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亜人娘が得たものは  作者: 戴勝
第11章
83/212

第5話 その時助けに来た者は

奥へ進むと三人の男たちが一人の女性を捕まえていた。


「やめなさい! その女性を今すぐ離して!」


レイラは男たちに叫ぶ。


「あ? なんだ嬢ちゃん」


「オレたちと遊びたいのかな?」


「生意気っすね」


それは赤い髪の男と金色の髪の男と青色の髪の男だった。


男たちがレイラに気を取られている隙に女性は男たちから抜け出してレイラの横を通り過ぎて逃げていく。


「あーあ、逃げちまったじゃないっすか」


「まあいいじゃねえか。代わりの女がやって来たしよ」


青髪と金髪の男が何やら話をしている。


「あなたたち恥ずかしくないわけ? 女性一人に男三人だなんて。それでも男なの?」


「おい。今なんつった?」


赤髪の男がレイラを睨みつける。


「あら。耳が悪いのね。あなたたちは男でも女でもないクズ以下と言ったのよ」


明らかに先程ではそんなこと一言も言っていない言葉を口にした。しかし、レイラ自身、これはどうしても言っておきたかったのだ。何せクズなんだから。


赤髪の男の眉間にシワが寄る。


「……おめえら。とっとと済ませるぞ」


どうやらこの男たちは標的をレイラに切り替えたようだ。レイラは逡巡する。一人相手ならなんとかなるかもしれないが、三人となるとわからない。しかし、逃げることももうできそうになかった。金髪の男と青髪の男が襲って来たからだ。


「おらおらおら!」


金髪の男がレイラを捕まえようと向かってくる。


それをレイラは半歩後ろに足を引いて金髪の男の腹に向けて蹴りを入れる。


「やっ!」


「ぐふっ」


気合いのある声とともに蹴られた金髪の男は後ろに下がりながらよろける。代わりに青髪の男がレイラに向かってくるが、レイラはかがんで足を払うことで青髪の男を転がす。


「あの女なかなか強いです」


「もういい。下がってろ」


金髪の男が言うと赤髪の男が前に出てくる。そして懐から杖を取り出した。


「……まッーー!」


まずいと思ったレイラだが、その時には既に赤髪の男は呪文を唱えていた。


「『麻痺(パラリシ)』」


「きゃあああ」


レイラは身体の自由が利かなくなりその場に倒れこむ。


「へへへ。術の強さは弱めにしておいた。おかげで気絶しないで済んだだろ?」


「うっぐ……」


赤髪の男がレイラの頰を掴んで顔を上げさせる。


「この後自由の利かねえお前の体を遊んでやっから覚悟しな」


「ひっ……」


レイラの反応に男たちはゲラゲラと高笑いをする。


必死に体を動かそうにも全く動く気配がなく、言葉もうまく話す事ができなかった。


「おい、こいつを袋に詰めろ。窒息死だけはさせんなよ」


赤髪の男が指示を出し、青髪と金髪の男がレイラの腕と脚を掴んでくる。


ーーやだ。やめて。助けて兄さん!


