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亜人娘が得たものは  作者: 戴勝
第8章
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第1話 知ることのない出来事

夜空に満天の星々が輝いている。


雲ひとつないその空にまるで闇に紛れるかのようにして黒い船体が宙を飛んで行く。


「今回の任務はネコ族の殲滅。魔王様直々の任務だから失敗はしないようにね」


空間に魔法陣が浮かび上がり、そこから女性の声が聞こえてくる。その声はとても穏やかで安心感を与えるような声だった。


「なんで『ヘキサグラム』がこの任務を? こういった任務は『エンフォーサー』がやるんじゃなかったか?」


煙草のような物を吸いながら飛行船の出口から体を乗り出して、魔法陣から聞こえる女性に質問する。


左手を出口の上について右手で煙草を支える銀髪の女性は睨むように降下地点であるネコ族の村を見下ろす。


「『彼女たち』は今回、都合が合わなくてね。運悪くこっちに回ってきたってわけ」


「ふーん。ま、そーいうこともあるよな。……ふぅ〜」


「また煙草かい? あまり体に良くないよ」


「いいんだよ。あたしが吸ってんのは呪い除けのなんだから」


そう言うなり、銀髪の女性は煙草を握りつぶして飛行船から飛び降りた。


飛び降りた高度はかなりある。だが、女性の服装は防寒などという概念がまるでないかのように軽装だった。唯一背中に背負っている不気味な大剣だけが重く感じられる。


それもそのはず、彼女の能力は『形質変化』というもの。彼女に触れているすべての形体、性質を変化させることができる。


「一発でかいの行っとくか。……『魔術大砲(マギ・カノーネ) ver(ヴァージョン) 8.8(アハトアハト)』」


左手を真下にかざす。落下して地面が見えたと同時に左腕から拳ほどの直系のレーザーのようなものが発射され、そのレーザーが地面に着弾し、派手な音とともに巨大なクレーターを作り出す。


そして、放った本人は逆噴射の要領で落下の勢いを殺し、颯爽と地面に降り立った。


突如爆発した音とともに現れた女性にネコ族の住人、特に女や子どもは家の中に入ってしまう。


「だ、誰にゃり⁉︎ おまえさんたちそいつを囲め!」


村の長だと思われる人物が男たちに指示を出す。


「あたしはリーダムだ。覚えなくてもいい。なにせ女、子ども見境なく皆殺しだからよ。お前らの血統はここでしまいだ」


リーダムと呼ばれた女性は屈強な男たちに囲まれても一切怯むことはない。


「り、リーダムってまさか、あの『ヘキサグラム』のリーダム・ノックかにゃ⁉︎」


男たちの中の一人がそう言葉にしたことで、皆一斉に後ずさる。


「はっ。男がだらしねぇ動きしてんじゃねぇよ。今時混血種を迫害してっからあたしみてぇな奴が送り込まれるんだ。以前も忠告が入ったはずだが、気づかれないとでも思ったのか? 忠告を聞かない愚か者には制裁を。それが世の常だ」


わざわざネコ族に説明した後に周りを見渡し、最初の一撃で村の唯一の出入り口を占拠できたことを確認する。


「そ、それはネコ族の掟だからだにゃ! お前らにとやかく言われる筋合いはにゃい!」


「……最後に言い残すことはそれだけか?」


「うっ……」


リーダムは大剣を構え、横に一振り。


男たちとリーダムの間合いはかなり開いているのだが、そんな事お構いなしと言わんばかりに大剣が鞭のようにうなり、囲んでいた男たちの首を一気に跳ね飛ばしていく。


途中、跳ね飛ばした首がリーダムの元に降ってきたため、それを手で掴み、握りつぶす。脳髄と目玉が飛び出し、ぐちゃぐちゃにつぶれた肉塊を地面に叩きつけた。


「悪りぃな。これが任務だからな。どうせなら全員元の形がわからなくなるくらいまでミンチにさせてもらうわ」


「ひっ……! いいああああああ」


情けなく叫びをあげて逃げ出すネコ族たちを次々となんの苦労もなく、ただの清掃作業のように殺していく。


時折、恐怖を抱いていながらも果敢に立ち向かう者もいたが、その攻撃が届くよりも速くリーダムの拳が軽く振り抜かれ、それだけで体の大半を消し飛ばされ、絶命する。


「くっそがああああああ」


ネコ族の一人が弓を構える。近接戦がダメなら遠距離でという考えなのだろう。普通ならばその考えは正しい。だが、ここにいるリーダムという女性は普通ではない。


リーダムの元に矢が迫るが、彼女自身気にした様子もなく、ただ単調に大剣を振ることで矢をへし折る。そして、その残骸を掴んだリーダムは矢を放った者のもとへ高速で投げつける。


「うっ……?」


飛んできた矢の残骸は急所に当たることなく、ただ肩や足に刺さっただけだった。


しかし、リーダムが一言


「……『枝袋(ブランチ)』」


と言葉にすると、体に刺さっていた矢の残骸は体内で枝が成長するかのように肥大化と枝分かれを繰り返し、その体を突き破った。さらに


「家ん中に隠れてても無駄だからな。『憑火(エルプション)』」


リーダムは家の壁面に手を触れて言葉にすると、その家は噴火のごとく燃え上がり、その火は中にいる人に取り憑くかのように襲いかかり、叫び声を上げる間も無く一瞬で火だるまにしてしまった。


そうしていつのまにか、その村に残ったのはリーダムと腰を抜かして動けなくなった村の長だけだった。


「た、たた頼むにゃり! 助けてくれっ」


「それは聞けねぇ頼みだな。お前みたいなクズが村長やってっからこんなことになるんだ」


そう言ってリーダムは大剣の剣先を村長に向ける。


「あぁ……ゔぁあああああああ」


グシャッと頭を一突きにし、そのまま乱雑に放り投げる。


そして静かになった今では村とは呼べない廃村の中心でリーダムは佇む。


ふとリーダムの耳元に魔法陣が浮かび上がり、声が聞こえる。


「すまないね。こんな仕事をさせて」


「何のことはねぇよ。あたしは軍人。人を殺すことが仕事だ」


リーダムは懐から煙草のような物を取り出し口にくわえる。


「それでもだよ」


「あいつらのしてきたことは反社会的な思想を持つ亜人を生み出す可能性がある。受けた憎しみとか恨みは利用されやすいからな。どうせ摘み取る花だ。だったら根っこを燃やした方が手っ取り早い。魔王様の考えさ。あたしもそれには賛成だ。あんたもそうだろ? ルシア元帥。あたしは意味不明なことで生まれた憎しみや恨みを関係ねぇ奴に伝播させたり、八つ当たりさせたりはしたくねぇのさ」


「リーちゃんは優しいんだね」


からかうようなその一言にリーダムはただ一言答えた。


「んなわけ」


その声は照れているようにも感じられたが、リーダムの率直な自己評価であるようにも取れる声だった。


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