいないかのような余裕を持ったものだった。


「アリアちゃん、だったよね。アヒトから私のことを聞いてたの?」


アリアの言葉に疑問を感じたサラは質問してみた。


「ちゃ、ちゃんって……ご、ごほん。そうよ。敵の情報を知ることは何よりの戦術よ」


サラに「ちゃん」付けで呼ばれたことが嬉しかったのか、照れを隠すために咳払いをしたり髪を払ったりした仕草をみせる。


「ふふっ。攻撃が当たらないのもしょうがないかもだね。だったら私も本気をだすよ! もう魔力の温存は気にしないことにする」


「そうしてくれるかしら。じゃなきゃ、戦ってる気がしないもの」


「言っておくけど、私が本気出したらアリアちゃんなんて一発で倒しちゃうからね?」


「やってみなさい。一発では倒されない自身はあるわ!」


アリアがそう言うと、シナツが自分の体に風をまとわせて戦闘態勢に入る。


「じゃあ行くね! 『泥人形(コウクラ)』ッ」


サラがそう唱えた時、シナツが立っている地面が突如隆起し始める。


「シナツ、下がりなさい!」


アリアの指示に従い、シナツは後ろに跳ぶ。


すると、隆起した地面から巨大な手が出現し、やがて巨大な人型が這い出てくる。だが、その全身は土や石で覆われており、人と言えるものではなかった。


「こ、これは……ゴーレム、なのかしら!?」


アリアがゴーレムを見上げて一筋の汗が頰を流れる。


サラがニコリとアリアに笑みを向ける。


「これで対等に戦えるね!」


「どこが対等なのよ! 大きさが真逆じゃない!」


「じゃあやっちゃって!」


「話聞いてるかしら!?」


アリアの声が聞こえていないのかサラは杖を構えて攻撃の指示を出す。


実際、サラの耳にはアリアの声は届いていなかった。はじめに初級魔術や中級魔術を使ったことから、サラの魔力の残量が少ないのだ。五感の一部が著しく低下している。さらに、製造したゴーレムを操作しなければならないため、サラの体は刻一刻と魔力欠乏症へと近づいて行っている。


だが、最近では魔力の急激な減少と回復をやり過ぎているせいか、体が魔力欠乏症に慣れてきてしまっている気がしてならなかった。今も魔力残量が少ないというのにふらつくことはない。


これは喜ぶべきことではないことはサラ自身理解している。なぜなら、魔力欠乏症になっていることに自分が気づかずに魔術を使い続けてしまうと、死ぬ恐れがあるからだ。


だからサラは焦りを抱きながら、アリアに向けてゴーレムを仕掛ける。


「シナツ! そいつ攻撃を受ければおそらく後はないわ!」


「キュイ!」


アリアの言葉にシナツは頷き、風をまとわせて宙に浮く。


ゴーレムがシナツへ向けて拳を振り抜く。


それを空中で躱したシナツは風の刃を生成してゴーレムの腕を斬りつける。だが、強度が高いのか、風の刃ではゴーレムにまったく傷を入れることができない。


「ちっ、シナツではゴーレムを倒すことができないって言うのかしら。なら『分身』を使ってサラさんに直接攻撃するしかないようね」


そう呟いたアリアはシナツに指示を出そうとしたが、わずかに遅かった。シナツがゴーレムの攻撃を避けきれずに受けてしまったのだ。


「シナツ!」


アリアのもとにシナツがボールのように転がってくる。


「立ちなさいシナツ! あなたはここで終わるような子じゃないはずよ」


アリアの言葉にシナツは体を震えさせながらゆっくりと起き上がる。


「残念だね。一発とはいかなかったみたいだけれど、その様子じゃもう勝負は決まったようなものだよね?」


魔力が限界なのか、雰囲気が先程とは少し違うサラが笑みを浮かべて杖を構える。それによってゴーレムがシナツへ向けて動き出す。


「くっ、シナツ頑張って!」


アリアはそう叫ぶも、シナツは立つことが精一杯のようで動くことができないでいる。


ゴーレムが拳を振り上げる。その時


「ごああああああッ」


突然、ゴーレムに向けてロシュッツが飛来してきた。








序盤はベスティアと互角かそれ以上の戦いを見せていたロシュッツだが、やはり、この世界の人間と異世界の亜人とでの違いが出てきてしまった。


「息が上がってる。そろそろ限界?」


ベスティアの言う通り、ロシュッツの呼吸は荒く、肩は上下に何度も動いていた。


「……ふっ、滅相もありませんな。わたくしの体は完璧。あなたのような小さなお嬢さん如きに負ける体ではありませんぞ!」


そう言ったロシュッツは地を蹴る。


ベスティアに接近し、拳を突き出すが、それをベスティアは体を回転させながら横へ移動して躱す。


さらに、回転させた勢いを使ってロシュッツの腹部に拳を叩き込んだ。


「ぐっ……!」


ロシュッツは地面を滑りながら後退する。


「くっ、このわたくしが、一撃をもらうとは……」


ロシュッツが腹部をおさえ、目を丸くしていると、ベスティアが口を開く。


「貴様は自分の弱いところを理解していない」


「わたくしの、弱いところですかな? そんなものわたくしにはありませんぞ。わたくしの体はかんぺーー」


「完璧なら、なぜ私の攻撃を防げなかった?」


「…………」


視線をそらして考え込むロシュッツを見て、ベスティアは小さくため息を吐く。


「理解していない貴様に、私が負けることはない」


「……ッ! これほどまでに頭にきたのは初めてですな。その言葉をわたくしに放ったことを後悔させてあげますぞ!」


そう言ってロシュッツはベスティアへと距離を詰めて攻撃を仕掛ける。


しかし、どの攻撃も躱し、防ぎ、受け流してしまい、まったくダメージを与えることができず、それに加えてカウンターの攻撃を繰り出してくるため、上手く攻めることができないことにロシュッツは歯噛みする。


