第4話 考えることは皆同じ
「海に行こー!」
「おー」
サラが寮の自室に戻ってきた直後にアンとリオナが押しかけて来て、唐突に一枚の紙を広げながら今の言葉を口にした。
「え、えっと……え?」
いきなりのことで理解が追いついていないサラは頰を引きつらせながら小首を傾げる。
「海だよ、う・み!最近暑くなってきたでしょ?だから、あたしら三人で遊びに行かない?」
改めてアンはサラに説明し、誘いをかける。
それによってようやく理解が追いついたサラはなんとも間が悪い状況に「あー」と言葉を漏らし、申し訳ないといったような困った表情をアンに見せる。
その表情を見たアンはすぐに理解する。
「あ、もしかして……アヒトさん?」
「うん、一緒に海に行かないかって誘われちゃった」
確かに、海への誘いの言葉はアヒトの口から出てきたものだが、サラ一人に向けて口にしたわけではない。しかしそんなことはアンとリオナにはわからないため、言葉通りに理解する。
「すごいじゃん! かなり距離縮まってるんじゃない?」
「う、うん、そうだといいけどね」
サラは少し頰を赤くしながら両手の指を絡ませて遊ぶ。
「じゃあ、サラちゃんは水着でアヒトさんを落としに行くんだね。勝ったようなもんじゃん」
「うん、サラなら余裕」
アンとリオナは同時にサムズアップする。
「そんなことまだ分からないよ。どうして勝てると思うの?」
「そんなの決まってるじゃん。水着を着るってことはサラちゃんの二つの最強兵器が外にさらけ出されるってことでしょ?負けるわけないじゃん、世の男全員を落とせるかもよ」
「さらけ出すって……いや、間違ってるわけじゃないんだけど、なにか違う!」
サラは胸元を両手で隠しながら訴える。
サラの胸は普通の人より大きい方だ。そしてサラ自身もそのことを理解している。実際に、ベスティアとチスイが始めて戦った時にやって来た警備兵から逃れることができたのは、サラが上目遣いに腰をかがめ、両腕を胸の下に入れて押し上げるようにしながらお願いしたからである。おかげで警備兵は鼻の下を伸ばしながら受け入れてくれた。
サラは自分の武器の使い方をしっかりと理解しているのだ。しかし、アヒトの前になるとどうしても使えなくなる。武器を使わない、ありのままの自分を見て欲しいのかもしれない。だが、このままではまずいということも理解している。日が経つにつれてアヒトとベスティアの距離がどんどん近づいて行っていることは一目でわかるからだ。この夏休みで仕掛けるしかないのかもしれない。
「頑張れ! サラちゃんならできるよ。てことで、あたしらは今年の海は諦めるよ。サラちゃんがいなかったらなんか物足りないしね」
アンがそう言い終えた時、ゴトンとリオナの腕から本が滑り落ちる。
「ん? どうしたのりっちゃん」
「はっ!いけない、本が傷んじゃう」
リオナはいそいそと本を拾い上げる。
リオナは自分と二人きりではダメなのかと肩を落としながらゆっくりと立ち上がる。
「ごめんね、二人とも。また来年一緒に行こ!」
「大丈夫、大丈夫。サラちゃんは楽しんできて!じゃああたしらは今日は帰るね」
「あ、泊まらないんだ。てっきり泊まると思ってたよ」
アンはリオナの背中を押しながら玄関に向かい、途中で振り返る。
「やることを思い出したんだ」
「そうなんだ、じゃあまたね」
何か用事があるのならしょうがないと思い、サラはアンとリオナに手を振って見送る。
「うん、おやすみ」
「……おやすみ」
そう言ってアンとリオナはサラの部屋から出て行った。
ガチャリと扉が閉まると、サラは一息ついて、ゆっくりとベッドの方に向かいそのままうつ伏せに倒れこむ。
そして海での出来事を想像してだらしなく頰を緩ませながら眠りにつくのだった。