レイラがそう願った時、レイラの後ろから声がかけられた。


「はいはーい。そこまでにしてもらおうか」


レイラは目を見開いた。そこには助けを求めたレイラの兄がいたからだ。


「こ、こいつあの時の!」


金髪の男がアヒトを見てたじろぐ。


「ん? もしかして以前路地裏にいた赤金青の三人組か?」


アヒトは男たちの特徴ある髪型を見て以前サラを襲おうとしたやつらだということを思い出す。


「へっ、前回はまんまとやられちまったが今回はそうも行かねえ。この杖でてめえを倒せることくらいわかっーー」


「『風刃(エア・ブレード)』ッ」


赤髪の男が杖を見せて来たところにアヒトは杖剣を素早く抜いて魔術を唱えた。


アヒトの魔術によって出された風の刃は赤髪の男の持つ杖に一直線に飛んで行き、指ごと斬り落とした。


「へ……?」


赤髪の男は突然杖を持つ手の感覚がなくなったことに首を傾げた。そして、徐々に伝わってくる燃えるような熱さと痛みに膝から崩れ落ちた。


「あ……ああ……あがああああああ」


「悪いな。今回はおれも魔術が使えるんでね。呑気に語ってるもんだから先に撃たせてもらったよ」


痛みで転げ回る赤髪の男をアヒトは見下ろしながら呟く。


「君たちはおれの大切な妹を傷つけようとしたんだ。それ相応の罰を受けてもらうけどいいよな?」


アヒトの二人の男たちを見る瞳は完全に殺意のこもったものだった。


「ひっ……ち、ちっくしょおおおおお」


金髪の男は怯えながらもアヒトに立ち向かう。アヒトに向けて右拳を突き出すが


「遅いな。ティアの方が断然速い」


そう言ってアヒトは突き出された拳を、体を横へ逸らすことで躱し、ついでに突き出された腕を掴んで金髪の男の背中側に引っ張り、強引に捻り上げることで金髪の男の肩関節を外した。


「ぎゃあああ」


あまりの痛みに金髪の男が地面に膝をつく。そこにアヒトは追撃の膝蹴りを顔面に与えることで昏倒させた。


「さて、残るは君だけだけど、どうする?やるのか?」


「くっ……お、覚えてやがれ!」


そう言って青髪の男はアヒトに背を向けて走り出した。


「いや、もうこれだけにしてくれ……『岩射(ロック・ラウンジ)』」


そう言って魔術を使うと、アヒトの周りに小さな石の塊が浮き上がる。本来はもっと大きな岩が出現するのだが、今回は魔力を少なめに使ったため、小さな石となっている。


それらを青髪の男の背中に向けて放つ。


「ぐあっ!?」


全ての石の塊を背中に受けた青髪の男は呻き声を上げながら倒れ、意識を失った。


「ちくしょう……許さねぇ……ぜってぇに……」


まだ意識があったのか赤髪の男が腕を押さえながら呻いていた。


「君もそろそろ眠る時間だ」


そう言ってアヒトは赤髪の男の顔面を蹴り上げて意識を刈り取った。


 そして彼らを路地裏から表へ放り投げると、近くの人に警備兵を呼ぶように伝える。これで彼らが二度とこの路地裏に現れることはないだろう。


 全てが片付いたアヒトは倒れているレイラに視線を向けた。


「大丈夫か? レイラ」


「ぁ……あ……」


まだ声が出せないのか掠れた声だけが聞こえてくる。しかし、レイラの表情からはとても安心したような表情をしていた。


「よし、少し揺れるぞ」


「……ぁ……」


アヒトはレイラを横にして抱き上げる----つまりお姫様抱っこをした。


それによってレイラは顔を真っ赤にしてしまう。俯こうとしても体が言うことを利いてくれないため表情を隠すことができなかった。


アヒトは耳まで真っ赤にしているレイラを見て苦笑し、路地裏を出る。しばらくするとベスティアとテトがアヒトのもとに駆け寄ってくるのが見えた。


「……? 妹どうしたの?」


アヒトに抱えられているレイラを見て、ベスティアが小首を傾げる。


「いや、ちょっと疲れただけだとよ」


「ふーん」


ベスティアが怪訝な表情でじーっとレイラを見つめる。


レイラはビクッと体を震わせてベスティアから視線を逸らす。


「そういえば、ちゃんと金は払えたか?」


「ん。払えた」


「釣りは?」


「ない」


「は?」


アヒトはおかしいと首を傾げる。アヒトがいないのを見越してベスティアが追加の注文をすることは予想していたため多めに金をテーブルに置いて来たはずだ。それが全部なくなるとはどういうことなのだろうか。ましてやベスティアが置いて来た金額丁度の飯を頼めるはずがない。足りないか釣りが出るかのどっちかしかありえない。


