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亜人娘が得たものは  作者: 戴勝
第12章
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第6話 金髪お嬢様との戦いは その2

「ふん、まだよ! さっきのはただのお遊びなのだわ。こんな事で倒れてもらっては困るものね。次は本気で行くわ!……行けるわねシナツ?」


「キュイッ」


アリアの問いかけに高く返事をしたシナツは再び前へと躍り出る。


「あっちはやる気みたいだぞ。まだいけるか?」


「余裕。今まで特訓してきた成果を見せつける、それだけ」


ベスティアはアヒトに向けて笑みを向ける。


「そうだな。行ってこい!」


「ん!」


アヒトがベスティアの背中を軽く押してあげると、張りのある返事をしながらベスティアはシナツへ向けてかけて行った。


「手加減は無用よシナツ。あなたの力を見せつけてあげなさい!」


アリアの指示でシナツも動き出す。


距離を詰めて拳を突き出してきたベスティアの攻撃をシナツは持ち前の体の小ささと素早さで躱し、カウンターの攻撃を繰り出す。


シナツは風を操ることで自分の前足の爪より鋭く、リーチを長くさせてベスティアに攻撃する。


それはベスティアとの戦いで初めに見せた攻撃である。小さな体でも大型の魔物は余裕で仕留める事ができる。

その攻撃を至近距離から受けたベスティアは回避が間に合わず、肩に傷を負う。


だが、痛みを感じている暇などない。続けざまに攻撃を仕掛けてくるシナツにベスティアは足さばきと体の重心を巧みに操って躱し続ける。


そしてシナツの攻撃を躱すと同時にベスティアはカウンターの回し蹴りを放つが、突如シナツが消えたことによって空振りに終わる。


「ちっ……」


また先程の砂嵐を作り出すのかとベスティアは身構えたが、どうやらその気配はない。代わりにベスティアの周りを囲むように何体ものシナツが出現した。


「ふふ、これがシナツのもう一つの能力よ。さあ、ベスティア。あなたにはどれが本物のシナツかわかるかしら」


アリアが口元に笑みを浮かべて問いかける。


しかし、ベスティアはその問いには答えられない。なにせ全くもってどれが本物のシナツなのかわからなかったからだ。


ベスティアはどこから攻撃が来ても対処できるように腰を落として構える。


そして、ベスティアの背後にいたシナツが動き、攻撃を仕掛ける。


「……ッ!」


ベスティアはすぐに拳を突き出す事で対処したが、それはシナツの分身体だったようで霧のように消えていき、ベスティアの拳は空を切った。


その隙をついて別のシナツがベスティアの背中を斬り裂いた。


「うぐっ……この!」


すぐさま振り返って裏拳で横振りするがやはりそのシナツも霧のように消えていくだけだった。


そしてまた別のシナツの攻撃を受ける。


「な、なんなんだその能力は⁉︎一体どれが本物のなんだ……」


アヒトは目を凝らすがどれも本物のようにしか見えない。ベスティアが攻撃を加えてようやく偽物か本物かがわかるといった感じである。


「ふん。無駄よアヒト。あなたには絶対に見抜けないわ。もちろんベスティアにもね」


「くっ……」


やはり、ただ見るだけではダメなのだろう。魔術でも使えることができれば何かしらの対処ができるのだろうが、いかんせんアヒトは援護ができず、ベスティアも属性のある魔法は使えない。今回の戦いでは不利なことが多すぎる。


アヒトが考えを巡らせている間にもベスティアは苦しそうに立ち向かっている。


すでに『無限投剣』を周囲に撒き散らして一掃させるという方法は使った。だが、当たったのはせいぜい数匹程度。しかも全て偽物であり、他は避けられてしまった。


先程までは一匹ずつの攻撃だったのが、今は二、三匹同時に攻撃してきており、流石に避けきれないベスティアも『身体強化』を使って対処する羽目になっている。それもいつまでもつかはわからない。


