表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亜人娘が得たものは  作者: 戴勝
第12章
89/212

第5話 金髪お嬢様との戦いは その1

普段の日常があっという間に過ぎていき、ついにアリアとの約束の日がやってきた。


「よく逃げずにやって来たわね、アヒト・ユーザス。褒めてあげるわ」


現在、アヒトはベスティアを連れて学園のグラウンドに来ている。


アリアとは校門の前で会う約束をしていたのだが、いざそこへ向かうとすでにアリアがたった一人で腕を組んで待機しており、アヒトが来たのを視認すると何も言わずに校舎の中へ入って行ってしまったのだ。


言葉をかける隙すら見せずに行ってしまったため、仕方なくアリアの後をついて行くとこのグラウンドに到着し、先程の言葉をかけられたのだ。


「逃げないさ。君に勝たないとおれたちの力を証明できないからな」


アヒトはベスティアに視線を向けながらアリアに答える。


ベスティアはアヒトの視線に気づくと、口元に小さな笑みを浮かべて深く頷く。


休日であるため、現在は校舎の中に生徒は誰もいない。教師くらいはいそうなものなのだが、おそらく目の前のお嬢様がなんらかの手を使ったのだろう。とても静かで、この学園だけ別の空間に隔離されているように感じられた。


「……前から思ってたんだけど、私に対して君、君って少し腹立たしいわ。私にはちゃんとした名前があるのよ?」


アリアは苛ついているのか、腕を組みながら指先で二の腕のあたりをポンポンと小刻みに叩いている。


「君こそ、おれのことを毎回フルネームで呼ばないでもらえるかな。公開処刑されているみたいだ」


「いいじゃない。どうせこれから私に無様に倒されて笑い者にされるのだから」


「なに?……それはどういうーー」


「私の名前はアリア・エトワール。同じ学年の生徒なのだから名前くらいちゃんと覚えなさい」


アヒトが質問しようとしたのを防ぐかのようにアリアは自分の名前を名乗った。


まるで、なにかを誤魔化そうとしたかのようだった。


「名乗ってくれてありがとう。おれのことは気軽にアヒトと呼んでくれ」


「そ。なら私のこともアリアと呼んでくれて構わないわ。エトワール嬢なんてあなたみたいな人に呼ばれたくはないもの」


「アリア様はダメか?」


「もっとごめんよ!」


場を和ませるための軽いジョークのつもりだったのだが、返答が即答であったことからかなり嫌っているようだ。


「そろそろ始めようか。長話も飽きただろ?」


アヒトはアリアのふくれっ面に苦笑しながら、本来の目的であった試合の開始へと話を持っていく。


「そうね。私をバカにした罰も受けてもらわないとダメですものね」


そう言ってアリアは左腕を前に出し、手のひらを地面に向ける。


すると、アリアの左腕に付けているブレスレットが一瞬光ったかと思うと、アリアが立つ目の前の地面に魔法陣が浮かび上がる。


「私の使い魔をまだ紹介していなかったわね。紹介するわ。来なさい、シナツ!」


その言葉によって魔法陣の光がより強く発光し、中から一匹の小さな魔物が飛び出した。


天高く飛び出したシナツと呼ばれた小さな魔物はクルッと宙返りをするとアリアの肩に重さを感じさせない綺麗な着地をしてみせた。


「その子がアリアの使い魔なのか?」


「ええそうよ」


アリアの使い魔であるシナツの外見は一見、普通のイタチとなにも変わらない。しかし、目の前にいるイタチは魔物である。動物と違って魔力を持ち、魔法か特殊能力を操る。小さいからと言って侮ることはできない。


