表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亜人娘が得たものは  作者: 戴勝
第3章
9/212

第1話 亜人娘が見た夢は

静かな森の中に金属が擦れ合う音が響く。


木々の間にある少し開けた空間で二人の亜人が戦っていた。


「……ッ‼︎」


頭には三角の耳にお尻にはふわふわの尻尾が生えた亜人が高速で駆け出した。


常人には到底目で追いきれる速さではない。しかし、相手のネコ耳ネコ尻尾の亜人にとって、追えない速さではない。


「あんたの速さはもう見切ってるにゃ!同じ攻撃が通用するとでも思ってるわけかにゃ?」


ネコ耳ネコ尻尾の亜人の背後に高速で駆け出した亜人が短剣を振り上げた状態で現れた。


短剣が振り下ろされるが、体を横にずらすことで躱される。躱すと同時に三角耳の亜人に向けて横蹴りが放たれた。


「うぐっ」


腹部に蹴りを受けた勢いで後ろに跳ぶ。しかし、ダメージが大きいのか跳び退いた先で片膝をついてしまった。


「ベスティア、あんたみたいな偽物に、あたし達純血種が負けるわけがないにゃ!」


ベスティアと呼ばれた、三角耳の亜人は腹部を押さえながら口を開いた。


「……私は……みんにゃと」


「うるさいにゃ!偽物があたし達ネコ族の言葉を使うにゃ!……ッ」


ネコ族の亜人の手が少し光ったと思った直後、突然、ベスティアの周りに黒い霧が現れた。


「あんたは足が速いだけにゃ。足が速いだけの無能に視界を奪ったらどうなるかにゃ?」


「……くッ」


ベスティアは、霧の外に出ようと駆け出した。しかし、ベスティアの足に紐状の何かが引っかかり躓いた。


そこに闇の中からベスティアに向かって声がかけられる。


「にゃはは。やっぱあんたは足が速いだけにゃ」


周りが見えないベスティアに向かって横から蹴りが放たれる。


転倒していたベスティアは防御が間に合わず攻撃を受けてしまい、地面を転がった。


「うっ――ッ⁉︎」


立ち上がろうとしたベスティアは不意に風を切る音が聞こえたため、横に跳んだ。


ちょうどベスティアが先ほどまでいた場所を二つほど石が飛んで行った。


石が過ぎていくのを見送ったベスティアだがそれが隙となった。


「ッ⁉︎しまっ」


短剣を片手にベスティアにネコ族の亜人が肉薄する。それを躱すタイミングはベスティアにはもうなかった。


短剣がベスティアの首を斬ろうと迫る、が、すんでのところで止められた。


「……あ……あぁ」


「ふん、あたしは弱い奴を殺す趣味はないにゃ」


「……わ、私は弱くなーー」


「そんなにお漏らししてる奴が弱くないだってかにゃ?」


そこでベスティアはようやく自分の足に生暖かいものが伝っていることに気づいた。


「……ぁ……」


ベスティアは足に力が入らなくなり、その場で座り込んでしまった。するとベスティアの股からさらに生暖かいものが流れ出て、地面に水溜りを作った。


「……消えるにゃ。混血種のあんたに居場所はないにゃ」


ベスティアから出たものの臭いに少し顔を歪めて、ネコ族の亜人は背を向けて歩き出す。


「……ま、まって……おねがい……私をひとりに……しにゃいで」


ネコ族の亜人に向かって手を伸ばすが体をうまく動かせないのか立ち上がることすらできないベスティア。


視界が歪み、やがて周りの木々が黒く何もない空間に変わって行く。


「……ひとりに……しにゃい、で……」


――!


誰かの声が聞こえた。それは何かを叫んでいるようだった。


――ティア!


それが自分の名前だと気づいた時、ベスティアは目覚めた。


「…………ん」


「ティア、大丈夫か?ひどくうなされていたみたいだけど」


ベスティアの顔の前には人間の男がいた。


名はアヒトと言っていたなと思いつつ布団を退ける。


「……お、おい。ティアそれって……」


「……ん?」


アヒトの視線はベスティアの股あたりに注がれていた。


そこでベスティアは自分の股がひんやりとしていることに気づいた。


「…………」


嫌な予感を感じて、アヒトの視線を追うように自分の足下を見た。


ベスティアの寝ていたところのシーツに大きなシミができていた。


「にゃにゃ⁉︎……ち、違う!……いや、違わにゃいのだけど……と、とにかく違くて!……えっと、えっと……はにゃぁ……」


ベスティアの顔はみるみる赤くなっていき、次第に俯いてしまった。


「ま、まあそういうこともあるよな……誰しも一度はする失敗だ、うん」


「…………」


「……と、とりあえず、風呂入ってこいよ。そのままは嫌だろ?服は乾いてるだろうからさ」


ベスティアは無言でベッドから降り、重い足取りで浴室に向かっていった。


それを見届けたアヒトは、溜息混じりに呟いた。


「はあ、朝から忙しいな。ていうかお漏らしか、見た目よりかなり幼いのか?」


「私は十五!子ども扱いしないで!」


「は、はい!すんません‼︎」


いきなり浴室の扉が開かれてベスティアが叫んだことで、アヒトは思わず敬語で返してしまった。


とりあえず、朝食も作らないといけないため、考えることを辞めたアヒトはシーツを洗濯するために動き出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