「はぁ……はぁ……きりがない」


身体強化で五感を鋭くしてもどれが本物なのかわからなかった。


ベスティアにはもう打つ手が残されていない。このままでは体力切れで負けることは必然的となるだろう。


「そろそろ負けを認めたらどうかしら。いくら即死しないとはいえ、このままだと重傷は免れないわよ?」


アリアの言葉によってシナツの攻撃が一度止まる。


それを隙とみたベスティアは再度空間を裂いて『無限投剣(メビウス・ネビュラ)』を周囲に射出した。しかし、やはり当たるのは偽物のシナツ数匹だけで、他は避けられてしまう。


「ちっ」


ベスティアはもどかしさからか思わず舌打ちをする。


次はどこから何匹のシナツが同時に襲って来るのかと身構えていたが、その気配はない。ベスティアの周りを囲んでいるだけでそこから何かをしてくるということはないようだ。


初めは怪訝な表情をしたベスティアだが、先程アリアがベスティアに何か話しかけていたことを思い出した。どうやらその返答を待っているようだ。


「…………なにか言った?」


「聞いてなかったの!?」


「こっちは戦ってる。いきなり話しかけられても困る」


「ぐぬぅ……あーもう! 調子狂うわね。屋上での件といい、今といい、なんなのあなたたち!?」


アリアは苛立たしげに頭を掻く。


せっかく綺麗に結われた髪がボサボサで残念なことになっている。


これにはシナツもアリアに哀れみの視線を向ける。


それを見て、自分がとんでもない醜態を晒していることに気づいたアリアの顔が怒りと羞恥でみるみる赤くなっていく。


「いい!? さっさと負けを認めなさい。じゃないと痛い目見るわよ!」


アリアがベスティアに指をさしながら声を荒げる。


それに対してベスティアの返答はというと


「やだ。負けるつもりなんて毛頭ない」


だった。


アリアは思わず歯噛みした。


実は、シナツはそれほど体力を持ち合わせていなかった。風を操って周囲に分身体を生み出すだけで体力を消耗してしまうのだ。


そのため、当初の予定では砂嵐で相手の体力を大方減らし、残りを分身体で削りきるはずだった。しかし、思わぬところで大ダメージを受けてこちらの体力を消耗してしまった。仕方なく予定を早めてシナツに分身体で攻撃をさせていた。


しかし、一番の誤算だったのがベスティアが謎の空間から出してくるナイフである。


たしかにナイフが使えるとは学園の屋上で聞いていたが、まさか謎の空間からありえない数のナイフを出してくるなんて誰が想像できようか。あの亜人は一体何者なのか。なぜ魔物と対等に戦えるのか。あの謎の空間は魔法なのか。聞きたいことは山ほどあった。だがそんなことを聞いている余裕などない。


見た目は勝っていても、最終的には負ける未来しか見えなかったからだ。


いくら傷をつけようとも膝をつく様子を見せないベスティアにアリアは焦りを覚えてしまっていた。このままではシナツの体力が先になくなる可能性が出てきたため、アリアは降伏するようベスティアに提案したのだった。