ベスティアが空間を裂いて『無限投剣(メビウス・ネビュラ)』を射出させる。


それを飛び退くことで躱したロシュッツは再び前に出ようとしたが、突如地面が揺れたことで足を止める。


「な、なんですかな!?」


「ッ! これは!」


ベスティアが腰を低くして、揺れに耐える。


そしてベスティアは巨大な人型のようなものが姿を現したのを視界に収める。


「ティア! サラの魔術だ! 彼女が本気を出したってことはアリアが危ない!」


アヒトの言葉にベスティアは頷くことで応える。


「……悪いけど、ここで決めさせてもらう」


「ふん。ご冗談を。今までわたくしに大したダメージを与えられていないというのに、どうやって決めると言うのですかな?」


そう言ったロシュッツだが、警戒を強めて腰を低くする。


「私は貴様に、一度でも本気を出すと口にしてない。この意味わかる?」


「そ、それは……ッ」


「ん。これを機に自分の弱いところを学べばいい。……『身体強化』」


その言葉とともにベスティアはロシュッツの足元まで超高速で肉薄した。


「……ッ!」


ロシュッツが目を見開いて動けないでいるところにベスティアが「身体強化」で高まった力を拳に一点集中させ、ロシュッツのあごを下から突き上げるようにして振り抜いた。


「ごぶぁっ……!」


ベスティアの攻撃はロシュッツの巨体を空中へと持ち上げる。


そして、タイミングを合わせるかのようにして、跳躍したベスティアは体を捻り、腹部に向けて横薙ぎの回し蹴りを打ち放った。


「ごああああああッ」


腹部に当たると同時に衝撃波が生じ、ロシュッツはサラが作り出したゴーレムのもとへ高速で吹き飛び直撃する。しかし、勢いは治まることなくゴーレムを貫通させ、ロシュッツは壁にぶつかりようやく止まった。


さらに、突如飛来したロシュッツによってゴーレムはバランスを崩し、派手な砂煙を上げながら倒れ込んだ。


それを見届けたベスティアは「ふぅ」と一息。


そこにアヒトが駆け寄ってくる。


「やったなティア」


「ん。これくらい余裕」


ベスティアはアヒトに小さく笑みを向ける。


アヒトはベスティアの頭にぽんっと手を置いて口を開く。


「よし、アリアの助けに入るぞ」


「ん……」


そうして、アヒトとベスティアはアリアのいる場所へ走っていく。


アリアはゴーレムが倒れた場所の近くにおり、何が起こったのかわからないといった感じで棒立ちしていた。


「アリア!」


アヒトがそう呼びかけると、アリアはビクッと肩を跳ねさせて視線を向けてくる。


「あ、あらアヒトさん。もしかしてこれはアヒトさんの仕業かしら?」


「正確に言えばおれじゃなくて、ティアだけどな」


「どちらでも構わないわ。行きましょ」


そう言ってアリアはシナツを抱えて未だ立ち上る砂煙の中へ進んでいく。


砂煙の中でゴーレムは倒れていたが、全く動く気配がなかった。そのため、ゴーレムを無視して術者のもとへと足を運ぶ。


「ご気分はどうかしら。あれだけの魔術を使ったのならかなり魔力を消費していると思うのだけれど」


砂煙を抜けた先に立つサラに向けてアリアは声をかける。


「……そう、だね。かなり厳しいかな」


そう言ってサラはロシュッツの方へ視線を向ける。彼はうつ伏せで倒れているが、起き上がる気配は見られない。おそらく気絶しているのだろうとサラは判断し、両手を挙げる。


「降参します。私の残りの魔力じゃ二人を倒すことなんてできそうにないよ」


サラの言葉によってどこからともなく大きなブザー音が鳴り響く。


そして見ていた観客たちが巨大な歓声を轟かせた。


拍手喝采の中でアヒト、アリア、サラは握手を交わす。


ロシュッツはスタッフによって担架で運ばれていく。


それを見たサラはアヒトとアリア、そしてベスティアに軽く手を振り、ふらふらとゲートへと向かう。


「サラ……ッ」


あまりにもおぼつかない足取りのサラにアヒトは駆け寄って腕を取り、自分の肩へかけさせる。


「アヒト……。ごめんね。ありがと」


「いいんだ、これくらい」


アヒトはゲートまで肩を貸して歩き、スタッフへと明け渡す。


「あなたも腕を痛めてるのでしょ? 医療班がゲートの向こうにいるから、早く治療してもらいなさい」


サラを見送るアヒトの後ろからアリアが声をかける。


「そうだな。そうさせてもらうよ」


そうしてアヒトたちもゲートを潜り、競技場を後にするのだった。


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