第1話 亜人娘が来た場所は
入学式があった日から一週間がたち、この日の授業は一年の生徒にとって待ち望んでいた日であった。それは、この日が使役士育成学園の一年生が初の召喚魔術を行うからだ。
「よお~アヒト。今日は使い魔を召喚する日だなあ~。おめぇはどんな使い魔を召喚するつもりだ?」
「どうせ召喚しても使えないやつっすよね」
「ヤっちまいましょう兄貴」
--はあ……
アヒトは始業式の日以降からこのよくわからない三人組に絡まれるようになってしまった。こいつらのせいでアヒトの周りには人が集まらず、友達と呼べる人ができないでいた。アヒトに話しかけてきた順にバカム、アホマル、マヌケントという名前らしい。
「ま、どんな奴を召喚しても俺が召喚する使い魔には勝てないだろうよ」
「さすがっすね」
「ヤっちまいましょう兄貴」
バカムは召喚する使い魔にかなり自信があるらしい。顔芸選手権があるなら間違いなく優勝を取ることができるほどの迫力のあるドヤ顔を披露している。
「あのな、おれに関わるのはよしてくれないか」
アヒトは、このままこいつらと関わっていたら一生友達ができないと思い提案した。しかし逆効果だったようで、バカムの額から青筋が浮かんだ。
「あぁ?んだよ、優等生が調子乗ってんじゃねぇぞ、ゴラァ‼」
今にも殴り合いが発展しそうな雰囲気の中、教室の扉が開かれ、担任のグラット先生が入ってきた。
「はいはい全員席に着けー」
その言葉を聞いてほかの生徒は自分の席に着き始めた。
「ちっ、覚えてろよクソが」
バカムはアヒトに向かい捨て台詞を吐いてアホマルとマヌケントの二人を連れて自分の席に戻っていった。
「今日はお前たちの将来付き添っていくパートナーとなる使い魔を召喚してもらう」
グラット先生が話をしている間も突き刺さってくるバカムの鋭い眼光にアヒトは思わず頬を引きつらせるしかなかった。
「召喚する方法はいたって簡単だ。召喚するための魔方陣が描かれている場所に移動してもらう。そこで自分の召喚したい魔物を頭に思い描くだけだ。小説などでよく使われる召喚媒体などは必要ない」
召喚用の魔法陣さえ描いてしまえば召喚術がいたって簡単にできてしまうことから召喚用の魔法陣の描き方は教えられず生徒にも知られていない場所に厳重に保管されているらしい。
「よし、時間も限られているからとっととやってしまうぞ」
そう言って、グラット先生はある呪文を口にした。
「……『転移』」
直後、教室の床が淡く光りだした。
「これはっ……転移魔術⁉」
「よくわかったな、アヒト・ユーザス。お前には加点しておいてやろう」
グラット先生の言葉が終わると同時に教室にいた全員が、おそらく魔法陣が保管されているであろう場所に転移させられた。
……
……
光が収まり、視界が明けたのでアヒトは周りを見渡した。
周りは森で囲まれ、広さは教室と同じくらいだ。上空を見上げれば薄い膜が張られているのが分かる。どうやら結界魔術かそれに類似した何かの術だろうとアヒトは思った。
「全員いるな。ついてこい。この先に召喚するための場所がある。」
グラット先生は自分の背後を指さした。そこには一通の道があった。
生徒たちはグラット先生の指示に従い歩くこと数分。そこには学園のグラウンドをはるかに超えた広さをもつ荒野があった。
「めっちゃ広いじゃねえか」
この感想を抱いたのはおそらくアヒトだけではないだろう。クラスメイト達も驚きの表情を浮かべている。そんなことを思っているとグラット先生が説明をし始めた。
「ここが召喚場所だ。見ての通りかなり広いからくれぐれも遠くには行かないようにお願いする。さて、召喚だが、生憎魔法陣は一つしかなくてね。一人ずつやってもらうよ。召喚したら、使い魔となる魔物にこの隷属の首輪をつけるように」
そう言って生徒たちに隷属の首輪を配り始めた。
隷属の首輪は使い魔を従えさせるだけでなく、主人との信頼性を強くしてくれる効果も含まれている。召喚された時点で召喚された側は主人が決めた一定範囲内から外に移動することはできないため、別につけなくてもいいのだが、信頼関係が低いために戦闘時に指示に従わないということになってしまう確率が高い。そのため首輪をつけるのが良いだろうと言われている。
「よし、じゃあやりたい人から一人ずつ魔法陣のところに行こうか」
そうして召喚魔術の時間が始まった。
召喚する使い魔は人それぞれである。鳥やライオンといった動物園にいるようなものでもその生物が魔力を持っていれば魔物とみなされる。クラスの女子などはウサギやネコみたいな小さく素早い、かわいい系の魔物を召喚する人が多いようだ。一方男子はライオンのような魔物や蛇かトカゲかわからないような魔物などといった強さやカッコよさのある魔物を召喚する人が多いようだ。