アヒトはアリアから一定の距離を開け、ベスティアに視線を向ける。


「いけるか? ティア」


「ん。問題ない」


「小さくても魔物は魔物だ。油断するなよ」


「わかってる」


ベスティアは軽く頷くとアヒトより数歩前に出る。


すると、アリアが片手を挙げて人差し指を立てながら口を開いた。


「一ついいかしら」


「なにかな」


「今回は使い魔同士の試合にするというのはどうかしら? 私たちの援護は一切なし。私たちは使い魔の力が知りたかったはずよ。主人の力で勝ってしまっては元も子もないわ」


「……そうだな」


アヒトは念のためベスティアに視線を向ける。


もちろんベスティアは頷きで応える。


「わかった。そうしよう」


話が終わると、アヒトとアリアはお互いの使い魔に『即死不可』の魔術をかける。これでどんなに死に近い攻撃を受けようとも怪我の程度で済む。


「準備はいいかしら」


「ああ、いつでもかかって来い」


「そ。なら先に行かせてもらうわ。行きなさいシナツ!」


「キュイッ」


アリアの指示で動き出したシナツは、可愛い鳴き声とは裏腹に人の目では追うことができない速度でベスティアに肉薄する。


「チッ……!」


ベスティアは舌打ちをしながらとっさに横に跳ぶ。


先程までベスティアが立っていた地面が巨大な魔物にでも襲われたかのように鋭利な爪跡を残す。


ベスティアはそれを尻目にシナツの隙を狙って攻撃に移る。


地を蹴り、高速でシナツとの距離を詰めて拳を突き出す。しかし、確実に捉えたと思われたベスティアの拳は、突如吹かれた風に乗ってシナツが消えたことによって空を切る。


そして風は止むことなくベスティアに冷たく吹き付けられる。


これは明らかに自然の風ではない。理由は単純。その風はベスティアの周りにしか吹いていないからだ。


吹き荒れる風によってグラウンドの砂が舞い上がり、より視界が悪くなる。


「なんて厄介な魔物なんだ。これじゃ相手がどこにいるかまるでわからないじゃないか」


マヌケントの使い魔の魔法と似ているがそれとは全く違う。なにせ、砂が舞い上がっているため、目を開けることがままならないのである。マヌケントの使い魔の能力は「霧」を生み出すに対してアリアの使い魔の能力はおそらく「風」を生み出して「砂」を操る感じなのだろう。アリアにとってこの場所は使い魔であるシナツの能力を最大限に出し切ることができる最強の場所なのだ。


「あら、どうしたのかしら。ご自慢の速さはどこへ行ってしまったの?」


アリアが開始早々勝機を得た表情をする。


「くっ、ティア! 大丈夫か!」


アヒトはベスティアに呼びかけるも、大量の砂が宙に舞っているせいでベスティアを視認することができない。加えて返答がないと来てしまったら後は無事でいてくれることを祈るだけである。


アヒトは援護ができないことに歯噛みするのだった。





そして砂嵐が舞う中、ベスティアはというと、視界が塞がれ、風の音が強すぎるせいで聴覚もうまく機能せず、砂粒が舞うことで嗅覚までもが封じられ、呼吸をすることがやっとの状態であった。


さらに、シナツが砂嵐に紛れてベスティアに攻撃をしてくるため、現在ベスティアの体にはすでに至る所に傷痕ができていた。


「くっ……せめて……音さえ聴くことができれば……」


ベスティアは一度聴覚に意識を集中させたが、耳に砂粒が入り込む違和感に集中どころの話ではなくなってしまう。


「うあっ……くっ」


ベスティアが手間取っている間にまたシナツによる攻撃を受けてしまい、痛みで呻いてしまう。


考えろ。今回はアヒトの援護がない。もともとベスティアにはそれほど多くの能力を持ち合わせていない。この試合でまだ試していないことをする以外に他はない。


そう思ったベスティアは見えない視界に気にすることなく駆け出した。


ベスティアの周りを何度も回っているシナツは当然のように追いかけてくるため、ベスティアの視界が晴れることはない。だが、高速で動くベスティアを完全に捉えられなかったのか、わずかに風の流れが変わった。


その隙をついてベスティアは周囲の空間を幾重にも裂く。そこからありったけの分裂させた『無限投剣(メビウス・ネビュラ)』を周囲に射出した。


「キャウッ」


一つだけでも当たって欲しいというベスティアの思いが通じたのか、ある方向からシナツの小さな声が聞こえた。


シナツは風の制御に集中していたせいでベスティアの射出したナイフを全て躱すことができなかったのだ。


ベスティアは声のした方向に一直線にかけ抜ける。そして攻撃を受けて怯んでいたシナツを捉えたベスティアは走る勢いのまま体をひねり、縦回転させることで踵からシナツを地面に叩きつけた。


地面を転がったことでシナツの能力が切れて風が止む。


「シナツ!」


アリアは倒れたシナツに駆け寄る。


それを見てアヒトもベスティアの下へ駆け寄った。


「ティア、大丈夫だったか?」


「はぁ……はぁ……問題、ない」


そうは言うが体の至る所にできた傷がとても痛々しい。息も絶え絶えであることからかなりギリギリの戦いだったのだろう。


体の大きさと攻撃する威力の差でなんとかなったようだ。


「決着はついたんじゃないか? アリア」


アヒトはシナツの体を優しく撫でるアリアに向けて言い放った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