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亜人娘が得たものは  作者: 戴勝
第8章
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第10話 男たち vs 最強を目指す女

カゲ丸を連れて遊んでいた狼亜だが、何を思ったのかカゲ丸を鍛えることになった。


「カゲ丸、お前は強くなれるのだ。なのにどうして弱いままなのだ?」


マヌケントを運んでいる最中にカゲ丸が話していたことを狼亜は言っている。カゲ丸は「強くなりたい」と言った。そして狼亜は「強くなれる」と言った。


「ここら辺にするのだ」


カゲ丸から降りて距離を取る狼亜。そしてカゲ丸の方を振り返る。


「これからカゲ丸には狼亜の力を分けるのだ。でもそれはカゲ丸自身が勝ち取らなきゃいけないのだ」


そう言うと同時に、狼亜の体に雷が纏う。頭とお尻には獣の耳と尻尾が生えている。


「キシャ!?」


突然の変容にカゲ丸は驚愕するが、その刹那の間に狼亜はカゲ丸の懐に入り込み、雷を纏った拳を叩き込んだ。








マヌケントは後頭部の柔らかさとふわっとした香りが鼻をくすぐったことで目を覚ました。目を開けると、赤いメッシュの入った黒髪の少女--アニと目があった。アニの後ろには青い空が写っている。つまり、現在マヌケントはこの少女に膝枕をされているということだ。


「あっ」


アニが気づいたように言葉を漏らした。


マヌケントはなぜこのような小さな少女に膝枕をされているのか、その原因となった出来事を思い出して素早く少女の膝から転がり退いた。


「お兄ちゃん大丈夫? 海に溺れてたってきいたよ?」


マヌケントはコクコクと頷いて立ち上がる。


そこにカゲ丸と狼亜が戻ってくる。


「あっ、マヌケント! 起きてるのだ! 無事でよかったのだ」


マヌケントが首を傾げる。おそらく自分の名前をなぜ知っているのかと考えているのだろう。


しかし、カゲ丸がマヌケントの顔を舐めて来たため、マヌケントは思考をやめてカゲ丸の体を優しく撫でてあげる。


そんな一人と一匹を眺めていたアニはカゲ丸の所々に火傷の跡があることに気づき、いったいどんな遊びをしていたんだと訝しむが、カゲ丸の表情から危険なことはしていないのだろう。


そして、マヌケントは助けてくれた少女二人に何度も頭を下げる。カゲ丸も狼亜に軽く鳴いて頰を舐める。


「気にすることないのだ。狼亜は当然なことをしただけなのだ!」


その言葉は自分に向けられたものだと解釈したマヌケントは改めて狼亜に頭を下げる。


そして、最後に膝枕をしてくれた少女に深々と頭を下げて立ち去るべく、歩き出した。途中、ラッシュガードを羽織った黒髪の少女が焼きそばを片手に通り過ぎて行ったが、マヌケントは気にすることなく歩いて行った。


「で、男性に始めて膝枕した感想はどうっすか?」


サグメはアニに囁くように訊く。


「いや……別に……」


アニは今更意識したのか顔を赤くして俯く。


「そんなに意識してるんすか?」


「なんで膝枕なんかしたのかなって……」


「惚けてるんすか」


「そ、そんなわけないでしょ! あとサグメちゃんのことデュランお姉ちゃんと鍔鬼お姉ちゃんが探してた」


「……まじ?」


冷や汗を流すサグメをよそに怒ったアニはサグメとは口をきかないことにした。


そして、しばらく砂浜を歩いていたマヌケントは、バカムとアホマルが肩を落として歩いているのを見つける。マヌケントは二人に駆け寄ると、二人も気づいたのか視線をこちらに向ける。


「おい、マヌケント。お前今までどこにいたんだよ」


バカムの言葉に苦笑いでマヌケントは誤魔化す。


「それより、マヌケントの方は良い女に会えたんすか? こっちは散々だったんすよ」


アホマルの質問に少し頰を掻いて照れるマヌケント。


「まさか! お前……どの女だ⁉︎」


バカムがものすごい剣幕で詰め寄って来る。しかしマヌケントは照れるだけで何も答えなかった。


「くそが、なんでお前だけ良いことしてんだよ」


バカムがそう毒づいたとき、出店の方向から拡声器を使った声が聞こえて来た。


「はぁい、午後からアームレスリングの女子の部をはじめるわよぉん。男子はその後ね〜。エントリーしてない子はまだ間に合うからおねえさんに声をかけてね〜」


「兄貴! ちょっとストレス発散に行ってきていいっすか!」


アホマルが興奮した表情で訊いてくる。


「俺も行くぜ。マヌケントは罰としてここで見てろ!」


「ヤっちまいましょう兄貴!」


マヌケントはバカムに敬礼する。


「なるほど、アームレスリングですか。これは強者と出会える気がしますな」


「げっ、ロシュッツ! お前いつから居たんだよ」


ロシュッツは腕を組んで佇んでいた。はじめに会った頃の白い肌は何処へやら、かなり肌が茶色く染まっていた。


「またお会いしましたな。わたくしもこのイベントに参加させてもらいますぞ。対敵した場合はよろしくですな」


ふははははと笑いながらロシュッツは出店の方へ向かって行った。


「ちっ、ぜってえ負けねえからな! 行くぞアホマル!」


「は、はいっす!」


バカムとアホマルはロシュッツを追いかけるように出店の方へ駆けて行った。


しばらくして、女子の部が終わる。


「次の試合は十分後。男子の部を始めるわよん。期待しててね」


そう言って、このイベントの司会を務めていたロマンは会場の裏で一息つく。


「なぁ、その試合あたしも出れんのか?」


突然声をかけられたので視線を向けると、銀髪の女性が立っていた。


「あんらぁ。女の子の部はもう終わっちゃったわよん」


「わーってるよ。それでもさ、あたしが出れば盛り上がるぜ」


ロマンはその女性の体つきを見る。確かに全体的にバランスよく引き締まった筋肉をしているが、それだけである。本当に盛り上がるのか決め手に欠けたロマンは自分の身につけていたエプロンのポッケの中から自作のハンドグリップを取り出して女性に渡す。