「ふんっ、どいつもこいつも雑魚ばっかりだな」
「兄貴はまだ召喚してないんすか?」
「ヤっちまいましょう兄貴」
バカムが魔法陣のほうに歩いていくところをアヒトは眺めていた。どんな魔物を召喚するか気になったのだ。
魔法陣の前に立ったバカムは目を閉じ、眉間にしわを寄せながら召喚し始めた。額に汗の玉を浮かばせてかなり細かいイメージを構築しているようだ。
「シャオラアアアアッ俺の使い魔出てこいやあああっ!」
目をカッと開き叫びながら召喚を行ったバカム。はたして何が召喚されたのか……
魔法陣が光だし出てきた魔物は、黒い鱗に鋭い爪をもった巨大な足そして力強い羽とどんなものでもなぎ倒しそうな尻尾----つまりドラゴンだった。
「うおっしゃあああ。成功だぜっ」
バカムの叫ぶ声に合わせるかのようにドラゴンも咆哮を放った。
「まじかよ。ドラゴンって魔物に入るのかよ」
正直、召喚する魔物として一番強い魔物はドラゴンのような気がする。バカムの場合、召喚するイメージが繊細かつ具体的であったために召喚に成功することができたのだろう。
バカムはドラゴンの手首に隷属の腕輪をつけた。どうやらドラゴンの首の太さでは隷属の首輪はつけられなかったのだろう。
「最後は……アヒト・ユーザス!お前だけだぞ」
どうやらいつの間にか最後になっていたらしい。しかしどうしたものかと思案した。召喚するイメージを何も考えていなかったからだ。
アヒトは魔法陣があるところへ向かいながら考えを巡らせた。
とりあえず強いやつにすることとしてもアヒトは使い魔があまり好きではないのだ。なにせ大概の魔物が毛で覆われているからだ。
「せめておれが将来的に愛着や愛嬌を抱くことができるようなやつを召喚するか」
強くて毛むくじゃらではなく、自分でも好きになることができる奴というあいまいなイメージで召喚することにした。
魔法陣の前に立ち、イメージを行う。すると魔法陣が光りだした。
こんなイメージでも魔法陣が起動してくれることに驚き、どんな魔物が出てくるかという期待を少し抱きながら光る魔法陣を眺めた。
そして出てきたものは……女の子だった。
「は?」
「え?」
アヒトから出た言葉と相手から出た言葉は同時だった。
背丈はアヒトの肩あたりまでの子で、よく見るとただの女の子ではないようだ。頭にはかわいらしい三角の獣の耳、お尻からはふわふわの尻尾が生えていた。
「あ、亜人?」
しかしアヒトが知っている亜人はもっと獣感が出ていたはずだ。まさに動物そのままを擬人化したようなものがアヒトの知っているこの世界に存在する亜人だった。
「ていうか、え?さっきも似たようなこと言ったけど、亜人って魔物に入るの?この魔法陣、召喚範囲広くね?」
おそらく魔法陣がアヒトの思考を読み取り、そこらの魔物では好きにはならないだろうと解釈し、人に近い亜人を選んだのではないだろうか。今となってはもうわからないが。
相手の女の子は未だに状況を飲み込めていないのか呆然としている。
「そ、そうだ。と、とりあえず隷属の首輪を」
アヒトは隷属の首輪を取り出して亜人の女の子に近づいた。
「……っ。近づくなっ」
アヒトが動いたことで我に返った亜人の女の子は後ろに大きく跳び退いた。
アヒトは顔を引きつらせつつどうしたものかと思案した。
あれは絶対に首輪をつけてもらえないやつだ。
亜人の女の子はアヒトを睨みつけながら唸り声をあげて威嚇している。
「これは驚いた。まさか亜人が召喚されるとは」
グラット先生が驚きながらアヒトたちに近づいて来た。
亜人の女の子はグラット先生にも視線を移して威嚇する。
「おっと、すまないすまない。君を故意に召喚したわけではないのだよ。しかし君は召喚されてしまった。それじゃあ提案しよう。一つ彼と勝負をしてみてはどうかね」
「えっ」
「……」
確かに、この世界の亜人は魔力を持っているが人間よりはるかに弱い。そのせいで人間に捕らえられ奴隷として売り飛ばされてしまうのだが。
「彼が勝てばこの首輪をつけてもらうよ。逆に君が勝てばこの首輪をつけるもつけないも君の自由さ。意思は大切だからね。勝てば君の好きにするといいよ」
グラット先生の提案に亜人の女の子は
「……わかった」
乗ってしまった。
「まじかよ」
「ここは魔法陣があるからね。少し移動しようか」
グラット先生はそう言って移動し始めた。
設定が浅いですね(笑)もっと妄想力を鍛えねば……。
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