アヒトがそう思っているとベスティアが口を開いた。


「ちゃんと払った。釣りはいらねぇ、とっておきなってちゃんと言った」


「ばっかやるぅぉぉおお!!」


貴重な金がたくさん飛んで行ってしまったことにアヒトは頭を抱えたい衝動に駆られたが今はレイラを抱えているからどうすることもできない。


「……? ふふん」


ベスティアはアヒトが何を言っているのか分からず、とりあえずお金を払えたことに褒めて褒めてと言った風に胸を張る。


「……ダメじゃん」


アヒトは二度とベスティアに金を持たせないことを誓うのだった。


「……ぁ……にぃ……さ……」


「ん?」


レイラがか細い声で呼ぶのを聞いてアヒトは耳を傾ける。


「ご……め……なさい」


レイラの言葉を聞いてアヒトは少し目を開き、そして微笑む。


「ああ、こっちこそ悪かった。帰れなんて、せっかく来たのにそりゃないよな」


レイラがコクリと頷く。


「どうする?おれの部屋で泊まるか?」


アヒトがそう訊くがレイラは首を横に振る。


「宿……あるから」


「わかった。じゃあそこまで送るよ」


「うん」


そう言ってアヒトは歩き出し、レイラは落ちないようにアヒトの服にしがみついた。


「……(じー)……」


レイラは視線を感じて身震いし、辺りをキョロキョロと見渡す。そしてベスティアがジトッとした視線をレイラに向けていることに気づいた。


ベスティアは明らかに「貴様もう動けるだろ」という顔をしていた。


レイラはベスティアから視線を外してアヒトに顔を埋める。


ベスティアの尻尾がピンッと立つ。


そんなベスティアの行動が理解できなかったアヒトは首を傾げるだけだった。






後日、学園に向かうためにアヒトはベスティアとテトを連れて外に出ると、そこにはレイラが立っていた。


「レイラ? 帰ったんじゃなかったのか?」


「あの二人に手紙を送ったのよ。しばらくこっちで過ごすから帰らないって」


「そ、そうか」


なかなか大胆なことをするレイラにアヒトは苦笑いを浮かべる。


「それでね。こっちで過ごすにはお金がいるわけでしょ?だからバイトをしようと思ってるの」


「バイトか。いいんじゃないか」


「うん。それでいいバイトは見つけたんだけど、少し人手が足りないみたいで、ちょっとその子借りていい?」


「ん? テトのことか?」


「テト?」


自分を指差して小首を傾げているテトの手をレイラは引っ張って自分のもとまで来させるとテトの肩に手を置く。


 テトを働かせるという考えは以前からアヒトの中にあった案だ。しかし、まだテトは言葉が理解できていない。そのため、働くのはもう数年後の話だと考えていた。だがレイラがここに残ると言うのなら話は変わってくるかもしれない。テトのことを見てくれる存在がいればテトも不安になることはなく、一生懸命働いてくれるだろう。


「そうだな……テト。働いてみるか?」


「はたら……?」


「仕事だ。やってみるか?」


「しごと!」


テトは目をキラキラさせる。これは興味を持った時の目である。


「よし、じゃあ仕事するか」


「しごと! する!」


テトは両手を広げてレイラの周りを回り始める。


「ちょ、何この子めちゃめちゃ可愛いんですけど……」


レイラが思わず呟いた。


「そういうことだ。レイラ、テトを頼んだ。この子言葉をあまり理解してないからしっかりと教えてやってくれ」


「頼まれたわ。命に代えてもこの子を守るわ」


レイラの瞳に熱が生まれる。


命に代える必要はないかもしれないとアヒトは思いながらもテトをレイラに託し、アヒトとベスティアは学園に向かうのだった。


「……テト、心配」


「大丈夫だろ。何せレイラがいるんだ」


「それが余計に心配」


ベスティアは少し心配しすぎだとアヒトは思ったが、これをきっかけにテトが大きく変わってしまうことなど今は知る由もなかった。


今回は短めですが、11章はこれで終わりです。

1話幕間みたいなものを挟んでから12章に入ります。

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