第3話 眼鏡少女の一事情
魔術士育成学園の寮。その廊下を慌ただしく移動する足音が寮内に響いていく。
そしてある部屋の扉が勢いよく開けられる。
バーン!という音で中にいる人物たちが扉の方に視線を向けてくる。
「およ? どしたのりっちゃん。そんなに慌てて」
そう言葉にしたのはアン。そして扉を勢いよく開けたのはリオナである。
夏休みの課題を終わらせるべくサラの部屋にアンとリオナは集まっていたのだが、なかなか終わる気配が見えず、休憩として一旦リオナが菓子や飲み物といったものを買い出しに行っていたところである。
「リオナちゃん。あまりうるさくすると同じ寮にいる生徒に怒られちゃうよ」
サラがめっ! と人差し指を立てて注意をしてくるが、リオナからしたら「お前がそれを言うのかよ」と言いたいところである。リオナは呆れた表情でサラを一瞥したあと、持っていたバックを置いてアンの方へ近づいていく。
そしておもむろにアンの背中に抱きつく。
「あわぁ、どーしたのよ。りっちゃん外でなんかあった?」
少し恥ずかしいのかアンは頰を赤くしている。
「んん。少しアン成分を吸収しようかなって」
「成分って……あ、もしかして男の人に声でもかけられた?」
何をどうしたらその答えに辿り着いたのかはわからないが、リオナに起きた出来事を的確に当ててくるあたりさすがアンといったところである。
リオナはコクリと頷いてアンの体に回した腕の力を強める。
「へへへ、やっぱり? りっちゃんがその顔をする時は大体が男絡みだからね」
「そうなの? 私知らなかった」
サラが寝耳に水といった表情でアンとリオナを交互に見ている。
「そそ。りっちゃんはねぇ、小さい頃から男の人に声をかけられたりするとこうやってすぐに抱きついて来てたんだよねぇ」
「あ、アン。それは言わない約束」
リオナがアンの背中に埋めていた顔を上げて耳まで真っ赤に染めながら訴えてくる。
「えー、サラちゃんにならいいでしょ。それにこうやってくっついてる時点で約束も何もないと思うよ」
「うぅ……アンの意地悪」
「なんで!?」
ぷくっと頰を膨らませるリオナにおどおどするアンを見てサラは微笑みを浮かべて口を開く。
「ちなみに男の人ってどんな人だったの?」
それを聞いてリオナは満足したのかアンから離れてサラを指差す。
「私?」
首を横に振って答える。
「サラの好きな人」
「ええ!? アヒトにあったの?」
コクリとリオナは頷く。
すると、サラは唐突に立ち上がり、扉の方に体を向けて歩き出そうとして
「ああ! 行かせないよ!」
「……ッ!」
アンがサラの足にしがみついて歩行を阻止する。
「は、離して! 今ならまだアヒトが近くにいるかも」
「まだ課題が終わってないでしょ! 夏休みはもうすぐ終わっちゃうんだから今行ったらいつやるの!」
「帰ったらやるからぁ」
「そのセリフはやらないやつ!」
サラはアンを引き剥がそうとじたばたともがく。たまにアンの顔を蹴りつけたりしているあたり親友という二文字を疑いたくなる。
「うう……だめ、りっちゃん手伝ってぇ」
「はぁ」
リオナは大きなため息を吐いて、サラの上半身を抑えにはいる。
しばらく外に出ようともがいていたサラだが、さすがに二人がかりになるとどうすることもできなかった。
現在、サラは椅子に座らされ体を縛り付けられている。もちろん椅子の脚は机の脚に縛り付けてあり完全に動けなくしてある。腕は自由にしてあるが解こうものならすぐわかるのでサラは泣く泣く目の前の課題に取り組むこととなった。
「ありがとう。りっちゃん」
「アンのためならこれくらい余裕」
「ははは、何それ大袈裟だよ〜」
アンがリオナの言葉を笑って流したことにリオナは少しムッとした表情になったが今に始まったことではないので諦めることにした。
「じゃあ、うちらも課題を終わらせにかかろっか」
「うんっ」
「うぅ……アヒトぉ」
そうして三人は夏休みの課題に取り組み始めるのだった。