「うふふ。これを握れたら出場してもいいわよん」


このハンドグリップはロマンの筋トレ用のハンドグリップである。そこらで売っているものとは強度が遥かに違う。


それを左手で受け取った女性は右手に持ち変えてニヤリと笑う。そしてゆっくりと握られた右手のハンドグリップから鳴ってはならない歪な音が鳴り、ついには、ロマンのハンドグリップを女性の拳の形に変形させてしまった。


「これでいいな」


使い物にならなくなったハンドグリップを女性はロマンに返す。


「なかなか硬かったぜ。この倍くらいの硬さがあればあたしの訓練用に一つ欲しいくらいだ」


(これの倍……あたしでも握れないわよ。自作のハンドグリップがこんなになるなんて)


ロマンはハンドグリップを見つめながら去っていく女性に声をかける。


「訓練用と言ったけれど、そんなに強くなって何が欲しいのかしら?」


その質問を聞いた女性は間髪入れずに迷うことなく左手で天を指さし、首だけを動かして答えた。


「最強」


とてもシンプルな二文字を口にした。


「誰にも奪わせない、誰にも傷つけさせない、誰にも悲しませない。絶対的な力、誰でも守れる力そして何者にも怯えぬ心。それらを持つ者を総じてこう呼ぶんだぜ。『最強』ってな」


男のような分厚い背中を持たない、かわいいほどの華奢な背中が、今、この時のロマンにはとても大きく、何よりも美しく感じ、その瞳に焼きついた。


「出場を許可するわ。名前を教えてちょうだい」


「リーダムだ」


「リーダムちゃんね。せいぜい楽しんでちょうだい」


それを聞いたリーダムは口元に笑みを浮かべて会場裏を出て行った。


それを見送ったロマンはそっと瞳を閉じて


「面白い世の中になったわね。まさか人間以外のものに心打たれるなんて……」


そう言ったロマンの口元はとても優しい笑みを浮かべていた。


しばらくして休憩時間の終わりと試合開催のアナウンスが流れた。


それを聞いて客がワイワイと集まってくる。


ステージに立ったロマンはその筋肉とは裏腹にクネクネと体を動かしながら司会を行う。


「ここで飛び入り参加の子を紹介するわよぉおん! リーダムちゃぁああん」


飛び入り参加と聞いて緊張していた参加者の男たちは、やって来たのが女だと知って胸をなでおろす。だがその安心もつかの間、一回戦でリーダムと当たった男はアホマルだった。


「オレが勝ったらお姉さんはオレの言うことなんでも聞くってことでどうすか?」


アホマルは目の色を変えて賭けに出た。が、ゴングが鳴った瞬間、アホマルの体が宙に浮く。


手の甲が机についたと思いきや回転しながら「人間砂浜水切り」をする羽目になった。人間が水切りの如く砂浜を飛び跳ねる様子を見た参加者は


(まともにやったら死ぬ!)


と確信した。それからは放棄するか諦めた特攻ばかりする者ばかりだった。


それを見ていたバカムは何が何でも勝とうとして、始まった瞬間手首を自分側に捻るようにして倒そうと試みたが


「あ?てめえ、そんなことして恥ずかしくないのか?正々堂々と戦えや!」


リーダムが手を握る力を強めた瞬間、バカムの手から肘までの骨が一瞬で砕け、握りつぶされた。その試合はバカムの悲痛な叫び声だけが場に響いて終了した。


そして決勝戦。


勝ち残ったのはリーダム、そして


「この圧……あなたとは素晴らしい戦いを行えそうですな」


腕を組んで立つ、黒髪の青年----ロシュッツだった。


「あたしも同じ意見だな。てめえとは楽しくやれる気がしてたんだ」


両者共に口角を上げて笑みを作る。


「真正面からぶつかり合う楽しく正々堂々とした戦いをしましょうぞ!」


「もちろんだ。手加減とか遠慮とかすんなよ」


そう言い終えた時、司会のロマンが口を開く。


「お楽しみの決勝戦を行うわよん。赤コーナー、リーダム! 青コーナー、ロシュッツ・キョウナー! 始めるわよ!」


その言葉を聞いてロシュッツが全身の体に力を入れる。すると、着ていた服が全て弾け飛び、ブーメランパンツのみの姿となった。鬘も吹き飛び、日の光でスキンヘッドが光沢のように輝く。


「行きますぞ」


「あぁ来いよ」


二人が腕を組み、開始のゴングが鳴る。それと同時に両者の腕に血管が浮き上がるが、二人の組んだ手は微動だにしなかった。観客席でどよめきが起こる。しばらくその状態が続いたが、突如勝敗を決める机から「バキッ」という音が鳴り、粉砕した。互いの力が拮抗し、肘を支点に両者の腕の力が机にかかったことで耐久できずに砕けたのだ。


しかし、机が破壊されてもなお、空中でのアームレスリングが続いていた。のだが、その試合は途中で中止となった。なぜなら、勝敗を決める机がないからという事だった。


「ふー楽しかったぜ」


と、リーダムは満足げに言う。しかしロシュッツの方は


「もう一度、もう一度だけお願いできますかな? わたくしは勝っても負けてもおりませぬぞ!」


とロマンに詰め寄って抗議をしている。だがリーダムはロマンとロシュッツを無視してこの場から消えるように立ち去るのだった。


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