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亜人娘が得たものは  作者: 戴勝
第7章
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第4話 刀少女の能力は

「はじめ!」


それを聞いて最初に動いたのはベスティアだった。


高速で駆け出し、チスイとの距離を一瞬でないものとする。


その動きに慌てることもなくチスイは冷静にベスティアの首を狙って横薙ぎに刀を振るう。


だが、チスイの刀は空振りで終わる。そのことにチスイは眉をしかめる。


突如、先程まで見えていたベスティアの姿が見えなくなった。刀を横に振り切った態勢のチスイの頭上に影が射す。上を向けばそこには先程見えなくなったベスティアが存在し、チスイにボレーキックのような空中からの回し蹴りを放ってくる。


「――ッ!」


咄嗟にチスイはしゃがみ込んで横に跳び転がる。そしてすぐに体を起き上がらせてベスティアの着地を狙って斬りかかる。


ベスティアは着地と同時に足元の空間を裂いて『無限投剣』を下からチスイの喉元にめがけて射出した。


「ッ⁉︎……ちっ、小癪」


チスイは舌打ちをしながらも刀でナイフを弾く。しかし、それによってチスイの胴に隙ができる。そこに向かってベスティアが拳を突き出す。


「あまいッ!」


チスイはベスティアの拳を足裏で受け止め、そのままベスティアの拳を踏み台にして後ろ回し蹴りを放った。


ベスティアは頭に向かって放たれた蹴りをしゃがんで躱し、宙に浮いた状態のチスイの足を払い除ける。


「うぇ⁉︎」


払い除けられたチスイはうまく着地することができずに盛大にお尻を地面に打ち付けた。涙目になってお尻に手を添えようとするがベスティアが追撃の『無限投剣』を投げつけてきたため、やむなく片手を後方の地面につき、それを主軸に両足で地面を蹴り上げることで体を回転させて後方に避難する。


「あたたた、お尻が……やるではないか、チビ助」


「……不快、その呼び方は訂正するべき」


ベスティアの言葉に聞く耳持たずチスイは涙目で口を尖らせてお尻をさすっている。お尻を触りながら「痣にならぬといいが……」という呟きも聞こえてくる。


ベスティアの額に青筋が浮かぶ。


「うわぁ、ティアのあんな表情見たの初めてかもな」


アヒトは苦笑いを浮かべながら言葉を漏らした。


ピクッとベスティアの耳が動き、アヒトの方にギロリと視線を向けて睨みつけてくる。


「あはは……」


アヒトは頰を引きつらせながら一歩後ずさる。しかしベスティアの鋭い眼光はアヒトを捉え続ける。今にもベスティアの背後から黒い何かが出てきそうな程である。


そんな事をしていると、チスイが勢いよく自分のお尻を叩いた。


アヒトとベスティアの視線が同時にチスイの方に向く。


「うむ、今気にしてもしょうがないな!……チビ助、お礼に良いものを見せてやる!」


チスイは瞼を閉じて左足を前に出し、刀の剣先を後方の地面に向けて腰を深く落とす。そしてゆっくりと息を吸い込む。


ベスティアは背筋に冷たいものが走る感覚を覚えて構え直す。


「……波平流剣術・斬の型……」


カッと目を見開くと同時にチスイはベスティアに向かって土煙を上げながら地を蹴る。そしてベスティアの首にめがけて刀を下から上に振り抜く。


ベスティアはギリギリのところで横に跳んで躱し、次の攻撃に転じようとする。しかし


「……『蓮角(れんかく)』ッ」


「……ッ⁉︎ ぐっ」


突如、ベスティアの肩から血が吹き出した。衝撃でベスティアは地面を転がる。


「ティア!」


アヒトは地面を転がったベスティアに声をかける。すぐに体が動き始めたことから深い傷ではなかったようだ。それとも『即死不可』の術の効果が発動して傷を浅くしてくれたのかもしれない。


「ふむ、外したか……私もまだまだのようだな」


ベスティアは地面に手をついてゆっくりと起き上がり片膝立ちになる。自分の肩に手をおいて状態を確認する。傷口は刀で斬られたような形をしている。


ベスティアは眉をひそめる。一体何があったというのか。ベスティアは確かにチスイの攻撃を避けた。実際、振り抜いた構えを解いてこちらに視線を向けるチスイの持つ刀にはベスティアの血は一滴も付いていない。肩から血が吹き出すまで痛みすら感じなかった。ベスティアの顎の輪郭に沿って汗が伝う。


「何が起こったのか分からぬといった顔をしているな」


チスイがベスティアとの距離を少し開けたところで立ち止まり話し始める。


「特別に教えてやるぞ、チビ助。この刀の銘は妖刀『幻月(げんげつ)』。あるお方から貰い受けたものなのだ。この刀は何やら触れた場所を増幅させることができるらしく、先程己の肩から血が出た理由もそれであるぞ」


「……触れた場所を、増幅?」


「うむ! この刀は空気を凝縮して刃を形成し、刀身を伸ばしたのだ」


ニカッと歯を見せてチスイは笑みを作る。


なんて卑劣な刀なんだろうか。チスイは「正々堂々」と言っていたが、刀がまったくもって「正々堂々」としていない。本人は宣言通りに戦っているのだろうが、なぜか納得できないでいるベスティアがそこにいた。


「む……なぜそのような苦虫を噛み潰したような顔をしているのだ。私に勝てないとわかって悔しがってるのか? やはり、おまえは大したことなかったか」


チスイは肩を落としてベスティアから視線を外す。


「……てない」


「む?」


「負けてない! 勝負はこれから!」


ベスティアは立ち上がりチスイを睨みつける。


「ふむ、威勢だけは良いな。良いだろう、相手してやる」


チスイは刀を片手で持ち、剣先をベスティアに向ける。そして


「来い!」


その言葉を聞いてベスティアは高速で駆け出した。

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