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亜人娘が得たものは  作者: 戴勝
第2章
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第3話 亜人娘の住む場所は その1

アヒトが目を覚ますと白い天井が目に映った。


「……これはネタをやるべきなのか?」


 アヒトは自分の心に聞いてみたが自分の心なのでもちろん返答はなかった。


「……ん~っ、痛ってて」


 とりあえず起きて伸びをしようとしたが、体の痛みがひどくてできなかった。


「ちくしょう。亜人があんなに強いなんて聞いてないぞ、まったく」


 アヒトは愚痴りながら周りを見渡した。


「……保健室か……ん?」


「すぅー……」


 ふと右を向くと、そこにはアヒトが寝ていたものと同じような形をしたベッドの上でベスティアが頭に包帯を巻いて寝ていた。


「あれ、おれこいつにダメージなんか与えた覚えはないぞ?」


 なんで寝てんだよこいつと思いながら、アヒトは体の痛みに耐えながらベッドから降りてベスティアの寝ているベッドの横にある椅子に腰かけた。


「よく見るとこいつ、かなりかわいいじゃん」


 アヒトがベスティアの顔をしばらく眺めていると


「……ん」


 ベスティアが目を覚ました。


 ベスティアは起き上がり、周りを見渡して最後におれと目が合った。


「やあ、目が覚めたようだな」


「……ッ⁉」


 アヒトの存在に気づいたベスティアはベッドから勢いよく跳び退いた。


「落ち着けよ。おれは君と話がしたいだけだ」


 アヒトの訴えも耳に入っていないのか、ベスティアは必死に逃げ道を探している。そして窓が開いていることに気が付いたベスティアはそこから外に飛び出そうとして


「はにゃっ」


 見えない壁にぶつかった。


 アヒトは今のベスティアの行動を見て、ベスティアが寝ていた理由を理解した。


「やめとけ。君はおれからは逃げられないよ」


「うぅ~……にゃぜだ」


 ベスティアは頭を押さえて涙目になりながら聞いてきた。


「にゃ?なかなかかわいい言葉を使うじゃないか」


 ちょっとかわいかったのでからかってみた。


 するとベスティアの顔がみるみる赤くなっていった。


「な、なぜだ!」


 再びベスティアに問われたので、アヒトは正直に答えた。


「使役士は使い魔の行動範囲を制限できるんだ。逃げられたら困るからね」


「……じゃあ貴様を殺すまでっ」


 ベスティアは腰に下げていた短剣を一本引き抜いて、アヒトを殺そうと肉薄した。


「無駄だよ。おれを殺したら君もすぐに死ぬことになるからね」


 それを聞いてベスティアの動きが止まった。


 もちろんアヒトが今言ったことは嘘であるがそれをベスティアは知る由もない。


「ベスティアさんだったね。君には迷惑をかけた、本当にすまないと思っている」


 アヒトは頭を下げた。


 ベスティアは短剣を持った手をだらりと下ろし、よろよろとベッドに腰を落とした。


「けどな、召喚されたのならベスティアさんはおれの使い魔だ。これから一緒に行動してくれないかな」


 アヒトの言葉を聞いて、ベスティアは少しうつむいた。


 数分間二人の間で沈黙が続いた。そして


「…………でいい」


「ん?」


「ティアでいい。私の名前」


「ああ、わかった」


「勘違いしないで……私が少しこの世界を探検してみたいと思った、それだけ」


 ベスティアは視線を逸らしながらそう言った。


「はいはい、ところでこの世界っていうのは?」


 アヒトはベスティアの言葉に苦笑しながら疑問に思ったところを口にした。


「……空の色や景色を見るに、私はこの世界の住人じゃない」


 ベスティアの言葉を聞いて、アヒトは驚いた。


「へぇー、つまりティアは他の世界から召喚されたわけか」


「……ん」


「ところでティアはものすごく強かったけど、ティアの世界ではみんな強いの?」


「私は……強くない。足が速い、それだけ」


 アヒトが何気なく聞いた質問により、ベスティアの表情が無になった。


「そんなことないさ。ティアはすごく強かった」


「私は強くない。足が速い、それだけ」


「け、けど、おれは手も足も……」


「私は強くない。足が速い、それだけ」


「…………はい」


 いきなりリピート人形になってしまったベスティアにどう対処していいかわからないアヒトだった。


 普通に会話をしているときでさえ表情にあまり変化がないというのに、さらに表情がなくなると恐ろしさを感じる。


 ベスティアの過去に何があったのか気になったアヒトだったが、今聞いたところでリピート人形になってしまうだけだと思いやめにした。


「……もうこんな時間か」


 アヒトが窓の外を眺めていたのでティアもその視線を追うように窓の外を眺めた。


 空はきれいな橙色で彩られていた。


「行こうか、ティア」


「……どこへ?」


「学園寮さ」


 午後の授業を全部サボってしまったけど、今回はしょうがないと思いアヒトはティアを連れて帰宅するのだった。


 学園を出て数分歩いたところに学園寮がある。


「この学園寮は各生徒一人ずつに部屋が与えられてるんだ」


アヒトが帰り道に学園寮について説明しだした。


「一階と二階は男子寮で三階と四階は女子寮となってる」


 アヒトの説明を聞いたベスティアが質問してきた。


「……私は三階か四階、どっち?」


「ん?ティアはおれと同じ部屋だぞ」


「………………え?」


「だから、ティアはおれと同じ部屋なんだよ」


「………………え?」


「絶対聞こえてたよな⁉」


「私の知っている言語じゃなかった」


「そんなわけあるか!さっきまでと全く同じ言語で話してたよ!」


 ベスティアの表情が無になっていく。


「えっとだな、帰る前にグラット先生にティアの寝床について聞いたんだ」


 このままではまたリピート人形になってしまうことを恐れたアヒトは詳しく説明した。


「召喚された使い魔は学園にある魔物小屋が寝床になるらしいんだ」


「……魔物小屋?」


「いわゆる飼育小屋だな」


 アヒトの言葉を聞いたベスティアの無だった表情がどんどん青くなっていった。


「……そ、そんにゃの、いや」


 魔物小屋の中の惨状を想像したのだろう。


 ベスティアの話し方がおかしくなっていた。


「おれはティアがどっちで寝ようが構わないさ。次の日に獣の臭いをつけてくるのだけは勘弁だけど」

 アヒトの言葉でベスティアが涙目になっていく。


 ベスティアの表情を見てアヒトはドキッとさせられた。泣きそうな表情になったベスティアが普通に可愛かったのだ。


「そうかー、ティアはおれと同じ部屋が嫌なのかー。ならしょうがないか。ティアは魔物小屋だな」


 ベスティアの可愛さについ鼻の下が伸びそうになったアヒトはごまかそうとからかいの言葉を口にした。

 ちょうど学園寮に着いたのでアヒトはベスティアを置いて二階につながる階段を上ろうとする。が、制服の裾を引っ張られたことにより階段を上る足を止めて後ろにいる人物に目を向けた。


「……貴様の部屋でいい」


 照れているのか、頬が少し赤いベスティアをみてアヒトは苦笑した。


「じゃあ行こうか」


「……ん」


 そうして、二人は部屋に向かうのだった。


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