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亜人娘が得たものは  作者: 戴勝
第11章
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第4話 妹の本当の想いとは

商店街の通りをレイラは全速力で走り抜ける。途中、何人かの人と肩をぶつけたりしたが止まらない。今は静かで一人になれる場所が欲しかった。


ーーなんで? 兄さんなら家を飛び出してきた私を受け入れてくれると思ってたのに


アヒトが両親に対する不満をレイラに言っていたことが何度かあった。レイラはその時は本当か信じることができなかったが、アヒトが家を出て、レイラもアヒトの道を行こうと思った時に理解した。


しかし、アヒトは自分で剣の修行をしたり、魔術の勉強をしたりすることでなんとか学園に通う許可をもらうことができた。だからレイラも同じことをした。必死に木の枝を構えて素振りをし、図書館などで魔術の本を読んで勉強した。


しかし、両親から許可は下りなかった。何を言っても耳を傾けてくれず、拒否ばかりする両親にレイラは苛立ちを覚えてしまった。それは同じ村の仲が良かった同い年の少年少女にも向けられてしまい、レイラは度々騒動を起こすようになってしまった。その騒動があったせいかより一層両親はレイラを学園に通わせる許可を出さなくなった。


だからレイラは家を飛び出した。この不満を兄であるアヒトならわかってくれるはずだ。大好きな兄なら受け入れてくれるはずだと、そう信じてここまでやって来た。そしてレイラは見てしまった。アヒトが二人の少女を連れて歩く姿を。


レイラは幻滅した。学園に入ってアヒトは変わってしまったんだと思った。それでもレイラはアヒトを信じて理由を話した。だが、アヒトから返ってきた言葉は村へ帰れだった。


ーー私はいったい、何んのためにここまで来たんだろう


ひたすら道を走り続けるレイラ。ふと頭から誰かにぶつかった。


「おっと……気をつけぬか。何故(なにゆえ)それほどまでに焦っているのだ」


「え?」


それは藤色の羽織を着て、腰に刀を携えた女の人だった。


「何か悩み事か? 私が相談に乗っても良いのだぞ」


「あ……えっと……」


「ここは人が多い。暫し移動しよう」


レイラはその女の人に言われるがまま、人気のないところまで移動することとなった。


「申し遅れたな。私の名は波平智翠。チスイと呼んでくれて構わん」


「あ、はい。レイラ・ユーザスと言います」


「レイラ・ユーザス? はて、何処かで聞いたような……まぁ良いか」


チスイはレイラを近くにあったベンチに座らせる。


「して、何か悩みでもあるのか? かなり苦しそうな顔をしていたぞ」


「えっと……はい。ちょっといろいろありまして……」


レイラはチスイにこれまでの事を話すことにした。今は少しでも気持ちが楽になりたかったのだ。誰かに話して共有して欲しかったのだ。


そして語り終えたレイラはチスイに視線を向ける。


「ふむ……なるほど」


チスイはあごに手を添えて何やら考えていた。そして独りでに頷いて口を開いた。


「うむ。私にはわからぬ!」


「おい!」


だったらなんで相談に乗ったんだとレイラはチスイに話した事を後悔した。もうこんな人置いてどこかに行こうと立ち上がろうとしたが、チスイの次の言葉でレイラは動きを止めた。


「私には本当の家族というものを知らぬからな」


「えっ……それって」


「私は捨て子だ」


レイラは上げた腰を再び戻した。


「レイラの両親がしていることが良い事なのか悪い事なのか私には分からん。しかし、レイラの兄という人物によく似た男なら私は知っているぞ」


「本当ですか! その人は、どんな人ですか?」


レイラは身を乗り出すようにしてチスイに訊いた。


「どんなと言われても、レイラが言ったような男だ。常に女を侍らせて歩いているやつだ」


「最低ですね」


レイラはチスイの言葉とアヒトを重ねて想像し、ジト目になる。


「うむ。最低な男だ。だが、そんなやつにも良い面はあった」


「いい面ですか?」


「そうだ。あの男は仲間を、大切なものを決して見捨てたりしないという事だ。心を傷つけた者に寄り添い、怪我をし疲労した者に付き従うなどの面を多く見せられた。あの男は誰よりも弱いが、誰よりも心は強いと私は思っている」


気づけばチスイの視線は遠くを見ていた。チスイが言う男を思い出すように遠くの空を眺めていた。


「私の兄もそうだと言うのですか?」


「人は皆同じとは限らん。だが、レイラの兄は、レイラを心配しての言葉だったのではないか?」


「私を心配?」


「うむ。レイラが魔族と戦って傷つくことが嫌だったのだろうな。おそらく両親もそうだろう。私には家族というものが分からんが、レイラの話から私はそう感じたのだ。もしかしたら、今もレイラを必死になって探しているかもしれぬぞ?」


チスイの話を聞いて、レイラは改めて両親、そしてアヒトの事を思い返してみた。それは確かにレイラを心配しての言葉だったのかもしれない。それなのにレイラは、自分が兄と同じ学園に入りたいという想いだけが強すぎて言葉を理解できていなかった。


ーー私は兄さんになんて酷い事を……


レイラは立ち上がりチスイに向き直る。


「チスイさん、ありがとうございました。私、兄に会って謝ってきます」


「うむ。達者でな」


その言葉を最後にレイラは駆け出した。先ほどいた店へ向けてレイラは走る。アヒトともう一度会って、そしてしっかりと謝罪する。後の学園の話は今はどうでもいい。それはまだ先の話だからだ。今はとにかくアヒトに会うためにレイラは走った。


そして先ほどの人が賑わっている場所まで来た時、不意に路地裏から数人の男の声と一人の女性の声が聞こえてきた。しかもどうやら女性の方は嫌がっている感じの声だった。


「なんでこんな時に……」


今は会わなければならない人がいるというのに、路地裏からは小さく助けを求めるような声が聞こえてくる。

本当はこんな声は無視すればいいだけの話である。しかし、もしアヒトだったら無視はしないだろう。自分が危険に陥ろうとも助けに行くはずだ。


そう思ったレイラは意を決して路地裏に飛び込んだ。


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