だがそれもたった今断られてしまった。ならやるべき事は決まっている。


「……そ。なら地面に這いつくばらせてあげるわ! やりなさいシナツ!」


一か八かの強行攻撃。この攻撃でベスティアが倒れてくれることを願いながらアリアはシナツに指示を出した。


それを聞いてベスティアを囲んでいたシナツたちの全てが同時に攻撃を仕掛ける。


ベスティアもシナツの動きに合わせて対処していく。だが、何をしてもベスティアの攻撃は当たらない。


どこかに本物が混じっているはず、それを見つけない限りベスティアは勝ち目がないと感じている。


しかし、どうやって見つけるのだろうか。適当に狙ってもこちらの体力がなくなるだけである。これだけの技を維持し続けるにはそれなりのデメリットがつくはずだ。


ベスティアはシナツたちの攻撃を躱しながら思考するが全くと言っていいほど何も分からなかった。


「がっ……ッ」


焦りで隙ができてしまったのか、背後から来たシナツの攻撃を対処しきれずに背中に受けてしまった。


体勢を崩してしまったベスティアは地面に片膝をつく。そこを狙ってシナツたちが一気に畳み掛けてきた。


まずいと思ったが回避はもう間に合わない。この攻撃を全て受けて立っていられる自信はベスティアにはもうなかった。


「ティア!」


アヒトがベスティアに向けて叫んでいるがそんな言葉には何の意味もない。


ベスティアは負けることへの悔しさとアヒトの思いに応えられなかったことへの申し訳なさに唇を強く噛み締めた。


ーーバカか貴様。本物は後ろだ。


「……ッ!」


突如聞こえたその声にベスティアは反射的に従い、空間を裂いて取り出した『無限投剣』を使って、背後を振り返ると同時に投擲した。


「キュイ!?……ギィッ」


攻撃していると見せかけて偽物の陰に隠れて動いているだけだったシナツは、突如自分に向けてナイフが飛んできたことに目を丸くした。そしてそれが回避するという判断を僅かに鈍らせたことで、シナツはベスティアのナイフをもろに腹部に受けて後方に転がって行った。


それによってベスティアに襲いかかって来ていたシナツの偽物たちは一斉に風となって消えていった。


「シナツ! う、嘘よ……偶然に決まってるわ! 立ちなさいシナツ。もう一度同じ技を使いなさい」


アリアの指示にシナツは腹部に刺さったナイフを咥えて抜きながら立ち上がる。どうやら『即死不可』の効果でナイフは深く刺さることはなかったようだ。


通常なら小さな魔物であれば即死だっただろう。そう考えると、即死することなく立ち上がったシナツを見たベスティアは改めて魔術の偉大さというのを理解することとなった。同時にまだ立つことができるということに歯噛みした。


先程のは声に従ったことでうまくいった。つまりアリアが言ったように偶然である。シナツの能力の弱点など何一つ理解していなかった。


シナツが先程と同じように風に乗って何体にも別れながらベスティアに向かって来る。


ベスティアを攻撃しながら徐々に包囲していく。


ベスティアは包囲を防ごうとするがシナツたちの攻撃に阻まれてしまい、せっかく崩したシナツの包囲攻撃の陣がまた完成してしまった。だが


ーー右だ。他のやつより呼吸が少し荒い


ベスティアの耳に先程と同じ声が聞こえてきた。


一瞬ビクッと肩を跳ねさせたベスティアだが、冷静に、聞こえた方向に視線だけを向ける。


そこにはたしかに他のシナツより呼吸が荒いと思われるシナツがいた。


だからベスティアは『無限投剣』を素早く取り出して投擲する。


「ギュッ!?」


どうやら本物だったようで、そのシナツは横に跳んで回避する動きを見せた。


そこをベスティアは高速でシナツとの距離を埋めると回避で気を取られていたシナツに向けて横蹴りを放った。


シナツはボールのように地面を跳ねながら転がる。


「そんな!?」


アリアが戸惑いの混じった声をあげる。


アリアの目からはどうしてベスティアが本物のシナツを見抜けたのかがわからなかった。いったい何がどうなっているのか。動きは完璧だったはずだ。シナツの体力のことも考えて指示はしていた。だから落ち度はないはずである。それなのになぜ見抜けたのだろうか。


「よし! さすがティアだ」


アヒトはアリアの使い魔がベスティアの蹴りによって飛ばされるところを見てガッツポーズをしていた。


しかし、どうやって本物かそうでないかを見抜いたのかはアヒトが見た限りでは全くわからなかった。


ベスティアになんらかの策があったのだろうと勝手に思い込んでいると、転がったアリアの使い魔にとどめをさすべく高速で距離を詰めるベスティアが視界に入る。


試合の決着は決まったも同然。これでベスティアは強いということがアリアにも理解してもらえるだろう。


そう思っていた時、ベスティアとシナツの間にアリアが入り込み、シナツを庇うように両手を広げて立ち塞がった。


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