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亜人娘が得たものは  作者: 戴勝
第10章
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第1話 魔物が似せた人物は

「フォーゲル族?」


ベスティアが小首を傾げて訊いてきた。


「フォーゲル族ってのは人間を攻撃しない魔物なんだ。だから魔物の中でもかなり下の魔物だ。おれたち人間はこの魔物の体格と空を飛べるという利点を活かして他の国へ向かう人の荷物や貿易品といったものを運ぶ用に捕らえることが多いんだ」


アヒトは都会ではよく見かけていたが、野生のフォーゲル族を見るのは初めてだった。


「だけど、フォーゲル族にしては随分と小さいな。子供なのか?」


目の前に倒れている魔物は体長三メートル程しかない。アヒトの知るフォーゲル族はもっと大きかったと記憶している。


その時、死んでいると思われていた目の前に倒れている魔物からうめき声にも似た鳴き声が聞こえた。


「生きてる!」


ベスティアが急いで駆け寄って容態を確認する。


「ひどい怪我、それにやけど」


ベスティアはアヒトに視線を向けてくる。


「すまない、ティア。おれは治癒魔術は使えないんだ」


アヒトは申し訳なさそうに頭を掻く。


すると周りを警戒していたチスイが口を開く。


「何故助ける必要があるのだ。魔物であれば殺すべきだ」


周りの警戒でアヒトの話を聞いていなかったのだろう。アヒトはチスイに向けて答える。


「チスイ、さっきも言ったがこいつは人間に危害を加えない。むやみに殺すことはないと思うぞ」


「む……そうか……しかし」


チスイの中では魔物は全て敵であるという認識がついているのか、どこか煮え切らない態度で立ち尽くしている。


「どうにかならない?」


ベスティアにしては珍しく焦った表情をしている。


「周りにはおれたちしかいない。運ぶにも大きすぎて無理だ」


アヒトがそう言い終えた時、倒れていた魔物が首を起こして小さく鳴いた。


すると突然、魔物の体が輝きだした。


「うお!?」


「うっ」


「む」


視界が白く染まる。思わず三人ともが目元を腕で覆う。


………


………


そして、輝きがおさまった時、そこには一糸纏わぬ姿の少女がいた。


「へ?……ティア? うがッ」


その少女はベスティアによく似ていたことからアヒトはおもわず目を丸くして呟いた時、チスイによって頭を脇に抱えられて締め上げ――つまり、ヘッドロックされて思わず呻いた。


「下劣な奴め。一度お前の眼球を取り除く必要があるようだな」


そう言ってチスイはアヒトの頭に回した腕に力を入れる。


「ああああたたたた……それは目じゃなくて頭ああああ」


「何だ、本当に取り除かれたかったのか。ならばはやく――」


チスイは少女が倒れる音で言葉を止めた。


アヒトはチスイが腕を緩めた隙に頭を抜いて距離をとる。しかし、チスイは自分の腕からアヒトがいなくなっても気にもとめずに倒れた少女をじっと眺めていた。


「……大丈夫。気を失っている、それだけ」


少女が倒れてすぐに駆け寄っていたベスティアが容態を確認して伝えてくる。


それを聞いて安堵したのかチスイはほっと息を吐いた。


「しかし、その娘は何処から参ったのだ? どことなくチビ助に似ている。それに先の魔物の姿も消えているぞ」


チスイが少女に近寄り、己が羽織っていた藤色の羽織を着せながら聞いてくる。


「たぶん、この子が倒れていた魔物……それにここ」


ベスティアがチスイの疑問に答えて、その証拠を指差す。


チスイがそこに視線を向ける。そこは少女の腕の部分、そこには先程倒れていた魔物の翼と同じ白銀の色をもった小さな羽毛がいくつか生えていた。


「それに、この子の髪もティアと違って銀色だ」


チスイが少女に羽織を着せたため、アヒトは近づいてチスイに伝える。銀色ではあるが、少女の髪型はベスティアとほぼ同じである。背丈もほとんど変わらないだろう。


優しく吹かれる風によって少女の髪はさらりと揺れ、日の光によってまるで人間の髪ではないかのようにキラキラと輝いていた。


「む……それでは何か? 先の魔物はこのチビ助に化けようとしたということか?」


「ティアにある耳や尻尾がこの子にないが、おそらくそうだな。完全には化けることはできないみたいだが、この魔物の特殊能力はかなり優れてるんじゃないか?」


能力を引き継ぐかはわからないが、身の危険を感じたら他の生物に化ける事で逃げることができる。もしかしたら人間がフォーゲル族を捕らえすぎたことで生まれた能力なのかもしれないとアヒトが考えているとベスティアが口を開いた。


「とりあえず……この子、運べるようになった」


そう言ってベスティアはアヒトに視線を向けてくる。それにヤレヤレと諦めた感じでアヒトは嘆息する。


「わかったよ。病院に連れて行こう」


「んっ」


アヒトの言葉に弾むように返事をするベスティアに笑みを向け、少女を抱きかかえようと手を伸ばした時、アヒトの腕はチスイの手によって掴まれ止められた。


「ど、どうしたんですかチスイさん?」


腕を押しても引いても片手で掴まれているだけでビクともしないアヒトの腕に思わず敬語でチスイに尋ねる。


「この娘は私が運ぶのだ。お前みたいな奴に運ばせては何をするか分からんからな。それと私の羽織に触れるな。汚染されては困る」


「お、おせ……いったい何にだよ」


「そんなのお前の下卑た下心によるものに決まってるではないか」


「辛辣すぎるだろ! 君の中でのおれはいったいどんな人物なんだよ」


アヒトの質問にチスイはキョトンと首を傾げて当たり前のように答える。


「大の幼女好きで幼い女なら誰かれ構わず襲いにいく卑劣な男だ」


「お、おい! おれはそんな趣味はないし、一度も襲ったことはないぞ」


チスイの中の飛躍し過ぎたアヒト像に心をえぐられるアヒトだが、何とかこらえて反論する。


「おまけに嘘つきだ。今もチビ助をたぶらかして己の身を守るための盾として使っている」


「う、嘘はつくかもしれないが、別にティアをたぶらかしているわけでは――」


「そして何より、お前は誰よりも弱い」


「ぐはっ……」


アヒトの心にクリティカルヒット。地面に両手両膝をついてしまう。チスイの言葉によってほぼ確実にハートブレイクされてしまったアヒトは立ち上がることができない。


「ふん」


チスイはそんなアヒトを尻目に少女を抱きかかえて歩き出す。


アヒトが俯いたまま動かないでいると、肩をちょんちょんとつつかれて顔をあげる。


「ティア?」


ベスティアがアヒトの目線に合わせるように屈み込み、憐れみを含んだ笑みを浮かべて一言


「……どんまい」


と言った。


頼むからそんな表情を向けないでくれとアヒトはがっくりと首を落として


「……ダメじゃん」


と言葉を漏らすのだった。


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